23 ここで主題歌がかかります
モトサトが取り出したなんか凄そうなベルトはスルーした。これ以上変身形態が増えても管理しきれない。アイテムによる無闇やたらなパワーアップはヒーローにとってマイナスだと思うんだよね。秘密結社Bには怒られるかもしれないけど。
そして俺は人類征伐将ジーオルーンに長距離砲撃戦を挑んだ。
本当の戦いはこれからだ!
俺と戦巫女ふたりの合体必殺技が放たれた。
赤と青の二重螺旋とそれを貫く魔力の光がジーオルーンに迫る。
「!」
巨大な顔がひきつった。それでもとっさに魔力の盾を造り、攻撃を受け止める。
二重螺旋が盾をガリガリと削る。薄くなったそれを破城銃からの魔力砲弾が撃ち抜いた。
盾が消えると、ジーオルーンは右胸を押さえてよろめいた。そこに風穴が開いたようだ。致命傷ではない。が、大ダメージを与えた事は間違いない。
「見たか、蜘蛛式螺旋砲」
「えー、カワイクない」
「破城の螺旋撃です」
「そっちもカワイクないよー」
技の命名は後にしよう。自動で画面にテロップでも出てくれればそれで確定なのだが。
ジーオルーンには再生能力があったはず。間をおかずに追撃する必要がある。
「蜘蛛式螺旋砲、二発目は撃てるか?」
「螺旋撃の連発は私たちには無理です」
「ならば離れて。周囲の警戒を」
俺の方は外部動力による射撃だ。すぐに次弾のチャージに入る。自動小銃のような連射は不可能だが、火縄銃よりは早く次が撃てる。
ジーオルーンはこちらが合体技の態勢を解除したことで少しは安堵したようだった。が、俺が砲撃姿勢を崩さないのを見て、何やら吠えた。肺をやられてまともな声は出せないようだ。吠え声はまともな言葉にはなっていなかったが、その意味は察せられた。
攻撃開始。
「それ以上は撃たせぬぞ!」
中枢翼船の甲板に様々な形態の『怪人』たちがあらわれる。戦闘員程度では相手にならないと悟ってか、すべて上位の魔族たちだ。
……いや、そうでも無いか。
後ろの方にダンスを披露しているトカゲがいる。オーガーやゴブリンでは素早くここまで登って来れなかっただけか。
いずれにせよ、一度にこれだけ出てこられると単なる再生怪人にしか見えないな。
「お前たちの相手は俺たちだ!」
野太い声が応じた。
ずんぐりしたシルエットのヒーローが怪人たちの前に立ちはだかる。照れも気負いもなくポーズをとって大見得を切ってやがる。
「ムサシは俺が必ず守る!」
鋭角なシルエットもあらわれて、背筋が寒くなるような宣言をする。
アルシェイドはその手に例のベルトを持っていた。一動作でそれを腰に巻く。
「強化外装、解放!」
歌のようなメロディとともに雷鳴の勇者の姿が変化する。よりトゲトゲしい攻撃的な姿へ。手の中に現れた大太刀も5割り増しで長くなっている。背中に出現したバックパックの用途はなんだろう?
「わたくしも居ります。あまり優しくありませんよ」
最強の戦女神も進みでる。
彼女はふと空を見上げた。
「わたくしで終わりではないようですね」
上に何がある?
