第四章 スーパーお嬢様女子大生対スーパーおたく女子高生 2
熊野のスマホが鳴った。
『私だ』
「課長」
うんざりだった。木更津が殺されたことを嗅ぎつけ、またやる気を奪うようなことをいいたいのか?
『ついに犠牲者を出したな、熊野。それに二組の銀行強盗ってどういうことだ? そんなことあるわけないだろうが。寝ぼけてんのか、おまえ』
けっ、あんたはデスクの電話で現場の人間を怒鳴ってりゃいいのかもしれねえが、こっちはそうはいかねえんだ。
「いいですか? 銀行員が死んだと思われるのは、私が指揮をとる前です。その時点で私はまだ休暇中ですから責任をとりようがありません。それに銀行強盗が二組いると情報を流したのは犯人を動揺させる手段です。とにかく隙を作らなければ、突入も狙撃も不可能です」
『犯人が疑心暗鬼になって人質を殺したらどうするんだ? 猿なみの頭とはいえ、少しはものを考えろ』
その休暇中の猿を呼び出せといったのは誰だ? ポチの提案とはいえ、決めたのはおまえだろう?
『もしこれ以上人質から犠牲者が出てみろ。マスコミに袋叩きにされるぞ。死んでいいのは犯人だけだ』
だから犯人を狙撃したいのは山々だが、この状況じゃ撃てないんだよ。人質に当たってもいいのか?
「いっそのこと課長が来て直接指揮をとられたらどうですか?」
『なにを弱気なことをいってるんだ。君が責任者だ。すべて私に任せて課長は寝ていてください、くらいのことはいえんのか?』
ほんとうに寝てくれるんなら、それでもいいぜ。熊野はそういいたかった。
「わかりました。お望みどおり、私が全責任を取りましょう。そのかわり一切口出ししないでくださいよ」
そういって、電話を切った。
さてどうする?
陽動作戦を仕掛けたはいいが、中の様子がまるでわからない。犯人が飯でも要求すれば、弁当に盗聴マイクを仕掛けることもできるんだが。
「警部、なにか進展ありましたか?」
先ほどの涼子という美少女がまた近づいてきて、聞いた。
「いや、残念ながらまだだ。犯人と話がつかない」
「じ、じつはこのスマホなんですけど」
彼女は自分のスマホを突き出しながら、深刻な表情でいう。
「中にいる友達からかかってきたんです。ただなにも応答がなくて」
「なんだって?」
熊野は彼女からスマホを引ったくり、耳に当てた。
「もしもし、警察のものだが」
返答はない。しかしかすかに音が聞こえる。おそらく声は出せなくて、スマホを通じて中の様子を知らせようとしているのだ。
話し声が聞こえた。なにかいい争っている。熊野は耳に神経を集中させた。
『きゃ~はっはははは。また外した。馬鹿、馬鹿、ば~か』
なんだ? 少女の笑い声?
音は遠かったが、まちがいなくそう聞こえた。
『あ、あなたはわたくしの推理にけちをつけることしかできませんの? 馬鹿にしたかったら、まずは自分の考えを話してごらんなさいよ』
『もちろんよ。あたしには今度こそ真犯人がわかったわ。とうぜん密室の謎も、カメラに犯人が映らなかった謎も解けるわよ』
なんだ? いったいなにが起きてるんだ? 真犯人? 密室?
木更津を殺したのは強盗犯だろう。ちがうのか?
「これこのまま貸してくれ」
熊野は涼子にそういって、中で発せられる声を聞き漏らすまいとする。
「なにかこれを増幅して聞く方法はないのか?」
同時にそう叫んでいた。ポチにいったつもりだったが意外な者が反応した。
「はあい、お呼びですかぁ?」
レポーターの早川だった。
「うちの器材にマイクとアンプとスピーカーがあります」
それだ。それを使えば突入のタイミングを計れる。早川はもちろんスクープ狙いなのだろうが、ありがたい提案だ。
「よし、頼む。ただしそれを放送するのは逮捕のあとだぞ」




