たくさんの生徒に囲まれて
「ええっと……これ、全部が入学希望者なんですか?」
私はお義母様に渡された紙を見てそう言う。
なにせ一枚にびっしりと名前が書かれていて、それが十枚ほどあるのだ。
今作っている設備と教員数だと500人ぐらいが限度なのだけど、ざっと見積もっても1000人は余裕で超えている。
「ええ、実はこの国だけでなく、他国からの入学希望者も多くてね……」
どうやら、私の噂を聞きつけて入学希望者がどっと増えたらしい。
しかもなぜか貴族令嬢が。
「メイの幼女好きは他国でも話題だから……」
「えぇ……」
そりゃ、確かにサリアと結婚してルナーリア王女とも結婚発表、アーティちゃんもそのうち発表するんだけど……ダメだ、言ってて幼女趣味だとしか思われない事実しかない。
「私、そんなに節操なしに見えますか……?」
「ちょっと短期間に色々あり過ぎたかもしれないわね。まあ、一番は国とのつながりを作れるから、でしょうけど」
既に分かっている範囲だけでも、私を介してこの国とルナーリア王女の国とはつながりが持てるからね……。
確かにそれならコネ作りに躍起になる親御さんがいてもおかしくはないかあ。
「それはさておき、ある程度は入学希望者を断る必要があるかしら?」
「設備的にも教員数的にも足りないですからね……優先してあげたいのは学校に行きたくても行けない、孤児院の子たちや平民の子たちですね。それでも半分は入れないのはかわいそうですし……」
「あんまり頑張り過ぎてメイが倒れたらサリアやルナちゃん、アーティちゃんが悲しむからほどほどにね。とりあえず、教員を新しく雇ってメイが教育したらどうかしら?」
「そうですね、それに時間割を見直すのもありかもしれませんね。設備を増やすまでは教えるのは読み書きと算術に絞って、それぞれ1時間の合計2時間、それを午前・午後・夕方の3つにすれば……」
「確かに平民の子たちは農作業の手伝いなどで参加できない時間帯もあるから、時間を分けるのはありね……」
こうして、着々と開校の準備は進んでいく。
今までは小人数で教えていたが、ここまでの大人数を教えるのは初めてなので、期待と不安が入り混じってくる。
でも、この子たちが将来この国を背負っていく存在になるだろうし、できるだけのことはしてあげたい、そう思うのだった。
**********
「おねーちゃん、元気ない?」
「えっ、そんな風に見える?」
突然お風呂でサリアにそんなことを言われる。
確かに最近忙しくてちょっと疲れてるかもしれないけど、サリアに心配されるほどだったなんて。
こういうのは案外自分では分からないものなんだろうか。
「うん、なんとなくー」
「そっかぁ……ごめんね、心配かけちゃって」
「んーん、おねえちゃんはみんなのためにがんばってるんだもんね」
そうサリアに言ってもらえるとなんだか嬉しくなる。
少しだけだけど、人生の先輩としていい姿を見せられているだろうか。
「そーだ! あとで元気が出ることしてあげるね!」
「えっ、何、何?」
「えへへー、今はひみつー。楽しみにしててね!」
サリアはちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ウインクをする。
……ちょっと、これだけで元気が出たかも。
案外、誰かを好きになることって元気が出るものなのかもしれない。
「さ、それじゃ100数えてお風呂から上がりましょ」
「はーい!」
こうして、ちょっとだけサリアに元気を分けてもらい、その日の夜──。
「わぁ、今日はお星さまとお月さまがきれいー」
「それじゃ、今日はカーテンを開けたまま寝る?」
「うん!」
そういえば、元気の出ることってなんなんだろう?
もうお休みの時間だけど……。
「ね、それじゃ元気の出ることする?」
「う、うん。でも、もう寝る時間だけど……」
「だからだよー? おねえちゃん、サリアを抱いてー」
え?????
だ、誰の入れ知恵!? サリアがそんなことを言いだすなんて!?!?
と、私が一人混乱していると、サリアは続ける。
「サリアね、寂しい時はママをぎゅーってしながら寝たら、元気が出たの。だからね、おねえちゃんもサリアをぎゅーって抱いたら元気が出るかなって思ったの」
…………。
ごめんなさい、私が邪すぎました。
「ね、おねえちゃん?」
「う、うん……それじゃ……」
私はサリアをぎゅっと抱きしめる。
すると、私よりも少しだけ高い体温を感じられ、なんだか心が落ち着いてくる。
「えへへー、元気でたー?」
「うん、ありがと。それじゃ、このまま寝ちゃってもいい……?」
「うん、おやすみ、おねえちゃん」
サリアのほのかな匂いを感じながら、私の瞼は少しずつ重くなっていき、やがて眠りについた。
「……おねーちゃん、もう寝ちゃった。……そうだ!」
サリアは私を起こさないように腕の中で器用に動き、顔を私に近づける。
そして……。
「おねえちゃんが元気になりますように……」
そう私のことを想いながら、そっと口付けをする。
私の目が覚めないよう、ほんの一瞬だけ。
「おねえちゃん、おやすみなさい……」
サリアはそう言うと瞼を閉じ、眠りについた。
……このことを知っているのは、サリア本人とお月さまたちだけなのだった。
翌日、少しだけ寝坊はしてしまったものの、疲れはどこかへと吹き飛んでいた。
これもサリアのおかげなのかな。
……毎日お願いしちゃおうかな、なんて思ってしまう私は少しずるいのかもしれない。
**********
「それでは、メイの言うとおりに生徒は一日三交代でいきましょう」
「そうですね、そして設備と人員が揃い始めたら授業の内容も増やしていって……」
「こどもたちの才能を開花できる学校づくり、うまくいくといいわね」
今は読み書きと算術だけだけど、ものづくりに興味のある子もいるだろうし、冒険者になるために剣術や魔法に興味のある子もいるだろう。才能は人それぞれだし、色々なことを学ばせてあげたい。
魔法は魔法学園があるからそちらをおすすめしたいけど、それ以外のものはできるだけ取り入れていきたいな。
「それにしても、これだけの人数を教えるのは初めてなので、失敗しないか少し心配です」
「あら、どんなことも最初は失敗がつきものよ。最初からうまくできる人なんてそうそういないわ」
「そう……ですね」
「人は失敗するものよ。でも、失敗を活かせるから成功することができる、だからどんどん失敗しちゃいなさい。後ろには私たちがいるのだから、ね」
「ありがとうございます……それでは、よろしくお願いします、お義母様」
こうして、私たちは半年後に新しく学校を開いた。
最初のうちは失敗もあったけど、スィーズお義母様やサリアやルナーリア王女、アーティちゃんや元教え子たちの協力もあり、次第に軌道に乗っていく。
特にアーティちゃんは幼いながらも教師としての適性があり、人に教えることでより自分でも深く理解できるようになったと言っていた。
学校では最低限の知識を身につけたい子、より自分を高めたい子、私狙いの子……最後のはどうなんだろうと思うけど……たくさんのいい生徒たちに囲まれて、私は校長兼教師としての生活をスタートさせたのだった。




