表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/33

エピローグ 1

 さくらとつばめは熊野警部といっしょに学校の近くの喫茶店にいた。放課後になるのを警部は待っていたらしい。強引に連れ込まれた形になったのだが、さくらは生きた心地がしなかった。ついにくるべきときがきたかと思った。

「奈緒子がぜんぶしゃべったよ」

 警部はいった。

「つまり奈緒子ちゃんが事件の黒幕で、木更津を殺したってこと?」

「そうだ。っていうか、……おまえそこまでわかってたのか?」

 つばめの質問に、警部はかなり驚いたようだった。

「まあね。証拠はなにもないけど、それしかないと思ってたわ」

「じゃあ、なんでいわなかった? まあ、いえるわけねえか。奈緒子が捕まれば、おまえたちのやったこともばれるからな」

 うっひゃあああ。やっぱりぜんぶばれてる。

 さくらは絶望した。一応、恐る恐る聞いてみる。

「それって、つまり……」

「ああ、銀行強盗の最初の組がおまえたちふたりだってことはわかっている」

 ああ、やっぱり。終わりだ。あたしたちは終わりだ。

「まあ、おまえたちを逮捕してもいいんだが、俺だって鬼じゃない。おまえたちが涼子から相談され、奈緒子の命を助けるためにあんなことをやったってのはわかってる。俺はそういうのに弱いんだ。俺だって同じ立場なら似たようなことをやったかもしれないからな。いや、俺には犯罪の才能はなんてものはないから、こんなことを思いつきはしなかっただろう。おまえに変な才能がありすぎたんだよ、つばめちゃんよ」

 警部はそういって、にやりと笑った。

「そもそもおまえたちはまだ十五歳だし、誰も傷付けていない。さらに友達の命を助けるためにやったこと。どうせ逮捕してもすぐに出てくるさ。それならばいっそ、課長なんかには報告せず、俺のところで止めておいても結果は同じだろう? それに奈緒子ちゃんが俺に頼むんだ。おまえたちをゆるしてやってくれってな」

 やっぱりいい男だよ、この人。

 きっと友情という言葉に弱いタイプだ。そして優しさがある。さくらはそう思った。

「だが、奈緒子のやったことまで見過ごすわけにはいかない」

「え~っ、なんで?」

 つばめは不満を隠さない。

「いいか? おまえらを見過ごすのは、友達の命を助けるためにリスクをいとわずにやったことだからだ。俺は基本的にはそういう心意気が好きなんだ。しかし奈緒子はそうじゃない。姉をおとしめるためだ。しかも殺人を犯した。たとえ中学生とはいえ、俺はぜったいに許すことはできない」

 熊野ははっきりとそういった。

「だから上にはこう報告するつもりだ。木更津と奈緒子が共犯なのも、奈緒子が木更津を殺したのも事実のままだ。最初の強盗は煙にまぎれて逃走したことにする」

 しばしの沈黙が訪れる。ここはやったーと喜ぶべきところなのかもしれないが、さくらはそんな気にはならなかった。

「あの……警部さん。警部さんは奈緒子ちゃんを取り調べたんですよね?」

「そうだが」

「どうしても聞きたいことがあるんです」

「なんだ?」

「奈緒子ちゃんはどうしてあんなことをしたんですか?」

 さくらは一番気になっていたことを聞く。熊野の顔はくもった。

「そのことは追求するな。おそらく誰にも知られたくないだろう」

 熊野は動機に関しては明かしてくれなかった。

「馬鹿なやつだ。涼子は奈緒子のために、強くあろうと歯を食いしばって耐えてきたというのに。奈緒子にはその気持ちが伝わらなかった」

 熊野は悲しそうだった。さくらにはその気持ちがわかる。

 きっと涼子は両親が死んだのは自分のせいだと思っているのだ。だからこそ、奈緒子を守るために強くあろうとしたに違いない。だけどそのことが奈緒子を苦しめた。それって悲しすぎる。

「あのふたりはどうなるんですか?」

 さくらとしては重い罪になってほしくなかった。

「涼子はすぐに出てこれるだろうな。妹を人質に取られて無理やり協力させられただけだ。おまけにまだ未成年だし。だが奈緒子はそうもいかないだろうな。まだ中学生だし、たしかに同情の余地はあるが、人をひとり殺したんだ」

 そうかもしれない。

「まあ、そうはいっても十四歳だ。刑務所じゃなくて少年院だろうし、何年も食らい込むことはないだろう。それよりも問題は涼子が奈緒子を許せるかってことだ」

 たしかにそれは大きな問題だ。

「きっとだいじょうぶよ」

 つばめはチョコパフェを食べながら能天気にいう。

「だって、涼子ちゃんは誰よりも奈緒子ちゃんを愛していたから強盗をしてでも助け出そうとしたのよ。それに奈緒子ちゃんの心を誰よりもわかっていたはずだわ」

 そうかもしれない。いや、きっとそうだ。さくらはそう願った。

「俺もそう思うよ」

 熊野は笑顔を見せた。

「最後にひとつだけいっておく。おまえらを自由にするには条件がある」

 熊野は一瞬厳しい表情に戻ると、もう一度笑った。

「おい、つばめよ。おまえは事件に関しては天才的に切れる頭を持ってるんだから、今後は起こす方じゃなくて、解決する方にその才能を使えよ。難事件が欲しけりゃ、俺がくれてやる。だからその才能を変な方に使わないって約束しろよ。それからさくらはつばめが変な方向に走らないように見張ってろ。それが条件だ」

「もちろんよ、警部。どんな怪事件でもあたしのところへ持ってきて。たちどころに解決してあげるわ」

 つばめはそういうと、警部のほっぺにキスをした。

「ば、馬鹿やろう」

 警部は意外にも真っ赤になっていう。

 その通りだ。おまえは美少年に惚れてればいいんだ。なんて見境のない女だ。

 さくらは少し熱くなった。マッチョな警部に恋したのかもしれない。

「いいか、今度事件を起こしたら有無をいわさず引っ張るぞ。連帯責任だ」

 警部はそういって伝票を掴んだ。

「熊ちゃん、これから仕事?」

 く、熊ちゃんだあ?

 警部もつばめのあまりのなれなれしさにあきれ顔だったが、すぐに笑いながらいい返した。

「馬鹿野郎。俺はこれから仕事をサボって女子大生の香ちゃんとデートだ。ポルシェでドライブするんだよ。わはははは、課長がなにいおうが知ったことか」

 さくらは明らかに香ちゃんとかいう見も知らぬ人に嫉妬していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