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異世界にてHENSIN  作者: 井上欣久


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17/25

17 出撃、殴り込み部隊

 俺の転生(?)から始まる一連の大騒動にもようやく決着の時が近づいてきた。

 戦いに負けて短すぎる生を終えるか、勝ってこの町ともども命をつなぐか。不憫とか理解できないとか言っていられない。

 決着の時だ。





 まだ暗かった。

 暁暗。夜明け直前の一番暗い時間に皆は集まった。


 場所は飛空艇の発着場。隅の方に置かれた飛空艇では未だに整備作業が続けられている。出撃の直前まで作業してギリギリすべて終わると聞いている。最悪、出撃に同行して飛びながら直すとも言っていたが、それは許可しないと通達しておいた。


 並ぶ飛空艇は大小とりまぜ合計15隻。駐機状態でもその翼がかすかな光を放っているのであたりが完全な闇に包まれる事はない。


 集まった人員は勇者が九人。人造の魔族とも呼ぶべき、異界からの魔素を力の源とする戦士たち。

 異世界勇者(仮)ムサシ。

 愛の勇者(笑)アルシェイド。

 獅子の勇者ゴウレント。

 蛇の勇者サクラム。

 結界の勇者リモン。

 大地の勇者オルデウス。

 嵐の勇者ヴェル。

 平凡なる者(本人談)ライム。

 聖玉の勇者クレイオン。


 戦巫女が一組(ペア)。この世界の神から力を与えられし者たち。

 アリアとミュリエラ。青と赤。氷と炎の属性を持つ二人。


 戦女神が一人。恐ろしいことに女神は巫女と違って行使できる神の力に制限がないのだと言う。つまりガス欠なし。本人の心が折れない限り無限に力を発揮できるというチートな存在だ。

 最強フォルテ。


 一般人の飛行士、兵員は合計で100名前後。

 直前になって死亡や負傷が確認された者もいれば飛び入りで参加を決めた者もいる。正確な人数は現在調査中だ。





「それにしても、こうして見るとずいぶんと女性の割合が多いな。戦闘要員はともかく、飛行士は女性の方が多い?」


 町の人間が総出で戦っていた城壁と違って今回は職業軍人ばかりのはずだが。

 俺の疑問に近くにいたドルモンが答えた。呆れた事にこいつもアーマーを着込んでいる。一緒に出撃するつもりらしい。


「戦争が長く続けば男の数が足りなくなる。人造戦士がなぜ男ばかりなのか疑問に思わなかったのか?」

「ああ、男が造っているなら普通は女性型にするよな」

「それを普通と言うのもどうかと思うが、女性が余っているからそちらは量産しないという事だ」

「タネ付け用か」


 女の子が積極的なのはそういう理由もあるらしい。

 遺伝的な問題も考えれば父親が同じの兄弟があまり増えても困るだろうし……アレ?


「そう言えば、勇者の親とかコピー元とかはどうなっているんだ? まさか完全な無から創り出している訳でもないだろう?」

「大体は戦死者の中から選ばれるな。成長中に外見データは弄られるから、ちょっと見では元が誰だったかわからない場合が多いが」

「戦死者が勇者として生き返って子を残す、か」


 町の人間が勇者に好意的な理由が納得できた。

 自分の親兄弟かもしれず、いつかは自分もそうなるかもしれない相手だと思えば敵意なんて向けられまい。


「で、俺のベースになったのはどんな奴だったんだ? 調べたんだろう?」

「分からん」

「? 本人には教えてはいけないという決まりでもあるのか?」

「そうじゃない。実質兄弟の夫婦とかができても困るからそういう情報は公開する事になっている。なのにお前の元になった献体は確認できない」

「……よっぽど後ろぐらい所から確保したのか? それとも二つ三つ混ぜ合わせているとか?」

「ま、あの女性化能力まで見ればあんまりマトモじゃないのは確かだろうな」


 聞くんじゃなかった。

 いや、男から女性を創り出すのはx染色体をダブルにすれば良いだけだから簡単だが。





 俺は軽く頭をふって余計な記憶を追い出した。

 城壁の向こうが白んでいる。そろそろ出撃の時間だ。


 俺は自分が乗る予定の大型飛空艇の甲板に飛び乗った。変身していなくてもこの程度の動作は容易い。

 最初から鍛え上げられている喉と腹筋で大声をはりあげる。


「諸君!」


 ゴウレントには負けるかも知れないが、なかなかの声量だ。その場の全員が揃ってこちらを向く。敬礼を送られる。

 あがってしまいそうだ。


「作戦開始前の演説なんて何を言えばいいか解らない。だから事務的に言わせてもらう。今回の作戦の主目的は人類征伐将を名乗る巨大魔族ジーオルーンの撃破だ。副目的として現在この町に接近中と思われる新型中枢翼船(セントラル)への現状の報告を行う」


