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61/土



一通り、マーリン爺との話も終わり、執務室を訪れた受付嬢がカードを手渡してくれる。



「では、こちらが魔術士協会の登録カードとなります」



一通り説明を聞き終えて、冒険者カードと同じようなものを受け取るとアナウンス。



〈職業[魔術士]を獲得しました〉

〈スキル【魔術士の心構え】を取得しました〉


〈称号【新人魔術士】を獲得しました〉

〈称号【見習い魔術士】を獲得しました〉

〈称号【新人魔術士】は称号【見習い魔術士】に統合されます〉

〈称号【七色の魔術士】を獲得しました〉



なんか一気に来た…。


掲示板にチラッと載っていたので知ってはいたが、戦闘後のリザルトならともかく、こう突然だと確かにビックリするな。


何故こんなことが起こったのか掲示板の有志によると、職業がトリガーになる称号というのが中にはあって、スキル関連で職業以外の条件を既に達成していた称号があれば一気に達成されるのだとか。


この三つは既出の称号で、【新人魔術士】と【見習い魔術士】は、就いた職業に関連するスキルの合計レベルが条件の称号のようだ。そして【七色の魔術士】は魔術スキルを7種類以上取得していると獲得だ。


職業を獲得する以前の行動でも、職業以外の条件を満たしていた称号があったりするようで、過去の自分の行動を思い返して称号を得られそうな何かがあれば、同じようにトレースすると称号を獲得できるらしいことも書いてあった。


何か思い出したら俺も試してみるとしよう。



魔術士協会の説明は冒険者ギルドと内容はほぼほぼ同じだ。


冒険者ギルドと違うのは、魔術士という職業に就くためには条件があるところ、魔術士の職業に就くだけで【魔術士の心構え】というスキルが獲得できるところ、魔術士用の特別なクエストが受けられるようになるところ等々。


レイン曰く、【魔術士の心構え】については、冒険者でもランクがCになれば【冒険者の心構え】とかいうスキルが手に入るらしいので、あながち完全な違いとは言えないが。


それと、職業ギルド保有の幾つかの魔道具を使用できるとかなんとか。


今のランクで使えるのは[称号鑑定の水晶]とかいう、自分が持っている称号の詳細を確認できる魔道具だけらしいが、これが中々有能で、称号の獲得条件まで確認できるらしい。


まあ、自分へのメリットは特に無いが、プレイヤー全体で考えれば大きなメリットだし、時に情報は金よりも高い。


何か役に立つこともあるだろうし、知っていて損はないだろう。


ちなみに、レインに案内してもらった魔石燃料魔力転換炉なる装置も魔道具で、あれは魔術士協会のランクがDにならないと使えないらしい。


冒険者ギルドのクエストすら受けたことがないのに、魔術士協会のランクを上げろとは、なかなか難しいことを言ってくれる。



「それでじゃ、レンテ坊よ。これでお主は晴れて魔術士協会の一員なわけじゃが」


「なんですか、その含みのある話し方」



受付嬢が退出していくのを尻目に、最大限警戒する。


これは話を終わらせて受付で登録するべきだったかもしれない…。



「最近、何やら珍しいものを手に入れたそうじゃの」


「珍しいもの?」



何かあっただろうか?


最近と言うからには、前回マーリン爺と話した時よりも後。


使わない時はストレージに突っ込んである、離れた場所でも相互連絡できる対の指輪[連絡の指輪]とかいう、なんともな名前の魔道具で、闘技大会後に脳筋王女へのアポをお願いしたのが最後。



「ちーっとばかり、それを譲って欲しいんじゃがのう…。ほれ、妖精と契約したんじゃろ?」


「妖精?」



またか、またなのか!?


俺の秘密はいつも我が道を征くNPCがバラしてしまうんだが!?


上目遣いでお願いされても、気持ち悪いだけだ!


そういうのは可愛い女の子がやるからいいのであって、ジジイがやっても寒気を誘うだけである。



「なんじゃ、レイン嬢も契約しておるようじゃが。妖精も契約が可能な種族の一種じゃよ。まあ、レンテ坊のは他とはちと違うようじゃがの」


「護国獣が提示した契約種族の中にはなかったはず…?」


「それはそうじゃろう。妖精というのは元来、何かに縛られることを好まない自由気ままな種族じゃからの。百歩譲って契約したとして、護国獣に従うような連中ではないのぅ」


「ふーん…」



あの、こっち見ないでもらえますか?


今回のは俺は悪くないと思います!芋蔓式にユズにまでバレたら、今度は何と言われるか…。



「それで、持っておるのじゃろう?妖精鱗粉の塊をたんまりと」


「くっ、覗きはダメだと思います!」


「人聞きの悪いことを言うでないわい。賢者のスキルにも制限があるのじゃ。今回のことは聖域経由でシルウァヌスが伝えてきたことよ、儂は悪くないのぅ」



このジジイ、まったく悪びれもしない!


