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異世界にてHENSIN  作者: 井上欣久


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11/25

11 コル・バリエスタ軍司令官?

 会議への出席依頼を受けとったが、行われていたのは会議ではなくただのお話し合いだった。それも文民側が不平不満をぶつけるだけ。

 ゴウレント、マジ無能!

 いや、勇者として戦うための知識を生まれながらに与えられているだけの男としてはよくやった。人生経験皆無の奴に司令官役を押し付けるのが間違いなんだ。





 大将首をとる。

 俺の宣言に周囲が示した反応は戸惑いだった。予想外の事に俺の方が焦る。別に難しい話ではないだろう。敵の大将を倒せばその戦は勝てる。ごく普通の話だと思うが。


「少し状況を整理してみよう。まずは敵味方の勝利条件からだ。敵の戦略目標はコル・バリエスタの破壊。具体的には都市結界を解除する事だろう。魔族側が出入り自由になり人類の生存には適さなくなる」

「そうなる、のであろうか?」


 ゴウレントの反応が鈍い。ひょっとしてこの世界では戦略と言う概念がない? もっとありそうな事としては一部指導者層だけがそれを独占しているのかも知れない。


「まあ、そう考えるとセントラルの残骸確保のために敵が一度引いたのは余計な行動になるのだが、それが作戦ミスとも言い切れないな。都市結界は逃げないが、セントラルからは捕虜の確保や研究資料の奪取と言った時間との戦いになりそうな要素がある。自分たちの勝ちは動かないとみて副次的な利益を確保しに行ったのだろう。……対してこちらの勝利条件だが、都市結界の維持だけでは足りないな」

「足りませんか?」

「結界の維持は絶対条件だが、それだけでは駄目だ。住人の生命と財産をある程度維持できなければ勝利とは言えない。そう考えると城壁に頼った戦いは愚策と言える。昨日の戦いではあまり使って来なかったが、魔族には砲撃レベルの大規模攻撃魔法がある。壁に近づかずにアレを連打されるだけでこちらは詰む」

「確かに本部ビルはともかく一般家屋の対魔能力はあまり高くありません。コル・バリエスタが焼け野原にされる危険はありますね」


 戦巫女と文民メンバーの賛同は得られたようだ。軍人サイドは不満顔。


「敵が来たら野戦を挑むべきだと? 我も覇王の二つ名を持つ者、臆するつもりはないが、城壁に頼ってさえ五分以下の戦いしか出来んのだぞ。それが野戦となったら勝負になる訳がない」

「誰が敵が来るのを待つと言った? 六日後などと言わずにこちらから討って出る」

「普通の兵は都市結界の外では戦えん。死を覚悟すれば一戦だけなら不可能ではないかも知れないが」

「それで町が救われるなら、我々はやります」


 一般兵代表らしい男が固い表情で言った。

 が、俺は死兵を使うつもりはない。と言うより、誰かにその命を差し出させる覚悟がない。カミカゼなバンザイアタックなんか自分でやるのも他人にやらせるのもまっぴらだ。

 いや、俺の提案だって十割死ぬか九割死ぬかの違いしかないかも知れないが。


「一般の兵は連れて行かない。勇者と戦巫女をこの町にあるだけの飛空艇に分乗させて空からの強襲を行う。ジーオルーンはあの巨体だ。空から見つけられないという事はあるまい」

「あう?」


 獅子の勇者は間抜けな声をもらした。


「この町に残った勇者と戦巫女全員によるジーオルーンへの一斉攻撃、この条件でヤツを倒すのは不可能だと思うか?」

「確かに、それならば可能性がある。やれるかも、否、やって見せる」


 ゴウレントが燃えている。


「念のため言っておくが、これは賭けだぞ。敵の大将で最大戦力を倒せば普通は勝ちだと思うが、それだけで魔族が死滅するわけじゃない。ジーオルーンを撃破した後、襲撃部隊が敵の数にのまれて全滅する展開はあり得る」

「大将を討たれた敵が全軍壊走する展開もあり得るのである。ジーオルーンを討った後、都市結界まで血路をひらくのも可能なのである。確かにこの作戦なら完全勝利も夢ではないのである」


 いや、それは夢を見過ぎだろう。

 作戦は悲観的に立てるぐらいでちょうど良いと思うが、人々の目に希望の光が灯るのを見るとゴウレントに好きなように言わせておこうとも思う。


 否定意見をぶつけるのが仕事の人は別にいた。先ほどミュリエラちゃんをいじめていたPTAオバサンが冷水をぶっかけに動く。

 標的は獅子の勇者ではなく俺だったが。


「人造戦士と戦巫女の全員を連れて行くのですか? それは危険ではありませんか? 町の護りはどうするのです」

「敵が来るまで待たないのはその為でもある。一度、都市結界に入った魔族が再度侵入可能になるには時間が必要だと聞いた。敵の休憩時間が終わる前ならコル・バリエスタ本体が大規模な攻撃を受ける事はない」