すっかり忘れていた。とっくに逃げ去ったと思っていた。飛空艇の群れ。
高空からは椅子でもなんでも船内で固定されていない物はなんでも落とし、低空に侵入しては光弾を放って牽制する。
牽制以上のものではない。だが、それは確実に俺たちに対する援護になっていた。
一般人の声援を受けてパワーアップするのはヒーローのお約束だよな。
ましてや単なる精神的支援以上のものを受け取ったなら百人力だ。
俺は破城銃の二射目を撃つ。
今度は足を狙う。巨大な敵を相手にするのに足を攻めるのは定石だ。が、理由はそれだけではない。
足を狙った砲弾をジーオルーンは再び魔力の盾を作り出して弾いた。
螺旋撃の助けをかりない素の破城銃ではやつの盾を突破できない。しかし、足元を狙った攻撃を弾くために巨大な魔族は上体を大きく動かし腕を伸ばした。
ジーオルーンをなるべく大きく動かす。内部に熱を蓄積させてバテさせる。それがこいつに対する攻略法だ。
同じ形のまま大きくなった物体はその体積に対して表面積の増加の割合は少ない。表面積が少なくなれば放熱もまた少なくなる。この単純な数学的な事実は何をもってしても覆せない。
ま、この世界にはアリアちゃんのように氷を作り出せる異能力者もいるから放熱の問題は絶対ではないが、それだって魔力なり何なり何らかのリソースは消費する。敵の熱中症を狙う作戦は間違っていないはずだ。
ジーオルーンの胸の傷はすでに再生が始まっている。
だが、あれだって細胞が活発に分裂しているなら熱を持っているだろう。
巨大魔族はバランスを崩して膝をついた。
「やらせぬ!」
「人形風情が」
「よくも!」
「殺す殺す殺す。殺しつくすぅぅぅっっ」
甲板上の魔族たちが色めきだって俺に迫る。だが、感情的で統制がとれていない。
「雷破」
威力を増したアルシェイドの雷撃が降り注ぎ、その隊列をさらに乱す。
敵の最前列と後続が分断された瞬間、モトサトが動いた。拳法めいた動きで魔族を叩きのめす。甲板から外へ吹き飛ばす。
負けじとミュリエラちゃんも動いた。
拳で戦うのはこの子も同じだ。達人芸ではない我流の喧嘩殺法だが、実戦経験の豊富さは見てとれる。的確に正確に殴りつけている。
格闘家二人が壁役をこなす間に、フォルテさんは敵中に突入していた。短めの武器を片手に軽やかにステップを踏む。一撃離脱を繰り返し、敵に隊列を作らせない。見事な遊撃手だ。
アリアちゃんは敵の中距離攻撃に対応すべく、氷で盾を作って俺のそばにいた。しかし、手持無沙汰だ。
「私まで出番が回ってきませんね。個人的な恨みもあるので、一手だけ攻めさせてもらいます」
彼女は敵の後列に向けて氷の矢をはなった。そちらでグギャッと悲鳴があがる。変身さえしていれば二位階程度の魔族は相手にならない。
俺は三発目をジーオルーンの肩に向けて撃った。
上下左右に狙いを分散させる俺に対して、巨大魔族は自らを守る盾を大型化させて対応してきた。あれはもはや盾というより巨大な壁だ。
あれだけの壁を作って維持するのもそれなりに魔力を消費するだろう。敵の消耗を誘うという意味ではこれでも悪くない。あの壁の向こうで体力を回復されるのはありがたくないが。
こちらも次の手に移るべきだろうか?
そう思った時、こちら側でも状況の変化があった。
「なんたる醜態ですか? たった六人。実質五人を相手にこれだけの数を並べて攻略できないとは」
やって来たのは仮面をつけたコスプレ魔族、狂乱の道化ゾイタークだ。
相変わらず似合っていなければ体に合ってもいない悪魔神官コスチュームを身につけている。こいつ自身はともかく、こいつが来たという事は……
やっぱり来た。
操られた五人の勇者。裏切りの蛇サクラムだけはなぜかいない。あいつだけは自由意志で動いているからだろうか?
