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第38話 人と精霊の交響曲(5)

 この戦いが始まってから、ずっと疑問に感じていた。

 姉さんはどうして力を隠していたの? いつから私達に黙っていたの? そしてどうやってこんな凄い精霊術師に成れたの?

 その答えの一つがようやくいま理解出来た。


『「『纏』、雷神白虎らいじんびゃっこ!!」』

「きゃっ」

 眩しい……

 『纏』による輝きで、辺り一面が白銀に輝く。

 そうか、そうだったんだ。

 白銀……、いや白銀様のその正体、初めて見た時からその霊圧に違和感を感じていた。

 風華さんが鬼だと知った今でも感じられる霊気は私達人間と同じもの。妖気は霊気が闇に汚染されたものだから、浄化をしてしまえば元に戻る。

 だけど白銀様から感じる霊圧は、私達人や精霊が扱うものより微かに違う。何がどう違うかと問われても、ハッキリとした答えは導き出せないが、私はただ神々しいと感じてしまったのだ。


「やっぱり、あの精霊は古の四聖獣、白虎様だ」

 そしてその白虎様に選ばれた姉さんは、雷神の巫女。

 数百年まえに四体の神獣が地上へと降り立ち、それぞれ人間の女性から我が身を託す巫女を選んだとされている。

 そんな伝説が現在も伝えられており、いまも古の古都を中心に四聖獣を守り続けている、術師の一族も存在している。

 姉さんはそんな伝説の中で生き続けている。

 もしかすると家を飛び出したのも、私達には分からない宿命のようなものが定められたのかもしれない。


 ドッゴーーーーーン!

「きゃーーっ」

 振り向いて顔を向ければ、姉さんから立ち上る巨大な霊力。

 その力は人間が操れる域を超え、本来なら恐怖を感じる筈なのに、私はただただ見惚れてしまう。

 なんて凄いんだろう、なんて尊いんだろう、そしてなんて美しんだろう。姉さんの姿はまるで、天から遣わされた女神様のように。

「きゅぃーーん」

 戦いの中、姉さんの美しさに見惚れて足を止めてしまった私を、水姫が心配そうに見つめて来る。

 そうね、そうだったわね。こんなところで立ち止まっていては何時までも姉さんには追いつけない。

 だって私はこんなにも凄い姉さんの妹なんだから。


「行くわよ水姫。私は北条家次女、北条沙夜。水の精霊に導かれし精霊術師、いざ尋常に参ります!」

 勝つんだ、この戦い勝っていっぱい姉さんと話をしよう。

 姉妹の時間が止まっていた分を取り戻すために。




「白銀、出し惜しみは無しよ。最初っから全開で行くわよ!」

『心得た』

 地面に両手を付き、牙ッ鬼に傷つけられた地球を治すために治癒術を掛ける。

 私が操る治癒術は精霊そのもの。ならば牙ッ鬼の妖気により傷つけられた大地の精霊たちを治療し、異常な振動を起すプレートそのものを修復する。

 理論上は出来る。後は私の気合と根性と霊力次第。

「身体保護発動、霊力生成、限界突破120%……。全霊力解放!」

 ドッゴーーーーーン!

 物凄い勢いで立ち上る霊力。白銀との『纏』で私の霊力は通常の約3倍。その全霊力を癒しの力へと変換して、大地へと働きかける。

 治まって、お願い……、私にはまだ守りたい人たちがこの地上にいるの。だから!