 ここで言葉を切る。

 聴衆の反応は良くもなし、悪くもなし。ま、普通に聞いてもらえれば十分だ。


 そう思ったが、完全に横を向いている男がいる。

 それ自体は想定の範囲内だが、それが自発的な行動ができない腑抜けに成り下がったはずの勇者の一人だったのでちょっと驚いた。


「サクラム、どこを見ているであるか!」


 ゴウレントの怒声が飛ぶ。

 サクラム、蛇の勇者か。言われてみるとチョイ悪な顔立ちだ。仕草もどことなく不良っぽい。


「どっちを見てもいいだろう? 別にお前やそこの男女が俺の上位者って訳じゃない」

「なんだと?」

「やるか?」


 蛇の勇者は鎌首をもたげるように右手を顔の前に持ち上げる。

 蛇拳、と一瞬だけ思ったが、それは格闘の構えらしくない。どちらかと言うと変身ポーズの前段階?


 獅子の勇者も同じようにポーズを取りかけて、そこで躊躇った。出撃前の今、余計な事に魔力を使えない。


「まあ待て、ゴウレント。また一人、勇者が自分を取り戻したのは喜ばしい」

「へっ、俺をそこら辺のお行儀の良い坊ちゃんたちと一緒にするなよ。俺はな、考えていたんだよ。俺たちの頭を押さえつけるすかした野郎どもがいなくなった意味をな」

「出撃前にそんな事を言い出すとは、臆したか蛇!」

「怖い? 俺たちにそんな感情はない。お前もよく知っているだろう」

「恐怖する心は我にはある。ロクト博士は我からその感情を奪わなかった」

「……羨ましいね。操りの糸が切れても動けるわけだ」


 ええっと、蛇の勇者サクラムは自我を獲得して、それによって今まで強制的に戦わさせられてた事に不満を持った。という理解で良いのかな?

 完全に納得できる話だし共感もするが『なんでこの瞬間に』とも思う。


「サクラムさん、それであなたは何をしたいんだ? 出撃を取りやめるか?」

「へぇ? この男女。お前さん、雷や獅子のことは呼び捨てにしていなかったか?」

「彼らは勇者本部に所属している身だ。そこへ反旗をひるがえした俺とはある意味で対等。対してあなたはあなたの言う操りの糸を切り離すというなら純粋に先輩にあたる」

「おい、聞いたか、獅子。こいつはお前より俺に近い人間だとよ!」

「兄弟の絆とは切ろうと思っても切れない物である」


 面倒くさそうな絆だ。


「そこの変わり身」

「俺の事か?」

「蜘蛛とも蟷螂とも呼べないだろうが。お望みなら蜂と呼んでやるが」

「……それだけはやめてくれ」


 というか、惚けていたはずの彼がどうしてその情報を入手しているんだ?


「俺の事は蛇と呼べ、許す」

「わかった、蛇。俺を同胞と思ってくれるなら、その上で頼みがある。一緒に戦ってくれ」

「それだ!」

「どれだ?」

「俺が聞きたいと思った事だ。俺の記憶によれば、魔族の大侵攻が来る直前、蜘蛛の勇者の捕縛命令が出ていた。間違いないな?」


 あの時点では俺は蜘蛛の勇者と認知されていたのか。

 それにしても公衆の面前で今更その話を蒸し返すか?

 見るとゴウレントが苦虫を噛みつぶした顔をしている。今にも殴りかかりそうだ。


「そうらしいな。俺を未完成の半端者と思った何とかいう博士によって俺の解体命令が出ていた。だから脱出させてもらった。捕縛命令なり抹殺指令なりが出ただろうな」

「なんでだ?」

「?」

「このコル・バリエスタはお前を殺そうとしたんだろう? それが嫌でお前は逃げ出した。それなのに何故、お前はこの町のために戦おうとする?」


 何でだったかな? 最初の動機なんかイロイロありすぎて忘れたぞ。

 嘘を吐いてもこの蛇には簡単に見破られそうな気がする。本心を語りつつこの男を戦う気にさせないといけないのか。とっても面倒くさいな。

 俺は宙を見据えながらこの戦いの最初を思い出した。


「最初は成り行きだったな。勇者本部から逃げ出して城壁にたどり着くまでの間に敵襲があった。城壁の上には民兵たちが並んでいて、この町を守ろうとなかなかいい面構えだった。そう言うのは嫌いじゃない」