雷破をくらって一時戦闘不能になっていたヴェルとクレイオンは動きがややぎこちない。戦力が半減ぐらいはしているか? ヴェルはともかく聖玉の勇者は攻撃能力は下がっていないかもしれないが。
その瞬間、俺たちの注意はすべて勇者軍団に向けられていた。
ゾイタークはそういう隙をつくのがお得意だ。こいつは道化というより手品師だな。
手品師の手から赤い玉が飛んだ。
玉は俺たちが出てきたハッチに飛び込み、爆発する。
ちぎれた伝導チューブが宙を舞った。
「名無しの勇者。いくらあなたでもその大砲を自力で連射するのは不可能ですよね」
「本当に目ざといヤツだな」
船載型の大型魔力炉との接続は断たれた。もう破城銃をボカスカ連射する事は出来ない。俺自身からの魔力供給でもう何発か撃つことは可能だが、ジーオルーンの創り出した壁を突破できないのなら意味はない。
これで戦況はこちらの不利になった?
そうでもない。
ある意味では予定通り。ゾイタークと勇者軍団までこちらに来たのなら、ジーオルーンの護衛役は手薄になっている。モード蜂でテイクオフすれば巨大魔族との接近戦に持ち込める。
だが、それはこの場を味方の死地として残していく事になる。
もう少しこの場にとどまって敵を減らすべきだろうか?
それは甘い。甘すぎる。
俺の心の冷静な部分が警鐘をならす。
俺の行く先だって死地だ。ここは味方に任せて先へ行く。俺がジーオルーンを倒せる可能性を少しでも上げる。それが正しいことだとわかっていながら俺はモードチェンジの決断を下せずにいた。
その時、頭上から声が聞こえた。
悲鳴のような、自分を鼓舞するような、そんな男の声。それは戦場であるここには不適切な「民間人」な声だった。
見るとそこには方形のパラシュート、パラグライダーにぶら下がる一人の男がいた。
彼は勇者ではない。が、正しい意味で勇気ある者ではあった。
誰かと思ったらドルモンだ。勇者本部の研究員は俺と初めて会った時と同じ悪魔神官コスチュームを身に着けていた。
彼は決死の形相でパラグライダーを操っていたが、地上の皆の注意を引いていることに気付くと大声を張り上げた。普通なら声が届く距離ではない。が、俺や勇者たちの強化された聴覚なら十分に聞き取ることができる。
「強制命令解除コード!」
それが狙いか。上空から戦況を観察して、急いで服を着替えて飛び出してきたのか。最初に勇者たちが操られた時から準備しなければこのタイミングには間に合うまい。
「ヲ、ゼ、カ、ノ、ウ……」
意味不明の文字列が並べられていく。
「やらせん!」
当然、と言うべきか。魔族側から妨害の動きが出る。
抗魔力ローブを身に着けているといってもドルモンは生身の人間だ。勇者や戦巫女なら気にもしないような低レベルの魔法攻撃を受けただけでも吹き飛んでしまう。いや、本人に命中しなくともパラグライダーが破損しただけでも大惨事だろう。
が、ドルモンを攻撃しようとした魔族の首が飛んだ。
斬ったのは平凡なる者ライム。
発射された魔力の矢は直径30センチぐらいの球体に撃ち落される。
聖玉の勇者クレイオンのオールレンジ攻撃だ。
聖玉までかいくぐった攻撃は突如として出現した結界に阻まれる。
当然ながら犯人は結界の勇者リモンだ。
まだ解除コードの詠唱は終わっていないのになぜ?
