81/土
武器の正式名称は分からないが、細剣を腰に佩いた育ちの良さそうなプレイヤーが手を上げる。
他のプレイヤーも手を挙げているのだが、一挙手一投足が様になっていて、つい目が惹きつけられるというか。背筋ピーン!だ、ピーン!
そう、レインが闘技大会の決勝で戦ったマルコさんだ。
「では、マルシェさん。どうぞ」
マルシェだった。口に出したわけじゃないからセーフ!
「クラン【高潔なる騎士団】のクランマスター、マルシェですわ。闘技大会の件では、お世話になりましたわね」
「…いやぁ、見事な勝負に目が離せませんでしたよ。あははは…」
え、なに!?俺なんかヘイト買うようなことしたか!?
「レインさんは貴方のために勝つようなことを仰っていましたわ。おっと、これ以上は司会の方が怖いので雑談はこれくらいで」
くっ、レインが何か言ったのか!?余計なことを…!しかも微妙に勘違いが起きそうな発言を、こんな大勢の観衆がいる前でやめてもらえます!?
これは闘技大会の意趣返しのつもりなのか…。ちくせう。
「魔法もお見事でしたが、この会見が行われる原因となった一件では、規格外の魔術を披露されたそうですわね。その要因の一つと考えられている妖精さんはこの場でご披露願えますでしょうか?また、妖精は他のプレイヤーでも契約出来るものなのでしょうか?」
「まず、マルシェさんがおっしゃった今日の一件で使った魔術があれだけ大規模になった理由は、大きく二つの理由があると思っています。推測になるのは、自分でも把握しきれてない部分があるので許してほしい」
バフデバフを掛けまくったってのもあるが、やっぱりどう考えても威力のおかしかったアレの原因は、思いつく限り二つだ。
まあ、その前に。
「その理由をお話しする前に、先にマルシェさんの質問にお答えしておきますね。まず、フェアリーズ、出てこい!皆さんにご挨拶だ」
「「「あいあい〜」」」
愛想を振り撒いてこい!出来るだけ良い印象を与えておくに越したことはないからな!
ちなみに、フェアリーズとは裏取引済みで、ここで最大限愛想を振り撒くことを条件に、混沌鯰の討伐を聖霊達にお願いすることになっている。
はぁ、またあれやるのか…。
一ミリたりとも活躍できないから、今のところMLで経験した戦闘の中で一番嫌いだ。活躍してないから、カケラも経験値入ってこないしな。なんか称号は生えてたけど。
取り敢えず、フェアリーズの愛想振り撒き大作戦は成功しているようで、一部の女性プレイヤーは熱狂的に騒いでいるみたいで、警備の衛兵に注意されているのもチラホラ。
「俺は彼らのことをフェアリーズと呼んでますが、正式名称は【妖精達の大行進】。契約枠一つで、複数呼び出せるタイプです」
数だけは異常みたいだが、契約枠一つで複数呼び出せるタイプの契約種族は珍しいわけでもないらしい。
「フェアリーズが得意、というか出来ることは、基本的にサポートのみ。他のプレイヤーが契約出来るかどうかは、申し訳ないですが分からないです。シークレットクエスト扱いのようなので、契約した場所を教えてもいいですが、その場合は現地人の好感度に影響が出て、そのエリアに入れなくなる可能性があることは承知してほしい」
さっき、本当にさっきまで知らなかったのだが、メニューにクエスト一覧という項目がある。
今までクリアしたクエストが一覧として載っているのだが、そこには〔通常クエスト〕〔緊急クエスト〕〔指名クエスト〕〔シークレットクエスト〕〔イベントクエスト〕と5種類あって、他は省くが、シークレットクエストはNPCの好感度や、様々な要素によってプレイヤー毎に発生するクエストらしい。
そして、プリムス大森林の聖域の場所はシークレットクエスト扱いらしく、もし俺がこの場でバラしてしまうことで、クエストを発生させずに現地直行すると、シルウァヌスさん達の好感度を著しく下げて、聖域に入れなくなる可能性があるらしい。
なので、シークレットクエストの内容は詮索することも、逆に無理矢理教えることも暗黙の了解で禁止されているらしく、重要そうな情報を手に入れたら、まずはシークレットクエストかどうか確認しろと説教された。
すみません、一般知識に疎くて…。
ちなみに、他にも世界樹だったり、精霊王の進化だったりがシークレットクエスト扱いみたいで、世界樹については前にグレンとセシリアさんに話してしまっているので、大丈夫かと慌てたが、この世界のどこかに世界樹がある、という程度の情報では、制限にかすりもしないらしい。
「契約したければ自分で探し出すしかない、ということですわね…。感謝いたしますわ」
