【情けない態度は致命的】
日が暮れて行く。
僕たちはランチを食べた公園に戻って言葉少なく、ただ歩いていた。楽しかったデートも終盤だ。ということは、ハナちゃんはあの約束をついに果たしてくれるのだろうか。
「ちょっと……ここに座るか」
川沿いの道にあるベンチを見つけて、ハナちゃんが言った。
「そ、そうだね」
緊張しながら、二人で座った。ハナちゃんもどこかソワソワしているように見える。やはり、キスのことを考えているに違いない。
「えっーと……」
ハナちゃんは呟きながら頬をかく。
「あれだよな。時間的にも、あれかなって思うんだけど」
「え? あ、うん。そう、かもね。あれ……なのかも」
「だ、だよな。……じゃあ、どうする?」
「ど、どうするって?」
「…………」
「…………」
こ、ここは僕の方が男らしくリードするべきなのか?
「じゃあ、ハナちゃん。例のやつ……」
自分で言って、
例のやつってなんだ、とツッコミたい気持ちになる。
「わ、わかっているよ。でも、言っておくけどな、あくまで私は勝負に負けたから、するだけだからな。変な勘違いするなよ」
「はい」
「……わかったなら、するぞ」
そう言って、ハナちゃんがこちらを向いた。僕も体をそちらに向けると、目が合ったしまった。お互い、照れ臭くて視線を落とす。
「は、早くしろよ」
「わ、わかってます」
ハナちゃんが顎を少し上げて、目を閉じる。
そ、そうか。
僕も目を閉じた方がいいのかな……?
でも、どのタイミングで目を閉じるべきなの?
誰か教えて!
バックン!バックン!という心臓の音を聞きながら、少しずつハナちゃんの方へ顔を寄せて行く。あと数センチ……と目を閉じかけたところ――。
「や、っぱ待った!」
とハナちゃんの声。
「はい!」
僕も素早く身を退いた。
「一回、トイレ。すぐ戻るから」
ハナちゃんは立ち上がると、すぐ近くにある公衆トイレの方へ歩いて行ってしまった。その背を見送りながら、ほっとしている自分に気付く。
大丈夫か?
何か間違えてないか?
不快に思われていないよな?
何気なく、自分を落ち着かせるために、スマホを取り出してみた。画面にメッセージ二件の通知。一件はセレッソからで、帰りにプリンを買ってこいとだけ。
もう一件は芹奈ちゃんだった。
「練習大変なところすみません。邪魔してしまったらどうしようと迷ったのですが、先輩が騙されているかもしれないと思ったら、我慢できなくて連絡してしまいました。綿谷先輩のことなんですが、やっぱり皇先輩と付き合っていると思います。証拠の写真です」
メッセージの後に、写真が添付されていた。恐る恐る、それを表示させると……。
手を繋いだハナちゃんと皇が……。しかも、二人とも制服姿だ。
芹奈ちゃんのメッセージが続く。
「これ、木曜日の写真です。二人はたぶん、こうやって隠れて会っているんだと思います。それなのに、綿谷先輩は先輩に気を持たせるようなことをして、私には信じられません」
僕の頭の中で、梵鐘の音が響いた。
やっぱり、
やっぱり、
やっぱり、そういうことなのか……。
っていうか、さっき本人も言ってたよな。
あくまで勝負に負けたからするだけ。
そうそう、そうなんだよ。
ハナちゃんが戻ってくる姿が。僕は隠すようにスマホをしまった。
咳払いをして、ハナちゃんが僕の横に座る。
「よし、いいぞ」
ハナちゃんが再びこちらに顔を向け、ゆっくりと目を閉じた。
か、可愛い。
可愛いけど、可愛いけど、この可愛さは……
皇のものなんだ!
「ん? な、なんだ?」
目を開けたハナちゃんが、泣いている僕に気付く。
「なんだよ! なんで泣くんだ……?」
「だって、だって……知らなかったから」
「な、なにを?」
嗚呼、これを言ったらすべてが終わってしまう気がする。だけど、確認せずにはいられない。
言いたくない。でも、その疑問は僕の口から勝手に出てしまった。
「ハナちゃんって……皇と付き合っているの?」
「……はぁ?」
話を聞き終えたハナちゃんは大きく溜め息を吐いた。
「そういうことか。って言うか、その噂、今まで聞いたことなかったのかよ」
どうやら、ハナちゃんからしてみると、それは公然のことだったようだ。
「なんか、ごめんね。勝手に傷付いて。最初から、ハナちゃんは約束を守るためにデートしてくれただけなんだもんね……」
「そうじゃねぇよ!」
「え?」
「いや、そうだけど……そうじゃない」
「どういうこと?」
ハナちゃんは腕を組んで、再び大きく溜め息を吐いた。
「……わかった。面倒だから、お前には話しておく」
「ちょ、待って! 急に話されても、僕の心臓がもたないから、絶対!」
「いいから聞けって! 私と皇の関係はな――」
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