 蛇が『それだけか?』という顔をしていたので俺は先を続けた。


「正直な所、魔族が来るタイミングがちょっとずれていたらどうなったか解らない。何事も無ければ俺はそのまま城壁を越えていただろうし、最初に出会ったのが魔族だったら、相手の対応次第ではあちらの味方になっていたかもしれない。……今更、仮定の話には意味がないが」

「その後はどうなんだ? 成り行きだけで戦い続けるのか?」

「選択肢は無いんだよ。俺が人類側について戦ってしまって、この町が魔族の包囲を受けている以上はな。魔族は勇者の事を敵視しているだろうし、俺の側から戦いをやめたいと言っても聞いてくれるとは思えない。それとも魔族の前に行って両手を上げてみるか? 俺にはそんな勇気はないが」

「普通は殺されるだろうな。仮定に仮定を重ねるが、もし魔族側に寝返りをうつのが可能であったら、お前はどうする?」

「所属する陣営を簡単に変えるようなヤツは俺なら信用しないし、信用されないと思う」

「もっともだ」


 こんな話題を持ち出すとは、ひょっとしたら彼に魔族からの接触があった? 蛇の所にトカゲが話を持ちかけたならお似合いだが。

 俺はサクラムを観察するが、俺は見ただけで何かを察するような名探偵ではない。彼のはぐらかすような仕草が悪ぶっているだけのポーズなのか本当に何かを隠しているのか判別するのは不可能だ。

 俺は考えるのをやめた。


「俺がこの町に味方する消極的な理由はこれだけだな」

「へ? じゃあ積極的な理由も?」

「積極的な理由は美味い飯を食わせてもらった事だ。それから女の子が可愛い事だ」

「ヲイ⁉️」

「魔族に敵対する積極的な理由は昨夜、女の子との逢瀬を邪魔された事だ」

「ヲイヲイ」

「他に何か質問は?」

「ない。完璧に納得した」


 蛇の勇者は俺に向かって折り目正しく敬礼した。戦う気になってくれた様だ。

 あと、アリアちゃんが俺を恥ずかしそうに怒って睨んでいた。妙に可愛いかった。


「時間を無駄にした。もう夜明けだ。書面で通達したように勇者・戦巫女は1番から4番の飛空艇に分散して搭乗、ジーオルーンに対して空挺降下による襲撃を行う。5番から12番の飛空艇はその援護。魔法杖とクロスボウにより空中から攻撃、雑魚どもを混乱させるように。襲撃チームが交戦を開始した後は各自の判断による撤退を許可する。13から15番の飛空艇は対地攻撃に参加すると見せかけつつ戦場から離脱、新型中枢翼船(セントラル)との合流を目指せ。もし行き違ってしまったなら、そのまま首都まで行ってこの町の現状を報告せよ」

「「了解です」」

「すでに知っているとは思うが、昨夜、魔族側の諜報部隊の潜入があった。我々の作戦行動はおそらく敵に漏れている。これからの戦いはこちらが仕掛ける奇襲では無く、お互いに準備万端整えた正面対決になるだろう。厳しい戦いになるが、この戦いに勝たなければこの町に未来はない。……それでは、総員、搭乗!」


 俺の号令に従って兵たちが一斉に動き出す。

 これが権力者の気分か。悪くない。病みつきになりそうだ。

 もっとも、彼らの中で生き残る者はそんなに多くはないだろう。司令官役で遊ぶのはそう何度も出来ないはずだ。


 地表からわずかに浮上している形で繋留されている飛空艇に、兵たちはタラップで搭乗していく。身体能力では俺と同等以上であるはずの勇者たちも概ねはお行儀よくタラップに並んでいる。

 ゴウレントは俺よりも派手な動作で豪快に甲板に着地し、蛇の勇者は何もない所から手に吸盤がついているような動きで上に登っていたが。


 馴染みのメンバーが俺の飛空艇に乗って来る。って、少しおかしくないか?


