82/日
どうしてこうなった…。
今話から主人公がやらかし続けます!
※2/1
東郷のスキルを一部修正
【疾風迅雷】→【雷脚】
会見から一夜が過ぎた。
あの後も色々と質問はあったが、ピークはマルシェだったな。
やたら魔法や魔法陣について質問してくるおじさんや、スクロールについて事細かに聞いてきた糸目の男、異界について根掘り葉掘り尋ねてきたNPCというかサンタみたいなお爺さん、異界に関連して聖域についての考察を話したらやたら食いついてきた白衣の女性プレイヤー。
どれもこれも熱量が凄くて気疲れはしたが、粗方秘密をぶち撒けられて清々しい気分でもあった。
「俺は自由だーーー!!となるはずだったのに…」
これから王女二人と行動を共にするということは、どう取り繕っても目立ってしまう。昨日の会見はその下地を作るための、謂わば土台造り。
アイツなら何かやらかしてもおかしくはない、という嫌な信頼を、俺が過去に齎した実績と、持っている情報、そして人脈をベットして勝ち取ったのだ。
そして、これは棚ぼただが、シークレットクエストという便利な免罪符を知ることができた。
この免罪符は、相手にとって謎が大きければ大きいほど効果がある優れものなので、今まで思っていたよりも煩わしさに囚われることは無くなるかもしれない。
だが、持っている情報をベットしたとは言っても、3つだけ隠したままでいたい情報があった。
この三つだけは、それを聞いたプレイヤーの行動が予測できなく、土台造りどころか、俺のMLプレイに支障をきたす恐れもあったからな。
そのひとつ目は聖霊王について。いや、厳密には世界樹についてだ。
世界樹の実を食べた精霊王が進化した。この事実から推測できる事柄は多岐に渡る。
世界樹の実を食べれば精霊王だけではなく、他の種族も進化出来るのか。出来るとすれば、どんな種族が進化できるのか。人間種にも進化は存在するのか。出来るとして、世界樹の実で進化出来るのか。聖霊達は、進化した直接の原因は属性が強まったからだと言った。では、世界樹の実じゃなくても進化したのか。
進化という要素に一番敏感なのはテイマー界隈だろうか。シークレットという言葉だけで抑制させられる自信はなかった。
二つ目は、源泉だ。
どうも調べた感じだが、別のプレイヤーが最初に発見したという源泉とは毛色が異なるらしい。
それが源泉個別の特色なのか、立地の問題なのか、大きさの問題なのかは分からないが、たしかに異なる部分があった。
それは、源泉に付随する所有領域の広さだ。
この所有領域は、その中に拠点を建てたりできる自分達だけの土地みたいなものなのだが、どうも精霊宮殿の所有領域は、数倍どころではなくもっと広い。なんせ、あの宮殿がすっぽり収まって、さらに広げますか?と問われるくらいの拡張性まであるからな。
ちなみに、他のプレイヤーが見つけたらしい源泉の領域は、[源泉の間]と呼ばれる精霊宮殿にもある、色彩豊かな水晶クラスターに囲まれたちょっと幻想的な8畳ほどの空間があるのだが、そこを二回りくらい大きくした程度だという。
ちなみに所有クランは【運命の輪】。加入条件が極振りという、スペシャリストの巣窟だ。昨日の会見にもクランマスターが来ていたが、彼女がLUC極振りで、クラン名はそれにあやかって付けられたらしい。
源泉については放置しているので、聞かれても「触ってないので分かりません」と答えるしかなく、まだユズ達しか源泉のことは知らないので、敢えて話すこともないだろうしな。
それにヘルプを読む限り、源泉ってあからさまなPvP要素だしな。なんと、源泉は無理やり奪うことも出来るらしい。これが口を噤む大きな理由である。
最後に三つ目、これが個人的に一番面倒事になりそうな、空間妖精のワープゲートだ。
これだけはダメ、絶対に!
