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第30話 厄災再び(6)

 ドゴォォォーー!!

 目の前で兄が放った二つの大技が炸裂する。

(大した威力だ、流石に威張るだけのことはあるな)

(えぇ、私も本気の兄を見るのはこれが初めてよ)

 炸裂する兄の術を目の当たりにし、蓮也が珍しくも賞賛を送る。

 だけどあれ程巨大な妖気を纏っていたのだ、無傷と言うことはないだろうが、仕留めきれてはいないだろう。


「倒したんですか?」

「どうかしらね……」

 近くにいる沙夜が、大蛟と大水龍の収束を見守りながら尋ねてくる。

「バカが、奴の纏っていた妖気を見てみろ。あれをまともに受けて無事でいられる筈がない」

 私の言葉が気に入らなかったのか、兄が睨みつけるよう言葉を吐く。

 今は二つの大技の霊気で、茂が纏っていた妖気が拡散されてしまっているが、あれだけ強い妖気があったのに、たったこれだけというのが腑に落ちない。

 どうやら兄はこの四散した妖気のことを言っているようだが、茂は風の術を操れるようだし、纏っている妖気の強さもある。

 それだけの能力があるのに、それを防御に回さないわけがないだろう。


 やがて二つの術が消え去ると、そこにいたのは真っ黒な玉に包まれた茂の姿。

 まさか無傷だとはね。

 死んではいないとは予想していたが、あれ程の大技を二つ同時に受けたのに、その姿はまるで最初と変わらない。

 私も今の兄と同じような術は使えるが、威力自体はそう変わるものではなく、より強力な術を使ったとしても、今のように妖気の障壁で防がれれば、決定打には遠く及ばない。

 するとここは放出系の術ではなく、蓮也が得意とする接近戦で様子を見る方が賢明だろう。


「バカな、あれを防いだだと!?」

 驚いているところ申し訳ないが、今のが切り札だとすれば今後兄には頼れない。

 せめてその辺りで苦しんでいる術者達を逃がしてくれれば役にもたつが、それも望めぬ役割だろう。

(蓮也、しばらく敵の注意を引いて。私はその間に倒れている人たちの救出をするわ)

(わかった)

 蓮也の戦闘スタイルは一撃必殺。だけどあの妖気の纏の前では、如何に蓮也の居合術でも致命傷を与えるのは正直厳しい。ならばここは前衛の蓮也が引っ掻き回し、私の術で妖気の鎧を剥がしたところに、再び蓮也の一撃に託すしかない。

 ただそれには周りで倒れている術者達を退避させ、周囲への安全を確保しなければ私の術は使えない。流石に茂を倒せても、他の者が再起不能では目覚めも悪いだろう。

 私は改めて蓮也に合図を送り、意図を汲み取った蓮也が一気に仕掛ける。


「抜きの秘剣、朱雀スザク!!」

 意識が兄へと向いてる隙に、一気に間合いを詰めて蓮也が技を繰り出す。

「ちっ」

 キンッ

 蓮也の接近気づいた茂が、妖気を盾に変えて受け止める。

 だが残念、蓮也は防がれた刀の向きを変え、そのまま滑らすよう茂の脇をすり抜ける。

「ぐはっ」

 対人戦用の裏の秘剣、霞の小太刀。

 転身の術は、何も一つの武器にしなければいけないという決まりは何処にもない。

 蓮也は初撃である朱雀に意識を向かせ、すれ違いざまに左手に隠していたもう一本の小太刀で敵を切り裂いたのだ。

 茂も不意を突かれたことで防御を一点に集中させてしまい、他の部分までは手が回らなかったのだろう。見れば左肩から赤い血が滴り落ちている。


「くそっ、また貴様か! 結城蓮也ぁぁ!!!」

「俺の名前を憶えてくれているとは光栄だねぇ、ほら、脇ががら空きだ!」

「ちっ!」

 キンキンッ!