「人造戦士たちの出撃を見てから行動されたらどうするのですか? 主戦力が居なかったら、少数の部隊に蹂躙される心配もあります」

「その可能性は低いと考える。敵の側から見ればこちらの攻撃部隊をおさえることが最重要になるからだ。勇者と戦巫女が全滅したら都市の防衛は不可能になるからな」

「それならそれで困ります。あなた方があの化け物と刺し違えたら町の存続が出来なくなるではありませんか」


 確かに、それは考えていなかった。

 今回の都市防衛に成功してもその後の防衛力がゼロになっては困る、ってか? この一戦の勝利もおぼつかないのにその先までどうにかしろと言うのはさすがにハードルを上げすぎだろうと思うが。


 ここで発言を求めたのは意外な人物、ロングドレスの長身の美女、戦女神のフォルテさんだった。


「では、戦巫女の未熟なメンバーを残しましょう。覚醒したての子たちでは大して役に立ちません。将来の戦いのために温存しましょう」

「ボクたちは行くよ!」


 ミュリエラちゃんが勢いよく叫ぶ。置いて行かれてなるものかと勢い込み、アリアちゃんもその横でうなづいている。

 美女は二人を見てほほ笑んだ。その後、なぜか俺のこともチラリと見た。


「あなたたちは覚醒から10カ月だったかしら。あなたたちが普通の女の子に戻るにせよ次の段階に進むにせよ、これが戦巫女としての最後の戦いになるでしょう。心して同行しなさい」

「ハイ、頑張ります」

「よろしくお願いします」

「ふむ。戦巫女の選定はフォルテ殿に任せる。……勇者の方は逆に残しても役に立つ者がいないであるな。腑抜けた奴らは戦場で叩き直してやらねば」

「正常な心を維持している勇者はゴウレントさん、ムサシさんのお二方ですか。どちらかに町に残ってもらう訳にはいかないでしょうか?」

「俺は作戦の発案者だ。出撃しないのはあまりにも無責任だろう」

「我もこの町にいる勇者の中で最強の一人と自負しているである。戦力的に我を抜いての出撃など考えられないである」


 勇者は生き残っている9人全員出撃だな。戦巫女が二人、戦女神が一人。合計12人。後は飛空艇の乗員たちが攻撃隊メンバーだ。

 これで決定、と思っているとゴウレントの巨体の影から顔を出す男がいた。


「私からもひとつよろしいでしょうか? 私は勇者本部棟所属の中級研究員ドルモンと申します」


 悪魔神官君だった。もっとも悪魔神官風のローブは着ていない。昨夜身につけていたちょっと高級そうなアーマーも脱いだ地味な姿だ。

 彼は室内の視線を集めてたじろいだ。普通に注目が集まっただけで別に特に敵意のこもった眼ではなかったと思うのだが、心の弱い奴だ。


「その、私は情報を持っています。あのう、援軍について」


 室内のあちこちでガタリ、と音がした。のけぞったり逆に身を乗り出したり、人々の反応が激しい。

 俺?

 俺は悪魔神官君の言う事など話半分にしか聞いていないから余裕たっぷりだ。悠然と聞いているぞ。


「そのような事、我も聞いておらんぞ」

「機密だからだ」


 ドルモンは勇者(人造戦士)とそれ以外で態度の差が激しい。一般人には勇者と呼ばれて敬わられ、本部棟の研究員には人造戦士と呼ばれて蔑まれる。それが俺たちらしい。

 裏表悪魔神官は文民側にペコリと頭を下げる。


「失礼しました。厳密に言うならやって来るのは援軍ではありません。以前からの予定の行動です」

「どういう予定ですか?」

「もともとはこのコル・バリエスタが最前線になってしまった事が問題でした。魔素に関する研究をするには平地の衛星都市に研究所を置かなければ具合が悪い。だからここに人造戦士に関する研究者が集められたのですが、図らずもその場所が対魔族の最前線になってしまった。ならば貴重な研究者の引き上げが検討されるのは当然でしょう。まして、先月には人造戦士第一号の制作者でもあるロクト博士が行方不明になっていますし」

「ちょっと待て悪魔神官。セントラルの離脱は予定の行動だったと言うつもりか?」

「予定通りではない。予定を早めただけだ。本来ならセントラルは脱出ではなく攻撃機能を強化した戦闘型と入れ替えになるはずだった」


 戦闘型セントラルと研究用セントラルの交換が予定にあったのか。どおりで簡単に逃げ出すはずだ。出発の準備はとっくに完了していたのだな。

 ゴウレントがうなづいている。


「援軍と言うのはその入れ替えになる筈だった戦闘型セントラルの事であるな。到着予定時刻は?」

「明後日だ。正確な時刻は決まっていないが、昼頃になるだろう。それまで待てば戦力の増強が期待できる」

「おい、その前に大事なことを聞きたい」

「何だ、34番」


 ムサシだ、と言いそうになったが俺も奴を悪魔神官と呼んだ直後だった。


「その戦闘型セントラルは『防御力』は撃墜された物より上がっているのか?」

「……」


 返事がない。ただの屍のようだ。


「変わらないのか?」

「大型の飛空船はこれまで撃墜されたことがない。無かった。上空は魔素が薄い領域であり、魔族が苦手とする空間だからだ。よって飛空船の改良で防御性能の向上が話題に上がったことは無い」

