80/土
ちょっと賛否両論あるかもしれない…
あと、これから数話新キャラ多数登場しまふ
ビシッと正装の初期装備に身を包み、会見会場で威風堂々たる佇まいで開始の宣言を待っている。
凄く視線が痛い気がするがきっと気のせいだし、MLの運営母体であるAE社が提供しているライブ配信サービスで生配信までするとか言っていたのは聞こえなかったので、多分大丈夫だ。
何故こんなことになっているのかと言えば、勿論フェアリーズのお披露目会が原因だが、それ以上に野次馬に色々と聞かれた俺が「正式に会見っぽい場を設けて質問に答えよう」と言ったからであり、今のこの状況はある程度予定通りと言えた。
プリムスの中央広場に急拵えで設けられたこの会見場に用意された限られた席に座るのは、誰がどう見ても攻略組ですありがとうございます。と言いたくなるガチ装備に身を包んだ面々である。トッププレイヤーとかには疎いので、誰一人名前は知らないが。
いや、あの…誰だっけ?闘技大会の決勝でレインと戦っていた…。マルコ?さんは分かるよ、うん。
そして、立ち入り禁止のロープで区切られた外側には、公式イベントでも始まるのかと言うほどのプレイヤーの群れが集まっていた。正直ドン引きである。
これだけ大規模になってしまった要因として挙げられるのは大きく二つ。野次馬が掲示板で拡散したことと、会見の取り纏めをセシリアさんにお願いしたからだ。
まあ、ここである程度洗いざらい話してしまえば、変に抱え込むものも無くなって、明日からは快適プレイだ!
何やら掲示板では、ついにレインの師匠が表舞台に!?とかで話題になっているらしいが、あれはうぃんうぃんの緩い関係であって、師匠とかではありません!
「それでは、準備が整いましたので、プレイヤー名レンテによる会見を始めさせて頂きます。尚、質疑応答の際は挙手してから、こちらが指名したのちに発言頂きますようご留意ください。また、発言者以外は進行を妨げることのないようお願い申し上げます」
セシリアさん真面目モードだ。
さすが最大手生産クランのクランマスターなだけはあるな!オーラが漂ってます!
「まず初めに、プレイヤー名レンテの功績について纏めたものがお手元の資料に御座います。傍聴の方々には彼を知らない方が多いと思いますので、一部抜粋して読み上げさせていただきます」
曰くレンテというプレイヤーは、スクロールというアイテムを発見した。曰く、魔術の遠隔操作を一般的に普及させるキッカケをつくった。曰く、闘技大会ではレインを陰ながらサポートした優勝の立役者。
スキルのソート・カテゴリ機能が追加された情報についてはセシリアさんは知らないはずだが、何故かばっちりお手元の資料に載っているようだ。どこから漏れたか考えるまでもなく、ユズしかいない…。
「そして、最近の話題の中心である異界とスキルの昇華につきましても、彼が第一発見者となっております」
ザワッ、と。
傍聴の塊の奥の方から「証拠は!?」だの、「嘘つけ!」だの、オブラートに包んで、この様な怒号が飛び交っている。
彼らは馬鹿なのだろうか?わざわざ俺が会見場をここに指定した意味を理解してないんだろうな。
MLにおいてNPCの重要性は多くのプレイヤーが理解するところだ。先に進んでプレイヤーが国でも興せるようになれば話は別だろうが、まだ序盤も序盤。プレイヤーだけで成り立つはずもなく、そうでなくてもプレイヤーでは敵わないNPCもゴロゴロいる。
MLは、プレイヤーは異邦の旅人として、NPCたる現地人と共に手を取り合って生きていく世界なのだ。
だから、多くのNPCが見守るこの中央広場は、NPCの数だけ監視の目となり、プレイヤーの過度な行動を抑制させる。
この会見場の場所を決める際に、脳筋王女に頼んでプリムスの領主に警備兵を借りているので、過激な行動を起こそうとするプレイヤーは問答無用でしょっ引かれます!