 湯水のように流れ出る私の能力。

 全神経を研ぎ澄ませている関係、蓮也達をサポートしている風華の意識も流れて来る。

 蓮也の神速の居合術のお蔭で、飛んで逃げようとしていた牙ッ鬼が再び地上へと落とされている。

 風華も安全な位置から風でサポートを行い、沙夜は私の穴を埋めるべく、蓮也を援護するために目まぐるしい活躍を披露している。

 もしかして今でも真剣に兄と戦えば、妹の方が勝ってしまうんではないだろうか。


 やがて時間が経過すると共に、大きくなり始めていた振動が徐々に弱くなっていき、ついには完全に揺れていた地面が正常の状態へと戻っていく。


「ふぅ、少し心配していたけれど、何とかなるものね」

 霊力も尽きかけ、気持ちも体力もこのままコロンと地面へ横になりたい気分だが、まだやり残したことが残っている。

「白銀、まだやれるわね」

『無論だ』

「なら、このままいくわよ」

『心得た』

 気合を入れなおし、白銀を纏った状態で蓮也と沙夜が待つ戦線へ再び向かう。

 今度こそ牙ッ鬼との決着をつけるために。


「うそ、振動が止まった?」

「あぁ、沙姫のやつがやってくれたようだ」

「凄い、やっぱり姉さんは雷神様の巫女なんだ」

 ずっと揺れていた振動がピタリと止まり、戦場に一時の静寂が訪れる。

「バカな、アレを抑え込んだだと。お前本当に人間か!?」

「何を言っているのよ、どこをどう見たって、正真正銘の人間の美少女でしょうが」

「お前、それを自分で言うか?」

「姉さん、流石にその姿でそのセリフは恥ずかしいです」

「う、うるさいわね。ノリよノリ。それにこの姿は私の趣味じゃなくて、胡桃の趣味だから!」

 せっかく背後からカッコよく現れようとしたのに、味方から散々な扱いで若干恥ずかしくてほほが赤く染まってしまう。


「さぁ、牙ッ鬼。貴方の嫌がらせは阻止させてもらったわ。当然覚悟は出来ているんでしょうね」

「クソがぁ! 地震を抑えたからといって調子に乗るなぁ!」

「調子に乗るわよ。だって今の貴方なら、確実に仕留められる自信があるのだからね」

 牙ッ鬼にしてみれば、地震を誘発して、そちらに手を取られている間に戦線から逃げようと考えていたのだろうが、大半の妖気を削ってまで放った術が抑えられてしまい、自分は力を失った挙句逃亡を阻止されてしまった。

 おまけに最大の切り札ともいえる私の戦線復帰を迎えてしまったのだ。連夜と沙夜の二人にも苦戦していたのに、これ以上の反撃も逃亡も絶望的と言えよう。


 ジリジリト間合いを詰めていく私達。一方牙ッ鬼は既に逃げを選択しており、こちらの隙を探ろうと牽制しながら後退を余儀なくされる。

「行くわよ。瞬歩しゅんぽ天歩てんぽ!」

 地面と足との間に霊力を込めて、空間上に足場があるかの如く、高速で天空へと駆け上る。

「神雷!」

 牽制の意味を込めて、天空から一条の閃光を降り落とす。

 と、同時に止めを刺すべく極大砲撃の霊力を練り始めるも、先ほどの大地への治療で予想よりも霊力の収集が時間がかかってしまう。

「任せろ!」

 瞬時に私の様子に気づき、蓮也が時間を稼ぐべく牙ッ鬼に迫る。

 沙夜が術を放ち、風華が牙ッ鬼の逃げ場を防ぐように風を展開。

 まだだ、まだ牙ッ鬼に止めをさすには霊力が足りない。


「クソ、クソ、クソーーーー!!」

 上空に集まる巨大な霊圧。

 逃げようにも風華の風に阻まれ、足を止めれば沙夜の砲撃に襲われ、縦横無尽で移動する蓮也の剣閃に、残された妖気がみるみると削られていく。

 そして完全に詰んでしまった牙ッ鬼は、残された妖気を茂の体へと収納させる。

「やばい、自爆するつもりだ」

「自爆!?」

 不自然に膨らんでいく茂の体。

 その内部では妖気と妖気とかがぶつかり合い、まるで核融合をするかのようにグツグツと、嫌な気配が満ちていく。

 私の砲撃の準備はもう少し。連夜の居合術では迂闊に攻撃できず、風華の術ではもと同じ存在ということから、共鳴反応を恐れて手が出せない。

 残る希望は沙夜の術で茂の体ごと抑える事だが、霊力が少しでも足りなければ一気に爆発させてしまう。


「ならばこれでどうだ!」

 蓮也が五つの炎の刀を出現させ、それぞれ五芒星になるように地面に突き刺す。

封滅陣ふうめつじん!」

 牙ッ鬼を中心に五芒星の壁が出来上がり、力任せに茂の体を抑え込む。

 だがほんの筈かに進行を遅らせたものの、有効な一手には程遠い。

 それでも必死になって抑え込もうとする蓮也だが、次の瞬間沙夜の言葉が響き渡る。

「下がってください蓮也さん!」

 その言葉に従い、大きく後方へと飛んで下がる蓮也の姿。直後、七つの水龍が牙ッ鬼を取り巻く様に出現する。

 あれは、七水龍? 

 北条家に伝わる水術の一つで、水龍を同時に七つ出現させるという大技。

 沙夜ったら、まだこんな術を隠し持っていたのね。お蔭でこちらの準備は整った。


「これで最後よ、白虎神雷びゃっこしんらい!」

 天を突くような衝撃と共に、巨大な光の筒が一気に地上へと降りそそぐ。

 以前この術を見た蓮也は、「SF映画じゃねぇんだぞ」と驚くとともに呆れられた事もった。

 ドッッッッゴゴゴーーーーン!!!!!!!!!

