55/月
キリのいいところで分けたかったんですが、会話が一切ない説明会みたくなっちゃうのと、ステータスでかさ増しされているだけで文字数少なくなっちゃいそうだったので、今年最後の年末増量キャンペーンです!
大体二話分くらいかな。
では、途中失踪したりしてしまいましたが、この数ヶ月読者の皆様には拙作を読んで頂き感謝しております。
また来年も当作品をご愛読頂けると幸いです(`・ω・´)ゝ
12/31 18:00
派生属性の新魔術取得のタイミングについて修正しました。
その関係で今まで使われてなかった『根縛』は未取得状態になってますが、まだ使ってない魔術なので、ストーリー上変わりはありません。
《変更点》
変更前:
基本属性の新魔術習得レベル
LV.1、LV.3、LV.6……
派生属性の新魔術習得レベル
LV.1、LV.3、LV.6……
変更後:
基本属性の新魔術習得レベル
LV.1、LV.3、LV.6……
派生属性の新魔術習得レベル
LV.1、LV.5、LV.10……
となります。
修正されているのは45話になりますが、前述の通り大きな変更点はないため、読み直す必要はありません。
夜のフィールドは視界が普段よりも遮られる中、一部のモンスターが活発化し、夜にしか現れないモンスターも徘徊するなど、昼のフィールドより難易度が上がるというのがプレイヤーの共通認識だ。
多くの学生や社会人は、平日の昼は忙しいこともあり、どうしてもログインの時間はゴールデンタイムに集中してしまう。
なので、サービス開始から一ヶ月以上経過した今、プレイヤーそれぞれがいかにして夜の探索行を安全にできるかを模索し続けており、掲示板の片隅で日夜議論を戦わせる議題の一つでもある。
今回のグレディ遠征に向けて、今まで見てこなかった掲示板で情報収集をしてみた。
内容はくだらないものから、有益そうなものまで様々で、軽く覗いた感じ今ホットな話題は、契約と職業についてだろうか。
契約についてはユズから聞いた以上のことは分からなかったが、職業については色々と面白そうだった。
キャラがLV.20以上になると各職業協会で職業に就くことが出来るらしく、職業をトリガーとした【〇〇の心構え】というスキルが強制取得になる他、細々とした特典も受けられるそうだ。
中には、闘技大会上位入賞者は職業協会からスカウトが来た、特殊条件を満たすことで特別な職業に就くことができる、【引き篭もり】なる職業がある、等々の憶測が飛び交っていたが、何処までが正しい情報か分からないのは、現実のネットと変わらないだろう。
職業についてはまたに改めるとして、遠征にあたって先程買い込んだ物資類も掲示板の情報をもとに買い揃えたものだ。
そしてそこで得た情報は物資類だけではなく、スキルについてもだった。
曰く、近接職の場合、視界を確保するための光源は片手を塞ぐためカンテラや魔道具は不向き、似た理由で魔術士は、魔術で視界を確保するのは魔術士一人を置き物にするのと同義なのでオススメ出来ない。とのこと。
一応、光魔術の『ライトボール』を魔改造すれば操作性を捨てて光量を上げられることが以前の実験で分かっているが、闘技大会後【魔法陣】スキルが広まったことにより、『ライトボール』についても言及されていたが、この魔術を光源として利用する場合、魔術を放つ前の状態で待機させていないといけないので、それが理由で魔術士が置物になってしまうというわけだ。
待機状態ではない光源魔術が見つかれば、威力などなくともその需要は計り知れないだろうな。
という以上の理由から多くのプレイヤーの頭を悩ませている光源問題だが、とあるスキルで一つの解決を見せている。
それが【夜目】というスキルだ。
β時代から存在し、初期スキルの一つでもあるこのスキルの取得率は、なんと総プレイヤー人口の五割を超える大人気スキルである。
スキル構成の話になれば必ず名前を聞く程度には有名なスキルと言えた。
一応正式サービス前のネットの攻略情報とグレンやユズから聞かされていた情報で、その有用性を理解してはいたのだが、俺の中に疼く逆張り魂が【発見】を取得させたのを、今では少し後悔している。
なので、無念にも散ってしまったスフィルロック君達のおかげでレベルが上がってSPが貯まっていたこともあり、他の補助スキルと合わせて取得した次第だ。
一応、他のプレイヤーと不用意なトラブルを招かないために魔術士の俺がカンテラを片手に、【夜目】スキルも併用して歩を進めている。
本格的に戦闘に入る前に一度ステータスを確認しておくか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
PN【レンテ】 LV.24
職業:冒険者〔F〕
[AP:0][SP:10]
HP:330/330
