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時刻は午後十五時。



「着いたーーーっ!!」


「…そだね」



宿場町グレディに着いた俺は疲労困憊だった。


スタミナなんてパラメータがあれば、とっくに根をあげてただろうが、MLには今のところそんなものはないので、この疲れは主に精神的なものだな。


終わらない話を聞かされ続け、かと思いきや二転三転する話について行けず、思いつく度に無茶振りをされ…。


やっっっっっっと、解放される!!



「じゃあ、少し休憩して王都を目指しましょー!」


「えっ!?」


「えっ、ってお前、さっき決めただろ?レンだって納得してたじゃんか」



それっていつ…?



「お兄ちゃん、うわの空って感じだったもんね。うん、そだね、すごーい、って」


「マジかよ…」



初めての長距離移動と、初めてのボス戦(取り巻きを倒しただけ)、ライラの話し相手(重労働)と重なった結果、途中から適当に相槌を打つだけになってたのが仇になっただと!?



「では、私はポチを従魔登録してきますので!また三十分後に!」


「あ、待ちなさい!私もあとで合流するわ!」



超速で進んでいく話についていけないまま、ライラとセシリアさんが町の中へ消えていった。


ちなみに、ポチというのはライラの新たなテイムモンスターだ。


ファングウルフよりひと回り大きい狼のモンスターで、あろうことかボスモンスターをテイムしてしまった。


顎が外れるかと思ったね。


戦闘経験値は、当たり前だがテイムしたモンスターの分は貰えないので、ボス戦で貰えた経験値は取り巻きのファングウルフの分だけだった。


まあ、特に文句があるわけではないけど。



「…俺は少しログアウトしようかな」



昼食休憩は挟んだが、今は三十分でもしっかり休んでおきたい。


決まってしまっているのなら変えようがないし、なにより王都まで進めるのなら進んでしまって損はないからな。



「いいのか?レンがキツいならまた今度でもいいぞ?」


「そうだよ、無理はだめだよ?」


「いや大丈夫。それに今行っとかないと、多分しばらく王都目指そうとしないし」



基本ソロな上に、今回の移動で道程の厳しさを知った。


何か理由がない限り、ギリギリまで先に進もうとはしない可能性が多大にある。



「「あぁ〜」」



近しい二人に納得されてしまったし。



「じゃ、また後でな」



ってことでログアウト。


この町の観光は、また今度でいいだろう。


一度訪れたわけだし、いつでも転移して来れるだろうからな。






休憩を終えて、再度ログインしました。


今日のメンバーは形だけでいえばバランスの良いパーティなんだと思う。


前衛二人、遊撃一人と一匹、後衛二人。


テイムモンスターもパーティを一枠消費するので、今回ポチはお留守番だった。


どうやら、テイマー特有のアクセサリーに住まわせておくか、テイマー協会なる場所で預かってもらえるらしい。


預けておくことでのメリットはわからないが、態々預けに行くってことは、何かメリットがあるのだろう。


グレディまでの道中は、ポチはそのアクセに待機させられていたからな。


閑話休題。


たしかに、バランスだけでいえば良いのかもな。


ただ、このパーティは後衛が壊滅的なのだ。


そもそも回復役はいないし、俺もライラも適正レベルに届いてないし、ライラに至っては今日取得したばかりだ。


なので、若干不安だった。


そう、不安だった(・・・)



「いやぁ、快適ですねぇ、炎ぞう」


「キュゥ」



ウサギの鳴き声って初めて聴いたかも。



「まさか馬車とは…。悲嘆に暮れてたのが馬鹿みたいだな」


「ちゃんと説明したけどな」



どうやら、投げやりムーブをかましている間に説明をされてたらしい。


俺たちはライラの言う通りに快適な、とあるキャラバンの幌馬車の中で揺られていた。


吹き抜けになっている後ろに目をやれば、プリムスよりふた回りほど小さな外壁に囲まれたグレディの町が爆速で小さくなってゆく。


爆速だ。


競馬だったらGI馬が涙目になるほどの速度で、疲れも知らなそうだ。


スキルを併用するとこんなことになるんだと驚かされたぞ。



「王都で商人のクエストを進めると、馬車に乗せてくれることがあるんだよね」


「でも恩恵は商会ごとだから、どの商会のクエストを進めたかは覚えておかないといけないわね」



なるほど。


つまり、◯◯商会ってのがいくつもあって、例えばA商会のクエストを進めても、B商会では恩恵がないということか。


道理ではあるな。



「まあ見ての通り、街道沿いが整備されてる王都間だからこそ、ってところはあるけどな」


「たしかに、プリムスとグレディ間より道も広いし、綺麗に整備されてるな」



あっちはもっとガタガタで少し歩きづらかったし、道幅も1.5倍ほどはありそうだ。



「一番大きいのは、やっぱりこの道がセーフティエリアだからかな」


「モンスターが出てこないから、必要以上に護衛雇わないでいい分、空きが出るんだとよ」


「ああ、俺初めて現地人の冒険者見たかも」



三台の幌馬車が縦列になって進む中、その前後左右に一人ずつ馬に乗った男女がいた。


彼らはNPCの冒険者らしく、このキャラバンに雇われている護衛だった。



たしかに、街道から少し離れた位置に結界が張られているのが見える。


ただ、真上には結界が張られていないので、空襲には気を付けなければいけないだろう。



「ま、王都まであと二時間くらい、退屈との勝負ってことだな」


「あっ、レンテさんあれ見てください!ゴブリンじゃないですか!?」



グレンよ、ライラを前によく退屈と勝負できるもんだな…。






二時間なんてあっという間だった。


プリムス以上の大壁に囲まれた都市は、その周囲を青々と茂らせ、時間的に赤く染まっていた大空も相まって、絵画の中の風景のように思わされた。


やはり王都というだけあって周りも安全なようで、最外壁の周りは畑が広がっており、少なからず建物も散見された。


収穫までまだ時間の掛かりそうな畑に見守られながら街道を進む馬車。


やがて、見上げれば首が痛くなりそうな大壁の真下、巨大な門の前に到着した。



「グレンさん、我々は検閲待ちの列に並ばなければなりませんので、皆さんは先にセントラリスにどうぞ」


「あ、メギンさん!今日は無理を言ってすみませんでした。例のものは後日必ず納品しに行きますので」


「ええ、お待ちしてます」



という、謎の会話がなされたあと、俺たちは馬車を降りて大門に徒歩で向かうこととなった。


道中で気になったことを聞く。



「納品ってクエストか?」


「まあ、近いかな。さっきのキャラバンには条件付きで乗せてもらったから、その条件のとあるアイテムを後払いするってところだな」


「へぇ、報酬前払いのクエストもあるのか」


「ん〜、厳密に言うとクエストじゃないんだけどな」


「お兄ちゃん、時々あるんだよ。信頼を勝ち取ったNPCから、口約束みたいなお願いされること」


「そんな現実みたいなことまであるのか」



クエストはほとんどの場合、冒険者ギルドで発行されるもののことを指す。


俺はまだ冒険者登録さえしてないが、モンスター討伐、素材集めや採取などの納品、護衛、お手伝い、子守り、と多種多様なクエストがあるらしい。


だがそれとは別に、クエストではないNPC独自のお願い(・・・)をされることがあるのだという。


ここまで来ると、ほとんどファンタジーな現実だな。


段々と暗闇が広がりつつある、街灯に照らされる巨大な都市を眺めながらそう思った。


※済

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