【集う新人勇者たち】
僕が想像する、異世界のお城って言うのは、ゲームやアニメでよく見る西洋風のものだ。しかし、この世界は異世界らしい異世界ではないので、どんなものかと想像していたのだが……。
「ねぇ、ハナちゃん。あれってさ」
「ん? なんだよ」
「あれって、国会議事堂じゃないの?」
「コッカイギジドウ?」
そう、オクト城と言われるそれは、前の世界で何度もニュースで見たことがある、
国会議事堂だった。
むしろ、小学校のときの修学旅行が東京だったから、一度見学したこともある。だから、間違いない。
あれは国会議事堂だ。
「何言っているんだよ。あれがオクト城だ。千年前、初代オクト様が女神セレッソの加護を受けて、この地を救い、その後に建てた城って、ガキの頃に習っただろ」
「……うん。そうだ。習った。習ったね、確かに」
「……お前、ほんとたまに非常識なこと言うよな」
国会議事堂……
いや、オクト城の前へ進むと、多くの人が集まっていた。よく見ると、誰もが同年代。そして、任命式受付と書かれたテントの前に並んでいる。
ってことは、ここにいる人たちは、全国のスクールでランキング戦を制覇した、勇者たちってことか!
確かに、どいつもこいつも強そうだ。僕みたいに、おどおどしているやつ、一人もいないぞ。
「おい、見ろよ」
僕がおたおたしていると、どこからか囁き声が。
「あの赤い髪の女、綿谷華だろ」
「綿谷花純の娘? 凄い……実在したんだ!」
「動画で見るより美人じゃん……」
「勇者決定戦、マジで強かったよなぁ」
「え、何とかして対戦してもらえないかなぁ!」
ざわざわが少しずつ大きくなっていく。こんなところに来ても、ハナちゃんは注目の的か。本当に凄いなぁ。
このままでは、ハナちゃん見たさにとんでもない混雑状態になるのでは……
と思ったが、多くの注目を掻っ攫う存在が現れた。
「おい、見ろ! 皇颯斗だ!」
「え、本当? か、かっこいい!」
「オーラ、やば!」
教室に入ってくるときと変わらない調子で、堂々と歩く皇。僕たちの前を素通りしたが、一瞬だけハナちゃんを見た、ような気がした。
おい……
また首を絞めてやろうか?
あんな負け方したんだから、少しは僕のこと意識しろよな。
「おいおいおいおい! 待てよ、皇! 皇颯斗!」
これは僕ではない。
何というか、微妙に関西訛りっぽい大きい声が、皇を引き止めたのだ。無論、多くの人が、その人物の方へ視線を向ける。
「よう、皇。初めましてだな。俺は狭田慶次。カソオスクールのランキング戦を制した勇者だ」
小柄だが金髪を坊主頭にした、如何にもヤンキー風の男は、狭田慶次と名乗った。すると、周りの人間がまたもざわめき始める。
「カソオの狭田だ!」
「東の皇、西の狭田って言われた二人を同時に見れるなんて!」
「うわー! あの二人が向き合っているのに、戦うところを見れないのか!」
どうやら、あいつも有名人らしい。しかも、皇と並ぶような、とんでもなく強いやつ……なのか?
向き合う皇と狭田。
無表情な皇に対し、狭田は今にも殴り掛かってきそうな、挑発的な笑みを浮かべている。一触即発……と思われたが、皇は無言のまま踵を返し、受付の方へ歩き出してしまった。
「あ、てめぇ! どこへ行く! 挨拶くらいしろや!」
皇の前に回り込む狭田。皇は一秒間だけ停止して、やっと口を開いた。
「どうして?」
「そんなの、俺とお前は決着を付けるべき間柄だからに決まっているからやろ」
「決着?」
何も心当たりがない、といった様子で首を傾げる皇に、狭田はもどかしさを感じているようだった。
「おうよ、決着よ。スクール在籍中の勇者の中で、最強は俺かお前って言われていたんだ。誰もが俺たちの対決を望んでたわけだろ?」
「……そうなの?」
手応えのない皇の態度に、狭田は顔を引きつらせる。
「お前だって、この狭田慶次の名を意識してただろが」
「…………」
あー、もう次の言葉が想像できる。
怖い。怖いよー。
どうせ、皇は無感情に言うんだろ。
こんな風に。
「知らない」
「なんやとぉぉぉーーー!?」
目を見開いて声を荒げる狭田。怒りのあまり、こめかみには血管が浮き出ている。隣にいるハナちゃんも呆れたように小さく溜め息を吐いていた。
「はい、そこ騒がない」
受付のテントからスーツを着た大人が拡声器を使って狭田を注意した。
「間もなく任命式が始まります。迅速に受付を済ませ、中央広間に整列するように」
明らかに自分が注意されている、と気付いた狭田は舌打ちすると、今一度皇を睨み付ける。
「決着は、この戦争で付けてやる。どっちが大きな戦果を出すか、勝負だ」
そう言って振り返る狭田だったのだが……まずい、目が合った。
「お前は……」
と言いながら、
狭田がこちらに近付いてくる。
僕だって皇と渡り合った男だ。こいつに目を付けられてウザ絡みされてもおかしくないぞ!
狭田は僕の目の前まで迫り、眉を寄せたが……。
「お前は知らんわ」
と、今度こそ受付の方へ歩き出すのだった。
「じゃあ、私から受け付け済ませるから」
ハナちゃんがテントの方へ。背筋を伸ばした姿は、威風堂々。まさに勇者に相応しい。
「アミレーンスクール、女子勇者。綿谷華です」
彼女が名乗ると、受付の大人が手元の用紙に何やら書き込む。
「この度はおめでとうございます。それでは城内に進み、案内に従って中央広間に待機していてください」
ハナちゃんは言われた通り、奥へ進んだが、城の入り口前で足を止め、僕を待っていてくれた。受付はただ名乗るだけみたいだし、早く追いつかなくては、と僕もテントの方へ。
「アミレーンスクール、男子暫定暫定勇者。神崎誠です」
「……はい?」
ハナちゃんを見習い、堂々と名乗ったのだが、受付の大人はぽかんと口を開けた。
「えっと……神崎誠って名前、ありません? アミレーンスクールです」
「アミレーンは綿谷華と皇颯斗の二名だが?」
「お、おかしいな。ほら、フィオナ様から聞いてませんか? 暫定暫定勇者が一人いる、って」
「……からかっているのか? 暫定暫定勇者なんているわけないだろ。なんで暫定が一つ多いんだ?」
ぼ、僕だって知りたいよ。
なんだよ、暫定暫定勇者って!
しかし、受付の大人は本当に聞いていないらしい。
どういうことだ。
あのお姫様が僕の枠を取ってくれたんじゃないのか?
テンパっていると、受付待ちの勇者たちからも、クスクスと笑い声が。
は、恥ずかしい。
どうにか分かってもらおうと、口をパクパクさせていると、受付の大人は無線機らしいものを口元へ。
「警備、部外者が受付に。すぐに放り出してくれ」
「え?」
一分もせず、スーツ姿の大人が二人現れ、僕の両腕を掴むと、ごみでも捨てるように敷地外へ放り出されてしまった。
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