 流石ね。蓮也が何故神速の居合ではなく抜き身の剣で仕掛けたのか、なぜ奇襲という有利な状況を捨ててまで技の名前を叫んだのか。

 一応精霊との連携を図るため、技の名前を叫ぶという理由もあるのだけれど、この場合こっそり近寄り不意打ちを掛けた方がより効果は高いはず。

 そんな優位な状況を捨ててまで、初撃をワザと防がすよう仕向け、更にだまし討ちの様に暗器で切りつけたその理由は、茂の怒り煽り意識を自分に向けさせるため。

 私も蓮也単独で敵を撃破できるとは考えてはいない。私には蓮也という前衛が必要で、蓮也にもまた私という後衛を必要としている。


「白銀、私も風の術で手伝うから、今のうちに残っている術者を退避させて」

『心得た』

 私の指示を受け、白銀が近くで苦しむ術者の一人を咥えながら連れ去っていく。

 本当ならば人型である風華の方が適任なのだが、出来れば風華の存在だけは隠しておきたいというのが本音。

 すでにあの子の正体がバレている結城家ならともかく、北条家の人間には出来れば見せたくはないのだ。


「何をしているの、貴女も早く逃げなさい」

 風の術で倒れている人を運びながら、隣で立っている沙夜に話しかける。

「えっ、逃げる? 私もですか?」

「当たり前でしょ。この状況で自分が役に立つとでも思っているの?」

 少々厳しい言葉だが、兄にも劣る彼女では現状役に立たないというのが本音。

 これが適当な妖魔退治なら、私だって経験を積ますためにも残らせただろうが、今回の敵はそんな生半可な気持ちでは相手にできない。

 それに北条家の人間に、こちらの手の内を見せたくないという思いもあり、沙夜にはこの場から離れて欲しかったのだが。

「嫌です。私も一緒に戦います」

 まぁそうなるわよね。

 これでも沙夜は将来を有望視された超エリート。周りの期待は兄に次ぐ第二位で、霊力も実力も当主である父のお墨付き。ただその年齢から実戦での経験が不足しており、今回のように力押しが効かない敵には厳しいはずだ。

 それに沙夜は気づいていないようだが、妹を退避させたい理由がもう一つ。


「ふざけるんじゃないわよ、状況を見て判断しなさい。貴女が逃げないとその子も退避できないでしょ!」

「えっ、彼女? ……鈴音すずね! 貴女まだいたの!?」

 沙夜がここへと来た時から背後で控えていた鈴音。私に胡桃が居るように、沙夜にもまた鈴音という付き人が存在している。

「私は沙夜様の付き人ですので、一人だけ逃げ出すなんて出来ません!」

 私は彼女とはそう面識はないのだが、私が胡桃を必要としているように、沙夜にとって鈴音は家族以上に大切な存在なはず。

 そんな彼女も己の使命からなのか、沙夜が残れば彼女もまた同じ場所にとどまざるを得ないのだろう。


「分かったら早く逃げなさい」

「でも……」

「あぁもう、ハッキリ言って邪魔なの。役にも立たないんだから、とっとと下がれっていっているの!」

 いつになく頑固な妹についつい熱くなってしまい、怒鳴るように叱ってしまう。

 私が知る沙夜はここまで聞き分けのない子ではなかった。無理だと判断すれば引き際を見定め、友人や大切な人が危険な目にあうと助けようとする優しい子。

 生憎私とは性格が合わなかったのか、それ程仲は良くなかったが、それでも鈴音を危険な現場に残すような子ではなかったと記憶している。

 だけど……


「分かりました。邪魔だと言うのならお役に立つところをお見せします。私も北条家の娘なんです、倒れている人たちを放って自分だけは逃げられません」

「えっ? ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 止めるいとまもなく、鈴音を連れて倒れている術者の救出に向かわれてしまう。

 あのバカ。

 今はまだいい。敵は蓮也に意識が集中しているお蔭でこちらの動きには気づかれていないが、それもそう遠くないうちに状況は変わる。

 いくら蓮也でも、今の高速の動きには限界があり、集中力が欠けてしまうとどうしても敵に隙を見せてしまう。その時果たして茂は倒れている術者を放置するか? 最悪人質に取られるか、無差別の攻撃に転じるかで、状況は最悪な方へと向かうだろう。


『沙姫様に似て、素敵な妹さんですね』

 近くで姿を消している風華が、意識を通して話しかけてくる。

(どこがよ……。あの後先考えない性格は一体誰に似たのかしら)

『ふふふ』

 でも誰かを救いたいと言う気持ちだけは汲んでやろう。

 まったく、私が頑張ればいいんでしょ。

 とにかく今は負傷者達の救出が最優先。沙夜も助け出す者が居なくなれば意地を張れないわけだし、残ると言われても今度は力づくで引かせればいい。

 それにここのは北条家最強を自負する兄もいるのだ。さすがに妹を見捨てるような真似はしないだろう。

 そう結論づけた時、中庭の上空で急速に霊力が収束する気配を感じる。

 あれは……

「!? 蓮也、逃げて!」

 ドドドォォォー!!!

 突如茂と蓮也を巻き込むように、氷の刃が襲うのだった。


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