空間妖精のワープゲートは、人間界の町にある転移陣と仕様の違いが多々あるが、あれの一番拙いところは、一人でもパーティ単位でもなく、一度の転移で移動できる人数に制限がない上に、ゲートが開いている間は行き来まで出来るところだ。
妖精の輪を使った時限定でしか使えないとはいえ、精霊界の存在を喋ってしまった今、これがバレるのは相当に拙いし、最悪輸送係に使われるなんてこともある。
空間魔術を上げれば、最後に訪れた町に帰還できる『リターン』という魔術が覚えられるらしいし、是非早く普及してほしいところ。
まあ、普及したところで、バレたら拙い要素はそこじゃないんだけどな…。
という隠しごとはまだあれど、昨日の会見は大凡の目論見通りうまくいったと言えるだろう。
しかし、やはり思いつき即実行では想定外の事態も起こるのは必然で、ふたつだけ大きな誤算があった。
最後の最後、二人のプレイヤーが手を挙げたのだ。俺の知っている情報はほとんど喋ってしまっていたため、残りは隠しておきたいことしかなく、警戒して耳を澄ませたのだが、まずセシリアさんが指名した男がこう言った。
「この会見が行われるキッカケとなった、その規格外の魔術とやらを実際に見せてほしい」
これを言ったのは【風の盟約】のヴァングだったのだが、それを聞いたもう一人の挙手していた着流しの侍のようなプレイヤーが待ったを掛けた。
「待ってくれ。本気の彼とサシで勝負がしたい、制限のあるスキルを事前に使われるのは困る」
「それこそ明日にしやがれ。既に今日は一度使ってるって話だ、本気の相手と戦うのが望みなんだろ、東郷?」
「なるほど。では、明日にするとしよう」
と、なんか勝手に決まってしまった。
決まってしまった後に断るのもなんか雰囲気悪くなりそうだし、これが最後というのもいただけなかった。最後の最後で悪い印象のまま終わらせてしまうのは、ちょっと望むところではなかったのだ。
なので、昨日は最後にサラとファイアボールを撃つお仕事をしてお開きに。
マルシェに分析されたので、適当にミスリードさせておこうと思ったが、考えを改めた。
対峙するこの男に一泡吹かせることが出来れば、俺はもっと自由だと思い至ったのだ。
何せこの東郷という男こそ、MLでプレイヤー最強と言えば?と話題になれば、必ず一番に名前の上がるプレイヤーなのだから。
勝てずともいい。善戦出来ればそれで目的は達成だ!
ただ、俺では善戦も難しいと思うので、とあるプランを用意したのだが、その為には聖霊達の助力を得る必要があった。なので、もう精霊王だと誤解してくれているなら、バラしてしまってもいいかな、と。
ちなみに、盤外戦術など卑怯なことでなければ何でもアリと昨日のうちに取り決めてあり、場所まで決めて、事前に罠を仕掛けてもいいとまで言われた。
ちょっとイラッときたが、よくよく考えれば、この男が言った本気というのは、真正面からというだけでなく、公平に戦いたいということなのかもしれない。
例えば、剣士職と盗賊職では、同じ物理職でも土俵が違うので、当たり前だが本気といっても毛色が異なる。真正面からやれば剣士の方が有利だし、障害物ありの搦手を使えば盗賊が有利だ。
そういう職業的な得意不得意があるからこそ、お互いにできること全てを許容して、全力で戦おう、と。
「昨日の魔術は凄まじかった。【雷撃】の師匠というその実力、期待している」
「あまり買い被られても困ります。終わって拍子抜けしないでくださいね」
少し震える手に力を込める。別に怖いわけではなく、溢れそうだからだ。
「(両者、準備はいいわね?)」
フレンドコールで聞こえるセシリアさんの声。
周りに観戦者がいると巻き込んでしまうからと、他のプレイヤーには観戦を遠慮してもらっている。その代わりに、二人それぞれの視点で配信させられているが。
この試合自体は決闘システムで執り行われる。
お互い同意の上で行われる決闘はPK扱いにならないので、プレイヤー同士のいざこざ解決なんかに利用されているらしい。
色々とルールを設けて闘技大会みたいなことも出来るようだが、今回はルール無用のなんでもありだ!
決闘の開始は立会人の掛け声で始まる。フレンドコールでも大丈夫らしい。
場所はプリムス草原の端。人っ子一人居ない草原は、気持ちのいい微風が頬を撫でる。
「問題ない」
「大丈夫です」
緊張が場を支配する。
「(では、始め!)」
開始早々、東郷が取った行動は武器の刀を抜くでもなく、距離を詰めるでもなく、スキルを使うでもなく、言葉だった。
「昨日のアレをやるのなら待つ」
「…必要ない」
「そうか、いらぬ世話だったな」
最初から対人戦でフェアリーズの助力を請うつもりはなかった。隙が大きすぎるし、一対一で使える手札ではないのだ。
だが、待つだと?本気で戦いたいのは理解したつもりだったが、あまりにも舐め過ぎではないだろうか。
こっちは油断なんてしている暇はないんだ!全力で行く!
「【精霊召喚】『召喚:ウンディーネ・ノーム・シルフ・ルクシア・テネブラエ』!」
「「「『共鳴同化』!」」」
契約と違って召喚はパーティ枠を消費するので、サラはお休みだ。昨日のデモンストレーションにサラが選ばれた理由がこれだったりする。
「ほう、それが君の全力か。拙者も本気で行かせてもらおう…参る!」
速いっ!!
流石にマルシェほどの機動力はないみたいだが、スキル無しの移動速度なら闘技大会で見たアッシュに迫るか、それ以上に感じるのは、実際に対峙しているからだろうか。
「【神速】【雷脚】【剣の道】【剛の剣】【神風】『急所の心得』『一点集中』」
聞いたこともないスキルか武技かを重ね、グングンと距離を詰めてくる東郷。
これは事前の打ち合わせと、東郷の最初の油断がなければ、聖霊達の共鳴同化は間に合ってなかったかもしれないな!