わずかに疑問に思ったが、別に深く考えるほどの謎でもない。
勇者の開発者に俺の前世であるロクト博士がかかわっていたなら、当然『ロボット工学の三原則』の知識ぐらいあったろう。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、人間に危害が加わるのを看過してはならない。
第二条 ロボットは第一条に反さない限り人間の命令を聞かなくてはならない。
第三条は今は関係ないので割愛する。
勇者の場合は『人間』の項目が『抗魔力ローブをまとった勇者本部メンバー』に入れ替わるようだが、基本的な仕組みは同じなのだろう。つまり制服を着たドルモンに対してはあらかじめどんな命令が与えられていても自動的に防御行動をとることになる。
ここで俺は気が付いた。
「アリアちゃん、ゾイタークの服を攻撃して」
「はい」
さすがアリアちゃんは頭の回転が速い。
彼女はノータイムで細かな氷の粒を大量に含むブリザードを作り出した。それを広域に放射。
魔族本人にダメージを与えられるような攻撃ではない。が、巻き込まれたゾイタークは抗魔力ローブを原形をとどめないほどにズタズタにされた。
「形勢逆転だ。こちらの援軍を連れてきてくれるとは、さすが道化だな」
「なんですとぉっっ」
狂乱の道化も気の利いた返事を用意できないようだ。
さあ、これで何の憂いもない。
行くぞ。
モードチェンジ。
モード蜂。
俺は光の繭につつまれる。
いつものチェンジでは感じることのない形容しがたい不快感に襲われる。ひょっとして、これって魔法少女の変身シーンみたいなシルエットがまわりから見えているのではないかと不安になる。
俺の視点が高くなる。
甲板から足が離れている。
背中から羽根が生えた飛行専用モード、それが蜂だ。
軽装すぎて体の線が浮き上がっているとか、そもそもその線が女性体になっているとかの問題点は考えないことにする。
「ムサシさん、使いなさい」
フォルテさんが何かを投げてきた。
反射的に受け止める。これはキラキラしたメダル?
何だろう、と疑問に思った直後、メダルから七色の光が広がった。
誰かがいる、と感じる。圧倒的な存在感の何者かが俺の前に立っている。そんな気がした。その誰かが俺に呼びかけてくる。
『異世界から来たりし魂よ。汝、力を得て何をのぞむ?』
「何が聞きたい? そもそも、お前は誰だ?」
『汝、力を得て何をのぞむ?』
ああ、これは『こちらの言葉は聞いてない』系か。
一定の反応しか返さないプログラムを相手にしているような虚しさがあるな。
「とりあえず今、力を得られるなら人類征伐将ジーオルーンをぶっとばす!」
「よかろう。汝をこの世界を守る乙女の一人と認めよう。仮の力を与える。使いこなしてみせよ」
目の前の存在から俺に得体の知れない力が流れ込む。
意味もなく意識が高揚する。俺の口が自動的に祝詞を紡ぎだす。
「この身は元より戦さのために生み出されしもの。世界を襲う魔を打ち払うことに、いまさら何のためらいがあろうか?」
モード蜂が力の影響を受ける。装甲の色が鮮やかな、いや煌びやかな黄色に染まる。アクセサリーのような装飾が追加される。
そして、ヘルメット部分がはじけて飛んだ。素顔があらわになる。全自動で化粧が施されている、気がする。ロングヘア、と呼ぶほどではないが髪が伸びる。髪飾りが出現する。
変身中、どこからも攻撃されなかった。
魔族も含めてその場の全員が俺の変貌を唖然と見つめていた。
「あ、あれって戦巫女⁈」
「戦巫女の力を勇者に上乗せしたのですか?」
「うわぁ、ホントにできちゃった」
女性陣の異口同音。
って、フォルテさん、ひょっとしてあのメダルはその場のノリだけで投げました?
「名無しの勇者、それがあなたの真の姿ですか」
こら、ゾイターク。そうやって納得するんじゃない!
「行かせませんよ」
「おっと、お前の相手は俺だ。先日の続きをやろうじゃないか」
ゾイタークが動こうとしたのをアルシェイドが牽制する。
こちらの味方に戻った勇者たちもドルモンを守るために行動し、モトサトも敵中に突入して無双する。
もはや後顧に憂いなし。
俺は飛んだ。
テストした時の経験からあまり高く飛べないことは分かっている。だが、中枢翼船を包囲する魔族の大軍の上を飛びこえる程度は問題ない。
ジーオルーンの巨大な眼球が俺をギロリと睨んだ。
俺を強敵とついに認識したな。
変身蜂少女戦士ムサシ、蹂躙を開始する!