「いえいえ。それで、魔術の話に戻りますが、二つの要因が大きく関わっていると言いましたが、その一つがフェアリーズです。フェアリーズには『妖精の輪』という奥義のようなものがあって、それを使うと、一部を除いた次に使う魔術を超強化してくれます」
妖精の輪が適用されるのは、そのほとんどは攻撃魔術だが、一部空間妖精のリフレクションのような例外もあるみたいなので、使えるのは攻撃魔術だけではない。
「どれくらい強化されるかを端的に説明すると、LV.10前後のINTメイン、DEX少しのプレイヤーが、フェアリーズからのバフデバフと、妖精の輪だけで強化されたファイアボールで、スフィルロック数体を消し飛ばして、3メートルくらいのクレーターを作るくらいの威力ですね」
「それはまた、頭のおかしい強化ですわね…。その妖精の輪というのは、無制限に使えますの?」
「いえ、一日に三回までの制限があります。ただ、ちゃんとFFもあって、行き過ぎた高火力は自分にも牙を剥きますので、それを防ぐためにもう一回発動させるので、実質一日に一回しか、同じような火力は出せませんね」
「それでも十分おかしな性能に感じますが…。もう一つの要因というのを伺ってもよろしくて?」
「こっちはシークレットクエストに関わるかもしれないので、あまり詳しくは説明できませんが、【精霊召喚】というスキルです。その取得経緯はがっつりシークレット扱いなのでご容赦ください。ただ、精霊召喚スキルの内容は、契約っぽいことをした精霊を召喚できる能力があります。『召喚:ウンディーネ』」
「あっ、やっと召喚してくれた!なんで私じゃなくてノームが最初だったの、レンテ!」
やべっ、事前連絡なしで召喚するんじゃなかった!せめてノームにすべきだったか…。
さっき水魔法で理想ディーネ披露したから、ディーネの方が話伝わりやすいかと思って選んだが、ノームが言ったように不満に思っていたようだ。
「それは後から埋め合わせするからさ。ほら、他の人たちの目もあるし…」
「え、あれ、すごい人集りだね。何かお祭りでもやってるの?」
「いや、今は精霊や妖精について説明してたところだ」
「そうなんだ!それならわたしが適任だね、任せてよ!」
「あっ、おい!」
遠くの人に見えやすいようにか、空中に浮かぶディーネ。
「人の子達よ、わたしは母なる精霊女王、四大精霊の一翼を担う、水の聖霊王ウンディーネ。レンテのように正しき縁を結んでくれるのであれば、精霊も妖精も、自ら歩みよってくることでしょう」
「ディーネ、その辺りでいいから戻ってこい!それに今更取り繕っても最初のやり取りで化けの皮剥がれてるぞ」
「ぶーぶー!レンテがいきなり呼び出すからでしょ!」
これ以上、余計なことを口走る前に止めておかねば!
精霊王が聖霊王だってことは言葉だけじゃ読み取れないだろうが、そもそも精霊王だってことすら言う必要がなかったことだ。
まあ、仕方ない。言ってしまったものは取り消せない…。
「話を戻します。彼女には【霊体操作】というスキルに由来する武技『共鳴同化』というものがあって、それを使うと魔術の威力を上げることが出来るのです。まだ完全に把握できてないのですが、精霊と共鳴同化することで、使える属性に制限は掛かりますが、多分妖精の輪と同じくらいは強化されてるんじゃないかな、と。使ってみた感じですが」
正確にはINT・MNDの上乗せだったり、属性相性がすごく良くなったりだが、同じようなものだ。
「取り敢えず、あとでそっち行くから一旦戻っててくれ。いきなり呼んで悪かったな」
「はーい」
「お、お待ちくださいウンディーネ様!ひとつだけ、お伺いしたいことが!」
うーむ。ここで無碍に断ってしまうのは印象最悪だが、あまり余計なことを聞かれたくない…。
「なにかな?」
迷ってる間にディーネが返事してしまった。
変な核心をついてこないでください!お願いします!
「先ほど、精霊と妖精は自ら歩みよって来るとおっしゃられてましたが、それはレンテさん以外でも契約出来る可能性があるという認識でよろしいんですの?」
「精霊は基本的に、属性値が高くて属性相性が良くないと無理かなぁ。妖精は、レンテみたいに沢山と一気に、っていうのは難しいと思うけど、ちゃんと心が通じ合えば誰でもチャンスはあると思うよ!」
「なるほど、つまりレンテさんは水と土の相性が非常に良いと…。教えて頂き感謝いたしますわ」
なにか分析されたんだが…。もしかして、レインと再戦前の前哨戦とかいって襲撃されたりしない、よな?
まあいいや。
はーい、押さないでねー。ウンディーネ様がお帰りだよー。
マジでこれ以上余計なこと聞かれなくてよかった…!