「それでは自分が無敵と信じて悠然と飛んできそうだな、戦闘型セントラル。撃墜された残骸を見て警戒してくれれば良いが、最悪の場合もう一つ落とされるぞ」


 ゾイタークとの戦闘中に鳴り響いた轟音。アレの正体はいまだに不明だが、音を聞いた魔族はそれだけで勝利を確信していた。よっぽど自信のある攻撃手段なのだろう。


「それは困る。どうにかしろ、34番」

「どうもこうも、援軍の到着前にジーオルーンを倒しておくしかないだろう。敵と刺し違えても後顧の憂いが無くなったと思えば援軍の意味はある。作戦の決行は明日で良いか、ゴウレント」

「我としては今日これからでも構わんのであるが」

「個人的に一日は欲しい。俺は自分の能力をまだ把握しきっていないからな」

「特訓であるな。我も付き合おう」

「それは無理だろう。作戦の準備がある。使える飛空艇が何隻あるか、それをどう飛ばしてジーオルーンを捜索するか飛行ルートの選定、戦闘型セントラルに警告を出しに行く係も必要だろうし、出撃前にやらなければならないことはかなりあるぞ」


 一瞬嬉しそうにした獅子の勇者はムググとおし黙った。


「ここだけの話、我はそういうチマチマした作業は苦手なのである」

「では、作戦案の細かい部分はこちらで作成しましょう。後で承認をお願いします」

「うむ、承認はそちらのムサシから貰うと良いのである」

「おい、どうしてそうなる?」

「どう見ても、今後の作戦方針を決定したのはお前なのである。胸を張っていれば良いのである」

「俺はそんな地位にはないと……」


 言い募る俺をゴウレントはその大きな手で押しとどめた。


「その前にである。我からお前に渡すものがある」

「なんだ?」


 階級章とか指揮官の帽子とかだったら突っ返してやる、と俺は身構える。


「そう警戒しなくても良い。お前は知らぬであろうが、我々勇者は初出撃と三位階以上の敵の撃破でそれぞれ勲章が出る。それも一度の戦いで三位階を二体打倒など快挙と言って良いのである。勇者本部が今はあの有様なので正式な勲章は出せぬが、これほどの戦績をそのままにするのは収まりが悪いのである」

「別にいらないぞ。勇者本部からの離反を宣言した俺が貰うような物じゃない」

「多大な功績を残した者が褒賞無しなど、我らの気が収まらぬのである。よって、我のお古で悪いが仮の勲章を渡そうと思うのである」

「賛成です!」


 ミュリエラちゃんの元気の良い声に後押しされて、ゴウレントは持っていた小さなケースを開けた。そこには大小二つの勲章らしいものが並べられていた。小さな物が初出撃用だろうか? もう一方はかなりゴージャスなつくりだ。三位階以上の撃破はかなり評価が高いのがわかる。


 そういう事なら仕方ない、かな。仮の勲章ぐらいは貰ってやっても問題ないだろう。


 俺は不承不承うなづいた。

 アリアちゃんが素早く動いて勲章を受けとってくる。甲斐甲斐しく俺の胸につけてくれた。


 この場の流れとして皆に勲章をつけた姿を披露しないわけにはいかない。俺はふりかえり、暖かい拍手を浴びた。

 こんな事をしている暇は無いだろうに。

 いや、士気を維持するためには多少の祝い事は必要か? そうだとしても自分がそのダシになるのは納得出来ない。


「おめでとうございます」

「カッコイイよ」

「ふん、ちょっとは見れるじゃないか」

「出自はどうあれ功績は讃えなければなりませんね」

「善きかな、善きかな」


 それぞれ、アリアちゃん、ミュリエラちゃん、ドルモン、PTAオバサン(仮)、御老体(名前は?)の順だ。

 そして、ゴウレントがその大声を張り上げる。


「では、コル・バリエスタ軍司令官に就任するムサシ殿に改めて盛大な拍手を!」


 お、おい! なんでそうなる!

 慌てる俺に本当に盛大な拍手が降りかかる。もしかして、俺をいじめて楽しんでるんじゃないだろうな?





 ゴウレント、お前そんなに謀略の才能があるなら、そいつは自分が指揮官役をしているときに使え!

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