しかし、噂通りかよ!開幕速攻、一撃必殺!
まず何よりも重要なのは最初の一撃でやられないこと!
そしてーー。
「【一刀両断】『居合一閃』!」
「【精霊化】!うぐぅ!?」
精霊化したのにダメージがあるってことは、あの回りバチバチしてるやつ判定あるのかよ!
精霊装束の発動までは間に合うはずもなく、水属性のただの精霊化だ。
しかしダメージに怯んでいる場合ではない!
そして、次に重要なのが互いの距離を出来るだけ縮めることだ!
「ノーム!」
「(任せてください!)」
ズドドドドドッ、と視界一面を埋め尽くしていた草原を遮るように現れた土壁に囲まれる。
「拙者の初撃に耐えた魔術士は初めてだ」
「そりゃ、光栄だね」
根性スキルみたいな耐えるスキルを今まで戦ってきた魔術士全てが持ってなかったとは考えづらい。つまり、事前に発動していたスキルか武技に、それを無効にするような効果があったのだろう。
「しかし、退路を立つような真似は解せんな」
「俺はレインの師匠らしいが、弟子から学ぶ師匠もいるってことさ!【魔力暴発】!」
この決闘が始まる前から溢れ出しそうだった魔力を解放する。
いやぁ、強化マシマシの一撃を喰らった時は危なかった。斬撃ダメージは無くても、ビリビリでビリビリしたのだ。
これには、この決闘に備えて取得した二つ目のスキル【集中】が役に立ってくれたよ。集中している時にスキル効果を強化してくれるというふわっとした効果のスキルだが、きっと役に立っている。
俺がMLでダメージを受けた回数なんて片手で足りるくらいに少ないのに、戦闘中という緊迫した状況、相手は最強のプレイヤー、慣れないダメージ、配信されている謎のプレッシャー。これだけ揃っていて、俺の魔力操作がブレないはずがないだろ!舐めんな!
「危険感知がこれほどまでに反応するか…。しかし何かが起こる前に斬ればいい、それだけのこと!」
「(初撃には驚いたけど、オイラの方が速いもんね!)」
精霊化がある限り、物理ダメージは効かないが、それでも東郷が纏うビリビリがある。あれには属性的なダメージが伴うようなので、喰らい続けるのはまずい!
だが、聖霊達が受け、去なし、押し返し。閃光が弾け、闇が拘束する。
「グッ、これほど、とは!」
しかし、正直に言おう。
聖霊達が召喚できてしまった時点で負ける要素がないのだ。
【精霊術】は精霊の力を一部召喚するスキルらしいが、【精霊召喚】は完全召喚だ。召喚された精霊は、自分の魔力で魔術も魔法も、多分魔導だって使える。権能という能力もあるみたいだしな。
その上、ディーネ達は聖霊王なんていう畏れ多い種族であり、LV.297のナマズを瞬殺してしまう公式チートだ。プレイヤーが勝てる道理が一欠片もない。
だから、だからこそ、攻撃を控えサポートに徹してもらっていた。
俺が一人で戦っても善戦出来なかっただろう。精霊化で初撃を無力化するのがやっとで、そのまま負けていたはずだ。
流石に俺もこれは卑怯だと思うから。
東郷すまんな、引き分けだ。
「(あ、ごめん!これ、ヤバいかも!わたし達のINTが乗ってるの忘れてた!)」
「「「(あ…)」」」
いや、なんだよ!あ…、じゃねぇよ!
ずっと溢れそうな魔力の維持を手伝ってくれていたディーネが、洒落にならないことを言い出す。
「東郷すまん!ちょっと予定外の事態だ!ディーネ、魔力暴発ってどうにかなるのか!?」
「(わたし達が力を合わせれば、指向性を持たせるくらいはなんとか?)」
「どうにかなるんだな!頼む!」
「(レンテ、空に杖を翳して!)」
言われた通りに両手で杖を構え空に翳した瞬間、魔力の暴流が天に穴を開けた。
気を抜けば吹き飛びそうな杖を力の限り握りしめ、長く長く長いその時を、終わりを待つ。
ただただ無為に過ごす。俺に出来ることは指示を受けた杖を構えることだけだった。
視界を埋め尽くした奔流する極光が、徐々に幅を狭め、一筋の光に変わるまで、どれだけの時間を要したのだろうか。
晴天だったはずの青空は黒雲が覆う曇天へと変貌し、雷鳴を響かせ雨が頬を打ちはじめた。
〈【魔導砲】スキルが取得可能になりました〉
〈【魔力制御】スキルが取得可能になりました〉
〈称号【天候を変える者】を獲得しました〉
〈称号【絶望の王】を獲得しました〉
〈【天候操作】スキルを獲得しました〉
〈【畏怖】スキルを獲得しました〉
〈【絶望覇気】スキルを獲得しました〉
取り敢えず晴れないかな…。
あ、自分の所有領域じゃないと無理なんですね、わっかりました!