MP:330/330
STR:10
VIT:10
INT:50[+5]
MND:10
DEX:26[+2]
LUC:10
〔契約〕
【妖精達の大行進】
〔スキル〕
・魔術スキル
【火魔術】LV.8
【風魔術】LV.7
【水魔術】LV.7
【土魔術】LV.7
【光魔術】LV.7
【闇魔術】LV.7
【真・樹魔術】LV.6
【魔法陣】LV.2
・生産スキル
【調合】LV.5
【細工】LV.2
【複写】
【模写】
・補助スキル
【MP自然回復】LV.1
【MP回復速度上昇】LV.5
【器用強化】LV.1
【知力強化】LV.3
【夜目】LV.1
【発見】LV.1
【釣り】LV.12
〔控え〕
〔称号〕
【無謀に挑む者】
【友好を築く者】
【我が道を往く者】
【妖精達の祝福】
【地形を利用する者】
【地形を破壊する者】
【滅却の魔術士】
【大物喰らい】
【“終焉の魔女”の弟子】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
うむ、HPとMPもなかなか上がってきたな。
キャラがLV.20を超えたことで職業システムが解放されて、ステータスにも載るようになった。
実を言うと、LV.20時点で冒険者登録をしてないと、職業欄に無職の二文字が並ぶことになる。俺が冒険者登録をした理由の一つがそれだったりするのは内緒だ。
新しく取得したスキルは【夜目】の他に、スクロールを量産するための【複写】、戦闘中にMPが回復してくれるようになり普段の回復速度も少しだけ上がる【MP自然回復】、DEXを補強してくれる【器用強化】、の四つだ。
実はスフィルロックを吹き飛ばした際に取得可能になった【効果増大】スキルと【範囲拡大】スキルも取得するか悩んでいるのだが保留中だ。
レインのお陰で判明している派生属性魔術の取得方法だが、もちろん俺も狙っているので、SPの無駄遣いは避けたい。
この二つのスキルの取得SPが3ポイントなのも手が出しづらい理由だけどな。
と、その時視界の端で何かが動いた。
「スプラ止まれ、何かいる」
「えっ、どこに!?」
【夜目】スキルはまだLV.1だ。
昼とは比べるべくもなく狭められた視界ギリギリの場所に蠢く影。
事前情報を信じるなら、プリムス草原に出現する夜のモンスターは三種類。
我らが魔法のインクの素材の元締め〔ウィスプ〕、夜になると暗闇と草陰からの奇襲が主な攻撃手段になる〔ファングウルフ〕、夜の癒しといわれる唯一のノンアクティブ〔スライム〕の三種だ。
ただ一つだけ訂正させて欲しいのは、スライムは決して癒し枠ではないということだな!
「左側10時の方向。まず俺が魔術で攻撃するから、もしそれで戦闘が終わってないようだったら追撃してくれ」
「分かったわ」
「じゃあ、行くぞ」
場所が分かりやすいように光魔術のライトボールでいこう。
夜という暗い中で隠密性の高い闇魔術や、そもそも視認しづらい風魔術でもいいのだが、いかんせん展開された魔法陣が光を放つので、その時点でどの魔術でも変わらない。
「そこだ、『ライトボール』!!」
魔法陣が展開され、潜んでいることがバレたことを悟ったのだろう二匹の狼が飛び出してきた。
放たれたライトボールは数を魔改造されたものではなく、何の変哲もない光の球なので、一匹の狼を道連れに消滅してしまう。
残った狼は仲間がやられたことに目もくれず、まっすぐとスプラ目掛けて猛進していた。
俺は冷静に次の魔術を準備しようとして、やめた。
「フッ、シッ、『正拳突き』!」
こいつ中学卒業するまで護身術習ってたことを、改めて思い出さされた。
身体を動かす技術は俺なんか比べもにならないし、なんならグレン以上に身体能力が高いのだ。
これやっぱり、生産職より戦闘職の方が正解なんじゃ…
それから数分とせずにスプラがファングウルフを完封して、夜の初戦闘は幕を閉じた。
それから時折戦闘と休憩を挟みつつ、問題もなく進むこと二時間。
そろそろ今日の旅は終了のお時間だ。
俺だけならあと一時間くらい構わないのだが、スプラは見た目通りというか、委員長という役職通りというか、現実を疎かにしたりしないし、時間にも厳しい。
明日が休日でもなければ、日付が変わるまでゲームに没頭したりしないだろう。明日が休日であっても怪しいところだ。
「ここら辺で野営の準備して、今日は終わるか」
「そうね、そろそろ終わっておかないと明日に響くわ」
手際よく野営の準備に取り掛かりながら、今日の戦果を振り返る。
ここまでの道中で判明したスプラのゲームセンスは、控えめにいって才能アリだろう。
VRゲームというのはどのジャンルにおいても、現実での経験や運動神経など、いわゆるPSが大なり小なり影響してくる。
近接戦闘は言わずもがな、魔術でさえ照準操作などでPSを要求されるのだ。