「アリアちゃん、ミュリエラちゃん、君たちはフォルテさんと一緒に四番艇だったはずでは?」

「ちょっとお話しして代わってもらいました。私たちと一緒ではお嫌ですか?」


 微笑みを向けられては白旗を掲げる他ない。嫌だとか言ったら俺がOHANASIされそうだし。


「で、お前もついて来るのか、ドルモン」

「気になる事がある。中枢翼船(セントラル)の残骸には師や同僚たちの遺体もあるしな」

「アレの調査が出来るのは戦いが終わってからだぞ」

「わかっている」


 中枢翼船(セントラル)に向かって手を合わせたいと言うなら阻む理由もないか。


 一番艇の艇長は『肝っ玉母さん』といった風情の女性だった。セスティア一等飛行士。顔なじみのホーマン飛行士は前回使った小舟で新型中枢翼船(セントラル)への伝令役を担当してもらっている。


 飛空艇の対地高度が上がる。


 セスティア飛行士はキビキビとした動作で俺に敬礼し、発進準備の完了を告げた。


 二番以降の飛空艇でも次々に旗が振られ、準備完了を報告してくる。


「全飛空艇、発進準備完了しました」


 俺はうなずく。

 東の空はもう明るい。物を見るのに何の不安もない。


巨大魔族(ジーオルーン)討伐隊、出陣だ!」

「了解。一番艇『黎明の大地』、抜錨します」


 飛空艇を大地に繋いでいたワイヤーが外される。

 翼の光が輝きを増し、垂直に上昇。一番艇に割り当てられたルートに向けてゆっくりと旋回する。


「可動竜骨、展開」


 俺の立っている位置からは何も見えない。が、何かが動く音と振動は伝わって来た。

 遅れて浮上してきた二番艇を見ると、その底面に船体にそって帆のような物が張られている。

 帆と言うか、あれは安定翼。垂直尾翼に近い機能、飛空艇が横に流されるのを防止するための物だろう。


「微速前進、ヨーソロー」


 一番艇がゆっくりと前進をはじめる。ゆっくりと言っても人間が歩くよりはずっと速い。空を飛べるのは本当に有利だ。


 気がつくと俺と女の子たち以外の乗員は皆、艇に命綱を結びつけていた。

 超人(ヒーロー)は自前の能力で何とかしろということだな。実際、落ちても平気だし。


 ドルモンが重りのついた糸を垂らして反応を見ている。


「強い魔力反応あり。方向は目で見えるジーオルーンとほぼ一致」

「逃げも隠れもしないつもりか? 戦力が上回る側が正面対決を望むのは理にかなっているが」


 その大兵力の大半を遊兵化させるための策が空挺降下だ。魔族側としては絶対に空挺作戦をすかしに来ると思ったのだが。


 後ろを見ると各飛空艇が続々と発進していく。

 それぞれ割り当てられた航路に従い、花が広がるように散開する。乗員の探知魔法を駆使し、ジーオルーンの本体を探しながら敵上空で再集結を目指す。この時点では13番以降の飛空艇も他と違った行動はとらない。攻撃部隊に紛れつつ、隙を見て戦場からの離脱を狙う。


 はるか遠方でジーオルーンが動きを見せる。

 四本足の上に載ったモビルスーツ以上の巨大さの人体が腕を組んでいる。遠すぎて表情までは見えない。が、彼は笑った、ようであった。


「出て来たか、人に創られしまがい物ども。断言してやろう、貴様らの勝機は既に無い!」


 大音量の声が戦場の全てを震撼させる。


「ただのハッタリとは思わないが、怯むなよ」


 俺の生身の体も相当な肺活量を誇っているが、奴の声量には到底対抗できない。『良い指揮官とは声の大きい指揮官のことである』という警句が真実であると実感出来る。

 声対声で対抗しようとしたら、この飛空艇一隻分の士気すら維持できない。


 ならば見せてやればいい。


 俺は飛空艇の舳先へと走った。

 向かい風に胸をはり、両腕を横に振る。ゆっくりと回転させる。


「HENSIN」


 ジャンプして空中で一回転。風でやや後方に流されたが、わずかにバランスを崩しただけで変身を完了させる。

 モード蜘蛛(スパイダー)

 防御力と破城銃による遠距離攻撃能力。ここで他の選択はない。


「異世界勇者『変わり身』のムサシ。人類征伐将の首は俺がとる!」


 もはや恥もためらいも必要ない。

 俺は異世界に降りたったヒーローとして大見得を切った。

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