【ブレイブシフト】
「セレッソはこの男がオクトを……いえ、世界を救うと言っているけど、私はまだ半信半疑だから。だって、どう見ても頼りないじゃない。え? 任命式の時間? ……分かった。その男が入れるように手配しておくから。取り敢えず、この部屋から追い出して。その顔見ていると、こっちまで弱気になってくるから」
フィオナ様は――いや、心の中では呼び捨てで良いや。フィオナは――まるで僕を悪臭漂うごみのように扱い、外へ追い出すのだった。
なんちゅう女だ!
勇者決定戦のときに見たフィオナは、高貴でお淑やかなお姫様って感じだったのに、セレッソが可愛く見えるくらい、クソ生意気で鼻持ちならない女だぞ!
開いた口が塞がらなくなるような美人、かつ優しそうだったからって……
ほいほい従ってしまった自分が馬鹿みたいだ!
「許してやってくれ。あいつ、世界滅亡という危機を一人で抱え込んでいるものだから、常に苛立っているんだ」
表情を見て悟ったのか、
セレッソは僕を宥めようとした。が、その程度で気持ちが収まるわけがない。
「それにしたって、言い方ってものがあるだろ」
「王位継承権争いのせいで、身内から命を狙われていることもあってな。あまり、他人に対して心を許す方法を知らないんだ」
「お前、あの子には甘くないか?」
「甘くもなる。あいつが子供の頃から知っているからな」
そんなに長い歴史が二人にはあるのか。セレッソの知り合いであれば、僕だって親しくしたいところだが、
あの性格では無理だ。
絶対に無理だ!
「任命式には入れるはずだから、とりあえず出席してけ。たぶん、お前が好きそうなものも見れるぞ」
「好きそうなもの?」
よく分からないが、詳しく説明することなく、セレッソはフィオナの部屋へ戻って行ってしまった。溜め息を吐いてから、
スマホを取り出すとハナちゃんから三十件も着信が。
やばい、怒っているかも……
と折り返しの電話をかけようとしたところで、ハナちゃんから着信があった。
「おい、誠。大丈夫か? 今どこだ?」
よかった、怒ってないらしい。
「ご、ごめん。何とかオクト城に入れたよ。これから、中央広間に向かうところ!」
「なんだよ、受付の不手際だったのか? じゃあ、私も中央広間に向かうから、合流するぞ」
無事、僕とハナちゃんは合流し、任命式に出席するため、中央広間に整列した。特に整列順も指定されなかったので、ハナちゃんと一緒に並ぶこともできた。
とは言っても任命式は、大人たちのつまらない話を聞くだけ。退屈で仕方なかったが、一時間も経つと終盤を迎えたようだった。
「それでは、ブレイブシフトの授与を行います。代表、皇颯斗くんは前に」
「はい」
皇が壇上に上がる。
あいつ、三百人いる新人勇者の中でも代表なのか。
あいつに僕が勝ったところ、誰も見ていないのか?
「では、これを腕に填めるように」
それは金色のブレスレットだった。確か、ハナちゃんが勇者になったとき、フィオナから直接受け取っていたはず……。
皇がブレイブシフトをはめると、進行役の大人が言った。
「皆の前で、ブレイブチェンジを」
皇が右腕にはめたブレイブシフトを左手で握りしめた。
「ブレイブチェンジ」
皇が発声すると共に、ブレイブシフトが眩い光りを放つ。
その光は皇を包み込んだかと思うと、そこには皇の姿はなかった。いや、人の形をした何かが立っている。これは何と表現するべきか。硬質なボディアーマーが頭部を含めた全身を覆っている。純白だが攻撃的なフォルム。そして、光り輝く複眼。
それはまるで――。
「か、仮面ラ○ダーみたいじゃないか」
「仮面ラ○ダー?」
隣でハナちゃんが眉根を寄せた。
「あ、僕の田舎だけでやってた、超ローカルなヒーロー番組のこと」
「どんだけマイナーなんだよ」
ハナちゃんは笑うが……
違うんだ。
僕の世界では超有名なヒーローなんだ。
あ、セレッソが言っていた、僕が好きそうなもの、とはこれのことだったのか。
「あれ、でもさ……ハナちゃんはもうブレイブシフト持っているんだよね? 変身できるの?」
「変身? ああ、ブレイブチェンジのことか。できねぇよ。これはレプリカ。勇者決定戦に勝った記念品みたいなもんだよ。私も本物はこれからだ。各々の個性や戦闘スタイルに合わせたブレイブアーマーが用意されているそうだぞ」
ハナちゃんは説明しながら目を輝かせていた。そうか、勇者を目指す人にとっては、憧れなんだろうな。
って言うか、僕も仮面ラ○ダーに変身できると知っていれば、ランキング戦だってもっと頑張ったのに。
ブレイブアーマーについて説明があった。
「今年のブレイブアーマーは新型です。基本状態でも装着者の身体能力を五倍に。空気中のマナを吸い込み、装着者の疲労を常に回復させる効果もあります。さらに、ハイスペックの護符を内臓しているため、アトラ隕石の間近であろうが戦闘可能となり、ちょっとした魔法も跳ね返すという機能もあります」
説明された機能が、この世界でどれだけ優れた技術なのかは分からない。ただ、表面的な言葉を聞く限りでも、凄い装備品なのだろうと分かった。
だが、大広間にいる新人勇者たちが最も驚きを見せたのは、次の説明だった。
「そして、今回のアップデートの目玉は、ブレイブモードの稼働時間です。これまで三分間が限界でしたが、なんと五分間に延長。どんな強敵であろうと圧倒できるでしょう」
新人勇者たちがざわめく。
ブレイブモードが何なのか分からないが、きっと凄い機能なんだろう。
これで最後に、任命式は終わったらしく、こんなアナウンスが流れた。
「えー、それでは全員にブレイブシフトを授与します。地域番号ごとに整列して、係の者に受付番号と氏名を名乗ってください。ブレイブシフトは勇者の証です。絶対に紛失することはないように」
「アミレーンは一七六だから、この列だな。誠、お前の受付番号は?」
……そんなの、聞いてないぞ。
でも、さっきフィオナは手配するって言ってたよな。
たぶん、名前を名乗るだけでもらえるんだよな、勇者の証。
整列して数分。
ついに僕の順番が回ってきたのだが……。
「神崎、誠? リストにないけど、君どうやって入ったの?」
や、やっぱりーーー!
「お、おかしいな。たぶん、フィオナ様が追加で用意してくれていると思うんですけど」
「追加で? そんなわけないよ。ブレイブアーマーは、コストが高いから新人勇者三百人分しか用意されてないんだから。追加なんていくらフィオナ様でも用意できないよ」
あ、あのお姫様……!
人のことポンコツ扱いしておいて、
お前だって無能じゃないか!!
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