テューラ殿下様々である。
「それでは、質疑応答へと移りたいと思います。必ず挙手をして、指名されてからの発言を心掛けてください。はい、ではヴァングさん。所属とプレイヤー名を述べてから質問をお願いします」
「クラン【風の盟約】のクランマスター、ヴァングだ。まずは、こんな資料や言葉だけじゃ、お前の功績とやらを信じられねぇ。何か証明できるパフォーマンスを一つ、お願いできないか?」
クラン【風の盟約】。
プレイヤーの情報に疎い俺でも知っているMLで一番巨大なクランだ。末端まで数えれば5000人を超えると言われている所属人数は、他のクランの追随を許さない規模を誇る。
一つのクランが最大48人までしか所属できないのにどうやって5000ものプレイヤーを抱え込んでいるのかといえば、2nd、3rdという下部クランをつくり、同盟という機能で連携を取っているようだ。
だが、最大クランとはいえ、中核メンバーは3rdまでの144人と公言しており、それ以外のクランはファンクランみたいなものだとも言えるだろう。
しかし、パフォーマンスか。
きっとこの後に質問されるだろうし、先に見せておくか。
「では、気になっている人達も多いと思うので、魔術を昇華させた魔法をお見せしましょう」
というか、この流れは事前に決まっていたので、脳筋王女経由で領主にお願いして、ここだけ魔法が使える様に結界を張ってもらっている。
何故か会見場の端っこに大量に置いてあるバケツになみなみと注がれた水に疑問を持ったプレイヤーもいたかもしれないな。このデモンストレーション用の水だ。
青の宝石を頂点に据えたお高そうな杖を片手に、バケツのもとまで歩く。この杖はセシリアさんから使えと渡されたもので、水属性を補助してくれる効果があるのだとか。
初期装備と比べて数十倍強いので、現行でトップクラスの装備なのだろうな。
一礼して、杖を構える。
披露するのは、ここ最近練習してやっと見られる様な形になってきたアレだ。最初は不恰好過ぎて、見るに耐えなかったが、今ならばやれる!
慎重に、10杯分のバケツの水に魔力を浸透させて、空中でひと塊に。ゆっくりと形を整えていくが、ついついここが違う、あそこが違うとダメ出しされたところまで修正してしまう。
本物はもっとちっこいし、胸なんて皆無、こんな大人びた表情見たことがない!
そうして出来上がったのは、理想のディーネの水像だった。
理想ディーネをプレイヤーの頭上に飛ばせ、手を振ったりしてサービスしながら一周させる。最後は高い位置から、会場全体に届くように身体を水飛沫に変えてフィナーレだ。
「これで証明になりましたか?一応、魔法で操作した水は、魔術と違って消えないので、皆様の服や、地面が乾かないのも、証拠の一つと言えるかもしれませんね」
「ほう、興味深い。いやしかし、見事なまでの証拠だな。疑うような真似をして悪かった。ここにいる大衆が証人だ、お前の功績を我々は信じよう!」
ヴァングの大声での宣言に、傍聴者達が歓声を上げる。
これが茶番だと理解している者もいるのだろうが、ヴァングという最大クランを率いる有名プレイヤーのネームバリューは、大勢のプレイヤーに信用と信頼を与えるだけの実績を内包していた。
「では、質問の続きだが」
「質問は一度につき、一つずつです。ヴァングさん、挙手をしてからの発言をお願いします」
「おいおい、そりゃ無いぜ…」
ガックリとこうべを垂れるヴァングに、プレイヤーから笑いが漏れ、場を和ませる。
なるほど。彼は最大クランを率いるカリスマ性だけではなく、ユーモアもある愛されキャラでもあるらしい。
予定調和の茶番は終わり、会見本番が始まった。
作者が住んでいる地域では、近年稀に見る豪雪に見舞われています。
全国的に寒波が襲っているようなので、皆様十分にお気をつけてお過ごしくださいませ。
こうも寒いと、お風呂から上がりたくなくなるのが最近の悩みです…