その点で言えば、幼少期から護身術を習っていたスプラは、VRゲームへの適正は◎だった。
さらに学年で三本の指に入るくらいには頭も良く、グレンが絡むと空回るが、思考の柔軟性という点でも悪くはない。
予想になるが、グレンと一緒に遊ぶためにMLのことを調べ尽くしていたのだろう。
UI操作など不慣れなところはあるものの、自身のスキルや、武技に対しての理解と順応が早いのだ。
スプラから聞いた取得した初期スキルは次の五つだ。
まず、【格闘術】スキル。
読んで字の如く肉弾戦をするための武器スキルだ。超至近距離でのインファイトはリスクも高く、それ故か武技のダメージ補正倍率は高めに設定されている。
多くは拳や脚で戦うが、中にはメリケンサックや、ボクシンググローブのようなものを武器に戦う者もいるとか。
次に、【拳】スキル。
拳で行う行動全てに補正がかかる補助スキルだ。
対を為す【脚】スキルと共に有名なスキルだが、【脚】スキルはAGI補正もあるため広く人気だが、【拳】スキルは武闘家以外では、【応急手当】スキルなどとシナジーがある回復職で愛用されているスキルでもある。
三つ目は、【連撃】スキル。
これは武闘家が好んで使う、攻撃を繋げ途切れさせないことでダメージ補正を上げていく補助スキルで、一撃よりも手数で戦うプレイヤーに人気のスキル。
一撃ずつの補正倍率は微々たるものだが、10、20と重ねれば、無視できない程度の倍率が掛かる。
四つ目は、【気功】スキル。
MPたる魔力とはまた違った“気”と呼ばれるエネルギーを操る補助スキル。
このスキルを取得すると新しくステータスに追加されるEPを消費して、技の威力を上げたり出来る。
しかしこのスキルの真価はそこではなく、本来物理属性ではダメージを与えられない霊体モンスターにもダメージを与えられるようになるところだ。
EPを操る似たスキルに【合気道】スキルというものがあるが、【気功】スキルがEPが続く限り全ての拳での攻撃に効果が乗るのに対し、【合気道】スキルは武技を使ったときだけ効果が乗る、という違いがある。
融通は効かないが通常攻撃に効果が乗ったりするので、どちらも一長一短だろう。
早速、ウィスプ戦で役に立っていた。
殴ってダメージが入っても手応えがないらしく、不思議そうな表情はしてたけどな。
そして五つ目は、よく自分のプレイ状況を見据えた選択といえる【夜目】スキルだった。
基本夜型のプレイスタイルになるからな。
俺と違ってしっかりと合理的に考えられていて脱帽するぜ。
加えて、今日の戦闘でいくつかレベルが上がっているだろう。
俺のスキルは無計画に取りすぎてアドバイスらしいアドバイスは出来ないし、スプラの場合は今後生産系のスキルを揃えないといけないためSPは温存の必要もあるが、何か有用そうなスキルを見つけたり、相談されたら一緒に考えるくらいはしてやろう。
「集めた木はそこに置いといてくれ」
「了解よ」
二人分のテントをパパッと仕上げ、スプラが雑木林から集めてきてくれた枯れ木や枯れ枝で火を起こす。
テントをペグで固定する際に少し手間取ったのはご愛嬌だろう。
ワンタップで展開・収納できるテントがない現実だともっと手間取った自信があるので、そこはゲーム万歳といったところか。
そして、並べたテントの間に簡易結界石を設置して完成だ。
簡易結界石は一日経過すると勝手に割れてしまうから、少し注意が必要だな。急用でログインできなくなった場合とか。
野営の準備が整い、買い込んだコーヒー片手に人心地つく。
「…ありがと」
「なんだよ、急に」
これまでこいつから感謝の言葉なんて聞いたことがないので、少し身構えてしまう。
「今回のこと、いいえ、ずっと昔から感謝していたのよ」
「……」
んだよ、急に感傷的になりやがって。
俺とスプラ、いや敢えて若葉と言わせてもらうが、俺と若葉の関係性は、トモの友達と幼馴染だ。
俺とトモが遊んでいるところに若葉が来たり、その逆だったり。
今まで若葉と二人きりという瞬間は皆無だった。
そう考えると、それも悪かったのかもしれないな。もう少し腹を割って話す機会を設けるべきだったのかもしれない。いや、今からでも遅くないか。
「バレてるだろうし、もうこの際隠したりしないけど、私はグレンが好き。幼稚園の時からそうだし、今も変わらないわ。正直ね、あんたと初めて会った頃は、何でレンテばっかり、私とだけ遊んでよ!って邪魔者としか思ってなかったわ」
「そりゃ、申し訳なかったな」
「私が子供だっただけよ、あんたが悪いわけじゃないわ。でも友則って鈍いじゃない?あいつ顔だけは、いや顔も良いから女子からモテるんだけど、誰がアプローチしても気づかないし、告白されたって靡いたことがない」
しれっとトモ自慢入れてくるのやめてもらえませんかね?
