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15/木



「行ってきまーす」



返事を期待しない言葉を投げて、家の鍵を閉める。


両親共にまだ帰宅してないのと、柚子も今日は日直とかで早くから登校していた。


割と適当なところも散見される我が妹だが、与えられた役割はきっちりこなすのが柚子だ。


まあ、それ以上のことはしないのも柚子だけどな。



「おはよう、タケっ!」



住宅街の十字路で横合いから突撃してきた悪友を半歩引いて躱す。


毎度のことなので、運動神経が普通な俺でも躱せるようになってきたのだ。



「おう、おはよ」


「なんだよ、朝からテンション低いな」


「いや、お前がテンション高すぎるんだよ」



鬱陶しげに言葉を投げると、面白くなさそうに口を曲げるトモ。



「何かいいことでもあったのか?」


「おっ、よくぞ聞いてくれました!」



こいつはいつも煩いが、このテンションはいつもの二割増しだ。



「明後日、フレンドとレイドボス攻略することになってよ!」


「えっ、なに、MLの話じゃないん?」



トップ層は、二つ先のエリアまで攻略の手を広げてるとはいえ、まだリリースから一週間も経ってないんだぞ?


そんな序盤も序盤でもうレイドボスって…。


ちなみに、レイドボスというのは、上限6人のパーティよりも多い、上限48人8パーティまで同時に参加できるボスのことだ。


通常のフィールドボスなんかだと、『ボスと戦ってた奴らが消えた!?』状態で、別フィールドに飛ぶので1パーティでしか戦えないのだ。


そして、そういう大人数型のボスは大抵強い。


序盤で敵うような生温いボスではないのが、一般的な見解だと思うんだが…。



「MLの話だよ!タケが考えてること大体分かるけどさ、やっぱゲーマーなら強敵に挑みたくなるだろ!!」


「言わんとすることは分かるけど…」



俺はどちらかと言えば、『レベルを上げて物理で殴れ!』『俺TUEEEEE!』寄りのプレイスタイルの方が好き、というか安心出来るから、ボスに挑んだりするときは極力レベルを上げる派だ。


なので、トモのように無理に挑もうとは思わないが、ボスに挑みたいというのは少しくらい理解できるので、否定はしない。



「まあ、多分勝てないんだけどな!挑めるってだけのボスっぽいし」


「え、負けイベってことか?」



負けイベとは、負けが確定しているイベントのことだ。



「違う違う。今は、って注釈付きだ。護国獣って国を護る神獣が居るんだけどさ、とあるクエストを進めていくと、そいつに挑めるようになるんだよ」


「それがレイドボスってことか?」


「おう。けど、倒すってよりは認めさせるってのが正しいかな」


「認めさせたら報酬が貰えるってところか」


「おっ、さっすが!次は絶対ギャフンと言わせてやる!」



ってことは一回挑んで返り討ちにあったのかな。


まあ、あれだ。


レイドボスとか、護国獣とか、脆弱極まりない俺にはまだ関係ないことだろうな。


応援だけして、週明けに良い報告を待っていよう。






風呂でさっぱりし、お腹も膨らませた二十時。


中央広場の端っこにログインした。



今日は俺が夕飯当番だったことと、最近は学校の休み時間に終わらせていた課題が終わりきらなかったので、こんな時間になってしまったのだ。


倉田め、許すまじ!!


あっ、ちなみに倉田というのは古文の教師で、俺はすこぶる古文が苦手なのだ。


だというのに、かなりの量の現代語訳の課題なんて…。



「くっ、やめだやめ」



思い出したくもないので、愚痴もそこそこに。


昨日と同じく共同生産場の一室を借りて、端に設置してある椅子を引っ張ってきて考える。



「時間が微妙だよな…」



今日の元々の予定は二つを考えていた。


一つは、インクだけあっても何も出来ないので、それを使うための『羽ペン』の作成。


そしてもう一つが、それらを使う今回の一連作業の大元の目的だ。


正直、何度も何度も試行錯誤を繰り返すと思うので、羽ペンはともかく、時間が足りそうにない。



「そういや、明後日か…」



今朝の話を思い出す。


グレン曰く、フレンドとレイドを組んでボスに挑むって話だったが、明後日は土曜日だ。


つまり、人の集まりやすく、時間も取りやすい休日を選んだということだろう。


社会人になると、休日が土曜日とも限らないだろうが、それでも人が集まりやすくはなる。


と、今はそんなことどうでもよくて。


つまり休日ということは、俺も朝から時間が取れるってことだ!