しかし、シルウァヌスさんとマーリン爺に繋がりがあるとは、ぬかった…。



「まあなに、何もタダで寄越せとは言っておらぬ。希少な素材じゃ、この納品を指名依頼として処理して、Dランクに昇格。そして魔法を昇華させる方法の情報でどうじゃ?」


「どうじゃ?って、それホイホイ教えてしまっていいんですか?それに魔法のこと教えてもらえるなら、Dランクとかはいいですよ」



正直に言うなら、変にランクを上げられると、面倒な義務でも発生するんじゃないかと疑ってしまう。


指名依頼とかいう不穏当な単語も聞こえたし、必要な情報だけもらえれば余計なものはいらないというのがここ本音である。


まあ、指名依頼も悪いことばかりではないのだろうが。



「儂が教えなくてもそのうちババアが教えるじゃろうて。それにのう、魔法への昇華は魔石燃料魔力転換炉を使った方法が一番簡単じゃから、儂からの報酬は実質Dランクに昇格させることじゃな」



俺が確認を取らなかったらしれっと報酬の上乗せ的なマウント取る気だったな?


しかしそうか。


話を聞くにそれ以外の方法もあるんだろうが、一番の近道が魔術士協会のランクをDまで上げることか…。



「それに今なら納品の数次第ではレイン嬢もDランクに昇格できるぞい?」


「……」


「わ、私は、別に…いや、でも…」



遠慮がちに期待の視線を向けてくるレイン。


いや、そもそもレインがどうという問題ではなく、俺が引っ掛かっているのは秘密をバラされたことであり、多少数を増やすくらいでレインも魔法が取得できるようになるなら、喜んで納品しようじゃないか。


それになにより、勝手に報酬を上乗せしてきているが、俺はもう魔法の情報だけでいいと…。


ってそうか。


マーリン爺的には、魔法に関してはどっちにしても師匠が話すことを前倒しして教えているだけであり、それは+α的要素で、報酬の本命はDランク昇格だった。


しかし、俺がそれは大丈夫と断ってしまったことで、律儀に報酬を釣り合わせようとレインの昇格まで約束してくれている…のかもしれない。


穿った見方かもしれないが、これ以上疑心暗鬼になって変な方向に思考が飛んでも宜しくない。



「仕方ないですね。秘密をバラされたことは、テューラ殿下への研究費減額の進言で手を打ちます。妖精鱗粉の塊は幾つ必要なんですか?」


「そうじゃのう、二人分となると…ぬぅ?いやいや、待つのじゃレンテ坊!殿下にその手の冗談が不味いのは、レンテ坊も分かっておるじゃろう!?」


「ええ、勿論。あの脳筋は冗談だと理解した上で、許容量より少し多めに減額してくれるでしょうね。ですが、今回は冗談ではなく本気なところが殿下に伝わってくれるかどうか…」


「よ、よし。一人分を基本属性を10個、派生属性を5個で手を打とうではないか」


「馬鹿を言わないでください。派生属性を用意するのがどれだけ難しいと思ってるんですか?派生属性は一人につき一つ、空間属性は二人で一つです」


「それならば、基本属性を50は貰わねばーー」


「20」


「40じゃ」


「では、間を取って30ということでいいですね?」


「う、うむ。仕方ないのぅ…。しかし、殿下にはくれぐれも内密に…」


「今回はこれで勘弁しますが、次からは人の秘密を簡単にバラしたりしないでくださいよ、まったく」


「ぬぅ。レンテ坊も殿下も、もう少し敬老精神というものをじゃな…」



何か言っているが気にしない。


脳筋王女とマーリン爺のこの師弟は、少々身勝手が過ぎるからな。


少しくらい釘を刺しておかないと、この先が思いやられる。


マーリン爺よりも手に負えないのが脳筋王女ではあるが、どこかのタイミングであっちにも何か対策を講じねば…


しかし、マーリン爺の抑止力があの脳筋王女というのも解せぬ。


脳筋王女次第で、俺が刺した釘は錆びて朽ち果て一瞬で風化してしまうことだろう。


何故こうもあの王女殿下には枷というものが存在しないのか…。


誰かさっさと手綱を握ってくれ!



そして取引が成立し、なにやら準備が必要とかで、二人ロビーで待っていると、レインが(こぼ)す。



「また借りが出来てしまった」


「それは、その…。ユズに黙っていてもらえればそれで…」


「そう?そのくらいでいいなら。でも、他に手伝えそうなことがあったら言って。必ず力になる」


「おう、その時は頼むよ」

 


何かあれば頼ろう。


攻略組、それも闘技大会優勝者の助力なんて、今ML内で一番心強いからな!



「ふふっ、でも面白かった」


「なにが?」


「あの賢者マーリンをあそこまで手玉に取るなんて。他のプレイヤーじゃできない、レンテだけ」


「それは…、喜んでいいのか?」



褒められたのだろうか…。



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