「きゃぁーーーーっ!!」

 何やら地上にいた沙夜から悲鳴が聞こえてくるが、事前に私が極大の雷撃を落とすからちゃんと逃げてねと伝えてあるし、放つ前に確認した位置からも直接的なダメージは届いていない筈なので、まぁ気にするような事ではないだろう。

 やがて舞い上がった土煙が治まると同時に、私も地上へと生還する。


「けほ、けほ」

「沙夜、怪我はないわね?」

「けほっ。もう、一瞬死んだかと思ったわよ!」

「死ぬわけないでしょ、ちゃんと皆が安全な位置に移動したのを確認して打ったんだから」

 これでも私は常識のある人間。術の威力も被害範囲も把握してるし、安全と命中精度高めるために上空へと昇ったのだ。それで文句を言われるのは、ちょっと腑に落ちないわね。

「死ななきゃいいってもんじゃないでしょ! なんですかあの威力」

「えぇー、ちゃんと説明しておいたじゃない。危ないからちゃんと逃げてねって」

「それは聞きいたけど……」

「お二人さん、仲がいいのは結構だが、あっちが先じゃねぇか?」

 どこをどう見て仲がいいと判断したのかと聞きたいが、蓮也の言う通り今は彼方の方が先だろう。


「なぜ…だ……、なぜ…俺様は…また……負け…たんだ……。今度こそ……勝てる…と…思ってた…のに…よ」」

 体のほとんどを失い、既に虫の息といった状態だが、辛うじて生存している牙ッ鬼を三人で取り囲む。

「そんなの決まっているじゃない。私に喧嘩を売った時点で負けが確定しているのよ」

 実際私達にはそれ程の余裕はなかった。

 戦いこそ一方的にはなっていたが、それは単純に牙ッ鬼自身の戦闘経験の差と、ひとえに人と精霊による連携と作戦の結果が勝因を決めたのだ。

 もし純粋に一から牙ッ鬼が今の状態へと成長していたのだとすれば、恐らく私達の勝利はあり得なかったのでないだろうか。

「ケケッ……、言って…くれる…ぜ……。だけどな…不思議と……悪い気が…しねぇん……だ」

 まるで遺言を残すように弱々しく話す牙ッ鬼。しかし徐々に体が崩れていき、彼から感じられる妖気ももはやほんの僅か。

 こいつには言いたい事も恨み言もいっぱいあるが、思い返すと戦い自体は正当な決闘そのものだった。

 確かに茂を唆し、大勢の術者を殺めてしまったことを思えば、牙ッ鬼の行動は許される行為ではないのだろうが、もし彼も風華と同様に人と歩むことが出来たのなら、また違った未来が迎えられたのではないだろうか。


「私たちの宿敵、牙ッ鬼。誇りなさい、私達と戦えたことを、称えなさい、貴方は私の人生をも変えた強敵だったことを」

「ケッ、そんな……言葉で…喜ぶ…かよ」

「風華の事は任せなさい、私の命が続く限り鬼からも妖魔からも、そして人からも必ず守り通してみせるわ。もちろん家族としてね。だから安心して逝きなさい」

「ケケッ、ホント……、お前は…好きになれねぇ……ぜ」

 その言葉を最後に牙ッ鬼の体は風に溶けるように跡形もなく崩れ去っていく。

 最後の一瞬は、まるで笑っているようにさえ思えるぐらいに。


「終わったな」

「えぇ、流石にもう会うことはないでしょうね」

 以前は角を破壊した後に妖魔として逃げられてしまったが、今回は茂の体ごと完全に消滅してしまった。精霊が消滅してしまうのと同じで、如何に鬼であったとしても構成している妖気が完全に消え去れば、流石に復活することは未来永劫無いはずだ。


「お疲れ様です姉さん、蓮也さん」

「沙夜もお疲れ」

「おぅ」

 この後この辺り周辺の浄化作業や、お屋敷の修繕やら仕事は山積だが、今だけは勝利の余韻を感じていても罰は当たらないだろう。

 お互い笑いあいながら、無事に生きていることを称え合う。


「そうだ沙夜、さっきは助かったわよ」

 勝利の余韻の中、ふと七水龍で時を稼いでくれたことを思い出してお礼を言う。

 あの時、蓮也でも風華でも不可能だったことを沙夜がやってくれたからこそ、私の術が完成したのだ。もし沙夜のサポートが無ければ、私達と牙ッ鬼の立場は逆転していたかもしれない。

 だけど……

「えっ、何のことですか?」

「何のことって、七水龍でサポートしてくれたじゃない」

 兄は未だ倒れたままだし、あの場で沙夜のほかに誰が七水龍を扱えると言うのよ。

「えっと、姉さん。あの術を放ったのは私じゃなくて……」

「えっ?」

 なんとも言いにくそうに答える沙夜だったが、私が疑問を抱く前にその答えが自らやってくる。


「結城家の方々とお見受けする」

「!?」

 それは少し離れた屋敷の方から現れた。


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