よし、この際だし、羽ペンも集大成たる作業も土曜日にたっぷり時間を掛けようじゃないか。


変に時間を意識して失敗しても嫌だからな。



「そうと決まれば…」



もう少し行動を決めてから動けばよかったと思わなくもない。


一応、今日は三時間借りてしまっているわけだし、一時間100Gとはいえ、金欠の俺にとっては少し痛手の出費だからな。


ただ、やれることはある。


ちょっとした実験だが、成功すればかなり実りある結果を残してくれることだろう。


失敗しても、そもそもその実験自体失敗色濃厚なので、それほど気にもならないからな。



「ってことで、準備するのはすり鉢、すりこ木、[ウィスプの魔石(土)]!」



それを、昨日の残りの[ウィスプの魔石粉(水)]と同じ数だけ、レッツ『破砕』タイム!


購入したときに数は分かりやすく買っていたので、数はきっかり五十個だ。


そして、五十個の魔石が破砕し終わるのは、昨日の慣れもあったからか、十分程で終わらせることができた。



「さて、ここからが本番だなぁ。まずは、メモを取れるようにして、[ウィスプの魔石粉(水)]も取り出して」



ちなみに魔石粉は、破砕された後、紙の包みに包まれてストレージに入っている。


これは別に手ずから仕分けたわけではなく、ゲーム的な仕様だ。


[ウィスプの涙]と同じ原理だな。


これからやる実験は、成功するかも分からない類のものだ。


それを行う前に、MLの生産システムについて説明が必要かもしれない。


MLの生産には、どの分野にもレシピというものが存在するのだが、それはNPCだったりから情報を集めるか、攻略サイトや掲示板で既出の情報を得るかをしなくてはならない。


また、それがゲーム内で得た情報であれば、メニューのレシピという項目に自動的に登録されるし、外部情報であれば一度作成することでレシピに登録される仕組みだ。


しかし、例外というものは往々にしてあるもの。


分かりやすい例としては【鍛治】スキルだろうか。


前に話した通り、MLの生産はゲーム的な補助を受けられる『生産技能』という必殺技を使うか、一から十まで手作業で行うことも出来る。


手作業で作るということは、剣や盾にレシピにはない意匠を施したりも出来るわけで。


そういう細かい部分のアレンジが出来るのもMLの魅力だと思う。



「そしてそれは調合でも例外じゃないわけで…」



生産場個室の備えつけの生産道具の中から(はかり)を取り出してくる。



「まずは試してみるか」



ウィスプの魔石粉を(水)と(土)それぞれ、半分ずつ測って、混ぜ合わせてみる。


魔法のインクを作るのに一番重要なことは、属性を合わせることだというのは図書館で得た情報だ。


そしてこれまた図書館で得た情報だが、魔術には上位属性や、派生属性なるものが存在するらしい。


その具体例までは載っていなかったのは、チグハグな感じもするが、まだゲーム序盤なので仕方がないところもあるだろう。


だがしかし、奇遇にもそれに当て嵌まりそうな属性を俺は一つ知っていた。


本来なら初期取得可能スキル欄に無いはずの俺のスキルが、その可能性を示唆していた。


つまり、【樹魔術】は樹属性の魔術のことであり、基本属性である火水風土光闇には当て嵌まらない属性だ。



「予想でしかないけど、上位属性ってのは基本属性がそのまま強化されたやつのことだろうから、樹属性は派生属性のはず」



じゃあ、派生属性ってのはどういうものなのか。


ゲーム知識から考えれば、水属性から氷属性のように連想ゲームのような単純な派生もそうだが、属性同士の組み合わせというのも考えられる。


火+土で溶岩だったり、氷も水+風と言えなくもない。


氷は水+土でもおかしくないが、派生属性候補の樹属性がある以上…。


半分ずつの分量で混ぜ合わせた魔石粉が光りかがや──。


※済

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