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第20話 未熟な精霊術師(7)

「クリス、何があったの!?」

 深夜に連絡を受け、私は蓮也を叩き起こしてクリスが指定した場所へとやって来た。


「ごめんなさい沙姫さん、私どうしたらいいのか分からなくて」

 酷く動揺するクリスを宥め、まずは未夢さんの身に何が起こったかを聞き出す。

「私、未夢さんに酷いことを言ってしましたの。だから未夢さんは追い込まれてしまって……」

 聞けばあの後、私の家から帰るとすぐに未夢さんへ連絡を取ったのだという。

 最初こそは普通に今日の出来事を話していたらしいのだが、クリスが精霊に関係する話を振ると酷く抵抗されたらしく、友人でもある私にも話せないのかと、ついつい言い争いのようになってしまったとの事だった。


「その後やはり気になってしまい、私は未夢さんのお宅へと向かったのですが……」

「それがこの状況だったというわけね」

 クリスが指定したその場所は、ファミリー向けのごく普通のマンション。

 近くには赤いランプを点灯させた救急車と消防車が止まっており、今もマンションの一室で、未夢さんの両親の手当てが行われているのだという。

「ご家族が負われた怪我は浅いものだったのですが、その後未夢さんが子猫を連れて飛び出されたらしく、今も行方がわからないんです」

 聞けばクリスが駆けつけたときには既に未夢さんの姿はなく、血を流されていたご両親が部屋に倒れられていたという事らしい。

 幸いお二人とも意識はハッキリしており、クリスとも少し話が出来る状態だったらしいが、肝心の未夢さんは精霊と思しき子猫を連れ、夜の闇の世界へと姿をけした。

 どうやらご両親は兼ねてより子猫を隠して育てている事に気づかれており、今日もその事で捨てる捨てないで揉めてしまったとの事だった。そしてクリスとの口喧嘩の事もあり、気持ちが昂ってしまった未夢さんが、近くにあったハサミでご両親を傷つけてしまった。

 ファミリー向けのマンションは、普通にペット禁止のところが多いから、何もしらないご両親は未夢さんに子猫は飼えないとでも言われたのだろう。

 ただ不運な事に、今日一日で蓮也から術者の事を否定され、本人も望まないままクリスと揉めてしまい、トドメが可愛がっていた子猫姿の精霊を捨てろと言われ、彼女の感情が大きくマイナスへと傾いてしまった。

 恐らくその負の感情に、精霊が一時的に未夢さんの心と同調してしまい、両親を傷つけるという行動に出てしまったのではないだろうか?


「とにかくまずは未夢さんを探さないと」

 普段の彼女ならば両親を傷つけるなんて行動は決して行わない。ならば精霊が関わっていると考える方が自然だろう。

 例え一時の気の迷いとはいえ、今の彼女は両親を傷つけてしまったという罪悪感に苛まれているはず。マイナスの感情は更なるマイナスの感情を引き起こし、そのマイナスの感情に精霊は大きく染まってしまう。

 このまま放置しておけば、精霊は完全に妖魔へと染まってしまい、庇おうとする未夢さんはその妖魔に操られてしまう。そうなってしまう前になんとか彼女を見つけ出し、対処しなければならない。無関係の人を傷つけるまえに……。


「ですが、見つけると言ってもどうされるのですか?」

 うーん。正直今のこの状況ならば、多少離れていたとしても私なら探し出せる方法を持ち合わせてはいる。

 仮にも相手は中級クラスの精霊であり、その気配は今も色濃くこの場に残っているため、風華の広域探査の術を起動すれば、そう時間がかからないうちに見つける事も出来るだろう。

 ただそれにはクリスに私の力と、風華の風の力を晒さないといけない。私は彼女に成長した姿の白銀と、風華の存在は話してはいない。そもそも二体の精霊と契約している事自体が異質すぎるのだ。一時的とはいえクリスも精霊術師をめざしていた者、彼女がそれに気づかない筈はないだろう。


 でも、まぁ仕方ないわよね。


「クリス、貴女に二つのお願いがあるの」

「なんですの?」

「今から私が未夢さんの居場所を突き止めるわ。だから貴女にはこれから見る出来ごとの全てを忘れて欲しいし、詮索や質問する事も一切やらないで欲しい。この二つを守っても貰えるのなら……」

「問題ありませんわ。いいえ、私を見くびらないでくださいませ」

「えっ?」

「沙姫さんが何かを隠している事ぐらいすでにお見通しですわ。それに例え沙姫が人間じゃないと告白されたとしても、私は今の立場を変えませんわよ」

「……」

 これは一本取られたわね。

 私は今、純粋に嬉しいと感じてしまっている。

 私の事を分かっているのは私だけ。そう思って飛び出した実家だったが、胡桃に諭され、蓮也に守られ、そして今もまた、私は一人じゃないんだとクリスに叱られてしまった。

 まいったわね。ずっと欲しかったと思っていたものを、私は既に手に入れていただなんてね。


「ごめんクリス。だから後は任せなさい」

「えぇ、二人で未夢さんを叱ってあげましょう」

 私は心の中でクリスに感謝し、初めて彼女の前で風華を召喚する。

「風華!」

「お呼びですか、咲姫様」

 何もない空間から和服姿の女性が現れ、一瞬クリスに驚きの表情が浮かぶ。

 彼女の中では私が契約しているのは子猫姿のシロのまま。精霊術師が同時に契約できるのは1体のみという事実は知っている筈なので、今頃戸惑っているのではないだろうか。

「クリス、この子は風華。私が契約しているもう一人の精霊よ」

「に、二体目の精霊……ですの?」

 流石に姿を見せただけでは酷いので、簡単に風華の事を紹介する。

 だけど説明するのはここまで。正直白銀と違い、風華の事は例えクリスであったとしても、深く追及される事だけは避けたいといのが本音だ。これば別にクリスの事が信用できないと言う意味ではなくて、今度起こるかもしれない厄介ごとに巻き込みたくないから。

 私は一旦クリスへの問題を切り離し、意識を集中して術を発動する。


「広域探索術、涼風すずかぜ!」

 探索用の風術、涼風。風華の力でもある風を操り、意識を同調させることで対象の霊気や妖気を捜索する、風の術師が扱える術の一つ。

 自慢じゃないがこれほど広範囲かつ、スピード捜索出来るのは私だけではないだろうか。


「こ、これが……今の沙姫さんの力……ですの?」

 今の私は仮面のシスティーナでなく、ただの水城沙姫。なるべく周りに気づかれないように力を抑えているとはいえ、間近にいるクリスにはほぼノーガードで伝わっているはず。

 これでまだ力の半分すら出していないと言えば、さぞ驚かせるのではないだろうか。

 やがて涼風に捜索対象の霊気が反応し、更に場所の特定も導き出す。


「見つけたわよ」

「本当ですの!?」

「えぇ、でもここって……学校?」

「えっ?」

 術が感知したそこは、私達が通う聖桜女学園だった。


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