【これが異世界ハーレムものか】
決戦当日。
僕は控室で待機していた。
前回と同じようにセレッソと三枝木さんも一緒だが、今回はハナちゃんもいる。
いつも大人しい三枝木さんだが、
今日は饒舌で、対戦に関係することからしないことまで、色々と話している。たぶん、僕が緊張しないよう、場を明るくしてくれているのだろう。
それなのに、僕は血の気が引くような思いで黙り込み、長椅子に座って必死に体の震えを抑えていた。
「なんだ誠、びびっているのか?」
急にセレッソが、後ろから抱き着いてきた。
「な、何するんだ!」
「何って、女の体の柔らかさを感じれば、緊張も緩和されるかな、って」
「「なんだよそれ、とにかく離れろ」」
あれ、何か声が重なったぞ
……と思ったら、僕とまったく同じセリフをハナちゃんが叫んでいた。
僕が驚いた顔をしていると、ハナちゃんは咳払いをしてから改めて言った。
「やめろ。誠から離れろ」
「なんでだ?誠が嫌がっていないんだから、お前にどうこう言われる筋合いはない。なぁ、誠」
「いや、僕もやめろって言ったんだけど……」
「ほら、本人も嫌がっているだろ。離れろ」
「本人も、って。本人の他に誰が嫌がっているんだ?」
ハナちゃんは答えを探すためなのか、一度停止したが、すぐに鬼のような殺気を放ちながら言うのだった。
「対戦前に変なことをするな。そっとしておいてやれ」
ハナちゃんが腕を組んで威圧するが、セレッソは聞かない。いや、それどころか反論する。
「なんだ、綿谷華。もしかして知らないのか? 人間はな、こうやって抱きしめてやると、オキシトシンというホルモン物質が分泌され、副交感神経も優位になるから、安心感やリラックス効果を得られるんだぞ。こいつみたいな緊張しがちなやつには、抱きしめてやらないと。ほら、ぎゅーーー、って」
そう言って、セレッソは強めに僕を抱きしめた。
「や、やめ……」
ハナちゃんは止めようとするが、セレッソは「誠のためだ」と繰り返す。
「どうだ、震えは止まったか?」
「た、確かに……少し収まったかも」
「収まったのかよ……」
ハナちゃんが呟く。
だが、セレッソは不満気だ。
「何だ、少しだけか。おい、綿谷華。手伝え」
「……はぁ?」
と眉を寄せるハナちゃんに、セレッソは淡々と説明する。
「オキシトシンが不十分らしい。私が右から抱きしめるから、お前が左から抱きしめろ。足りなかったら、正面を宗次に担当してもらうしかない」
「え、私もですか?」
突然のパスに三枝木さんも驚いている。そんな三枝木さんの呟きをかき消すかのように、ハナちゃんが言った。
「ば、馬鹿言うな。そんなの、効果あるわけないだろ!」
「そうか? でも、震え少し収まったんだろ?」
とセレッソに聞かれたが、どう答えるべきか……。
「……少し収まった、気がします」
「だろ? だから、綿谷華が手伝えば、完全に震えも止まるはずだ」
後ろにいたセレッソが隣に移動し、横から僕に絡みついてきた。
「ほれ。綿谷華も早く手伝え」
なぜがハナちゃんが震え出しているように見えた。そして、震えた声でハナちゃんが言う。
「ほ、本当に誠が勝つためにやるだけ、だよな?」
「当たり前だろ。逆に他の目的があるのか? 疚しい気持ちがあるのか? それなら、ためらうのも分かるが、どうなんだ、綿谷華」
「ねぇよ! あるわけねぇだろ!」
「なら、早くしろ。そっち側から、ぎゅっと抱きしめろ。強すぎず弱すぎず、誠が安心するくらいの、ちょうどいい力で、ぎゅーーー、っと」
ハナちゃんは恐る恐ると言った様子で、僕の隣に座る。
ま、マジでやってくれるのかな……?
「い、行くぞ」
「お、お願いします」
むぎゅ。
な、なんだこの感触。
ハナちゃんのような美少女が、僕にしがみ付いている。しかも、セレッソだって見た目は美少女と言えば美少女だ。
つまり美少女が僕を挟み込むようにして、ハグしてくれているんだ!
あったかいし、
やわらかいし、
めちゃくちゃいい匂い!!
ここが天国か!?
そ、そうか。
これが異世界ハーレムものか!
ようやく、らしくなってきたじゃないか!
異世界にきたのに、
特訓ばっかりして地獄みたいな場所だと思っていたけど。
やっとやっと、
僕の知っている異世界ものらしくなってきたんだ!!
「ぎゅ、ぎゅーーー!」
絶対に必要ないのに、ハナちゃんはセレッソを真似て、そんなことを言っている。なんて可愛いんだ。
「おい、誠。お前、心臓の音やばいけど、大丈夫か?」
耳元の小さい声はハナちゃんのものだ。
「わ、わかんないけど、大丈夫だと思います」
「まぁ、対戦前に心拍数を上げるとパフォーマンスも上がるって言いますから、大丈夫ですよ」
そんなうんちくは三枝木さんから。
自分で望んでセレッソの誘いの乗ったものの、この状況を冷静な三枝木さんに見られていると思うと、けっこう恥ずかしいぜ。
でも、いいんだ。こんな天国、二度とやってこないかもしれないんだから。
「どうだ、誠。オキシトシンは出てるか? 震えは止まりそうか?」
今度は反対側からセレッソの声。
「は、はい。オキシトシン、出てます。震え、止まりそうです」
「そうだろうそうだろう。こっちの世界にきて、良かったか?」
「はい、よかったです!」
「これからは不満も言わないし、もっと強くなるか?」
「はい、不満も言いません。強くなります!」
「じゃあ、皇も倒せるな?」
「はい、倒せます!」
「よし、いいぞ。倒せたら、もっといいことがあるかもしれないぞ? がんばれよ」
「はい、頑張ります!」
「ほら、綿谷華も応援の言葉をかけてやれ」
「が、頑張れよ、誠」
「はい、頑張ります!!」
嗚呼、女神様。
セレッソ様。
最高です。
本当にありがとうございます。でも……もっといいこと、って何ですか?
きっと、他人から見れば(むしろ三枝木さんから見ても)、
なんて馬鹿な時間を過ごしているのか、と思うことだろう。
でも、セレッソとハナちゃんのおかげで、恐怖で震えずに済んだのは確かだった。
「ハナちゃん可愛い!」「もっとハーレム見たい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