まあ、あいつがモテるのは今も昔も変わらない。
とても羨まけしからん話だが、そんなことを今言っても仕方がないので、グッと堪える。
「昔、小学生の頃のこと覚えてる?ほら、三年生くらいのとき近所の神社で」
「ああ、覚えてるよ」
忘れるはずがない。
それこそ、俺が未だに若葉をちょっと苦手な理由でもあり、トモが彼女を作れない理由なのだから。
「友則とあんたが上級生に絡まれててさ、友則が殴られた瞬間頭の中が真っ白になって…。気づいたら六人いた上級生全員組み伏せてた。思い出す度に自分でもドン引きよ」
組み伏せたとは言うが、外から見てたそれはまさに悪鬼。中学生まで混じってた上級生の男子の集団をボッコボコのギッタギタでメッタメタに、逆らう気が失せるまで拳で語り合っていた。
当時小学生だった俺は守られたことへの感謝よりも、恐怖心の方が強かった記憶がある。
俺とトモが半年程距離を置いてしまったくらいには心に刻まれたし、今でも苦手意識が前に出る理由だ。
「それで少し疎遠になって、当時は毎日のように泣いたわ。なんで、私は何も悪いことしてないのに、ってね。あの時ボコった連中が裏で暴力女だの、怪物だの噂流したのも知ってたしね」
言うか迷う。
確かに俺が若葉を敬遠していたのは苦手意識からだった。
でも友則は違う。
あいつは若葉に守られたその瞬間から…。
友達や幼馴染だった気持ちを、その感情を。
友から“憧れ”に変えてしまったのだ。
若葉は知らない。
あのとき絡んできた連中が、あの後も若葉がいないときを狙って絡んで来ていたことを。
そして完全に若葉に心を折られていた連中は決まってこう言うのだ。
『暴力女に護られていないと何も出来ない弱虫』『あんな化け物と一緒にいて、よく平気だな』と。
あの時のトモが何を感じていたかは当時の俺には分からなかった。
だが、若葉の悪口を言われ、自分たちを守ってくれた“憧れ”を貶されて、激昂したのだけは確実だった。
半年、半年だ。
ボコボコにされて、泥まみれになって、それでも諦めずに立ち上がって、上級生全員に土を付けるまでに要した時間。
擦り傷すら負わなかった若葉とは比べようもないが、それでも上級生達と共に土に背をつけてこう言い放った。
『これで護られるだけの存在じゃねぇ!これで俺も化け物だ!』
その言葉を聞いて理解したのだ。
自分達を護ったせいで一人になってしまった若葉を。自分が憧れてしまったことで友達とは違う壁を作ってしまい一人にしてしまった若葉を。そして、憧れるだけで護られるだけだった自分を。
そんな怒りと憤り、そして後悔、様々な感情に苛まれて、アイツは若葉と同じ土俵に立つことで、若葉の居場所を取り戻すために拳を握っていたのだ、と。
「あの時もあんたが友則と私の間を取り持ってくれて、すごく感謝してるの。だから、ありがとう」
「ちげぇよ、トモのやつが口下手でイケメンなだけだ」
トモは若葉が一人になって、それが許せなくて拳を握った。
でも俺は何も、何もしなかったんだ。ただ後ろから眺めているだけ。
トモは顔だけじゃなくて、根っからのイケメンなのだ。
自分が成したことを態々吹聴したりしないし、自分の“憧れ”に対してであれば尚のこと。
半年掛けて成した若葉を一人にしないための戦いのことなど、おくびにも出さず日常生活に戻った。
だからあれは、あの時護られるだけで何もしなかった俺なりの謝罪とお礼だ。
そして今後も。
文句は言っても俺が若葉の頼みを断ることはないだろう。
前書きにも似たようなことを書きましたが、今年一年お疲れ様でした。
来年も皆様に素敵な一年が訪れることを心より願っております!!




