【誕生日の秘密】
次の日も、
ハナちゃんと一緒に登校したのだが、誕生日について聞くことはできなかった。
実は皇と……。
そんな答えが返ってきたら、僕は戦うどころか、二度と立ち上がることはできないだろう。
落ちるところまで肩を落とす僕を見て、雨宮くんが声をかけてくれた。
「どうしたの、神崎くん」
「いや、何でもない。大丈夫。僕は大丈夫だから」
「そうかなぁ。顔色悪いけれど。お昼、どうする?」
「食欲ない……。ちょっと、風に当たってくるよ」
「……ダメそうだねぇ」
こういうときは屋上かな、
と思った。けれど、いつだったか屋上で皇に声をかけられたことを思い出し、別の場所を探した。
最終的に僕が行きついた場所は、美術室の横にある花壇の前だった。そこに屈んで花を眺める。
花……。
ハナちゃん。
無駄な連想力が働いてしまい、僕は頭を抱え、大きく溜め息を吐いた。
「あれ、先輩?」
背後から声をかけられ、振り向く。
そこには、魔法科の一年生、猪原芹奈ちゃんが立っていた。
「どうしたんですか、こんなところで」
笑顔で僕の隣に屈む芹奈ちゃん。何か距離が近い気がする。本当に人懐こい子だなぁ。
「悩みごとですか? よかったら話聞きますよ」
「いやいや、そんな芹奈ちゃんに聞いてもらうようなことは……」
そう言いながら、
また目の前の花々を見て、溜め息を吐いてしまう。
芹奈ちゃんは首を傾げたが、彼女も僕の前に並ぶ花々を見て、何やら直感が働いたようだった。
「もしかして、綿谷先輩のことですか?」
「え、あ……いや、その、何て言うか」
「やっぱり、そうなんですね」
芹奈ちゃんは微笑むが、
さっき見せたときの笑顔と違って、どこか冷たさがあった…ような気がした。
「隠してもわかりますよ。先輩と綿谷先輩のこと、スクール中で噂になっていますから」
「え、そうなの?」
「はい。特に上級生の皆さんは、今年は綿谷先輩の誕生日が日曜日だから、事実確認ができない、って騒いでます」
「ど、どういうこと? ハナちゃんの誕生日が日曜日だと、何かあるの?」
「し、知らないんですか?」
そう言って、
芹奈ちゃんは両手で口元を覆った。
まるで、口を滑らせてしまった、と言わんばかりに。
「芹奈ちゃん、何か知っているなら教えてもらえないかな」
「で、でも……あまり聞かない方がいいと思いますよ?」
芹奈ちゃんが痛ましいと言いたげに目を伏せる。確かに、聞かない方が良いのかもしれない。
だけど、聞かないと気が済まないぞ!
「大丈夫、大丈夫かだら教えて。お願い!」
「そこまで言うなら、お話しますけど……」
芹奈ちゃんは遠慮がちに言った。
「私は一年生なのでよく知らないのですが、去年と一昨年……二年続けて、綿谷先輩は誕生日、皇先輩と一緒に帰っていったそうなんです」
「……はい?」
「普段から、あの二人って微妙な距離感で、どういう関係なんだって、色々と言われているんですけど、誕生日に限っては二年連続で一緒に歩いている姿が目撃されているんです」
ちょっと待て。
一昨年も、ってことは皇はまだ中学生だったんだよな?
僕の混乱なんて知る由もなく、芹奈ちゃんは続ける。
「だから、二人がまだ付き合っているかどうかは、綿谷先輩の誕生日がきたら判明する、って話だったんですけど、今年は日曜日だったので……」
「じゃあさ、念のため聞きたいんだけど、ハナちゃんが次の日曜日に用事があるって言ったとしたら、どういう意味だと思う?」
「それは……やっぱり、皇先輩と出かける約束がある、ということではないのでしょうか?」
頭の中で、梵鐘を叩く音が響いた、気がした。
そうか。
そうかそうか。
そうかそうかそうか。
そういうことか。
やっぱり、そういうことなんだ!
「あの、先輩……大丈夫ですか?」
「ダ、ダイジョウブダヨ」
僕は立ち上がる。
どこかへ立ち去ってしまいたい気分だった。
しかし、足が痺れていて、数歩進んだところでバランスを崩し、うずくまってしまった。
そんな僕の背中に芹奈ちゃんが声をかける。
「もしかしたら、なんですけど……別の用事かもしれないですよ?」
「あははっ、芹奈ちゃん。僕は別に何かを気にしているわけじゃないんだよ。別に平気。オールグリーンってやつさ」
そう言いながらも、
すぐにうなだれてしまう僕のことを芹奈ちゃんが、じっと見つめてくる。
何だか居心地が悪い。だが、芹奈ちゃんは意外なことを提案してきた。
「先輩、せっかくですから、事実を確認してみるのはどうですか?」
「……どういうこと?」
「日曜日、綿谷先輩の跡をつけてみましょう」
「尾行する、ってこと?」
「はい」
芹奈ちゃんの目。
たぶん本気だ。凄い大人しそうな子だけれども、大胆なところがあるのだろうか。
「だって、嘘か本当かわらかないことに一喜一憂しているより、真実を知って向き合った方が前に進めると思いませんか?」
「……見たくもないものを見てしまったら?」
「そのときはキッパリ忘れて、別の……別のことに打ち込めば良いと思います!」
別のこと。
確かに、彼女の言う通りかもしれない。
それこそ、セレッソの奴隷になったつもりになって、全力で勇者を目指すとか。
あ、そのためには皇を倒す必要があるな。
だとしたら、鬼になろう。
復讐の鬼に。
「でも、尾行か。一人でやるのは自信ないなぁ」
「はい!」
ん?
「私が手伝います。次の日曜日ですよね。空いてます。私は先輩と約束したのに、別の約束を入れるようなことは、絶対にないので安心してください」
芹奈ちゃんは、優しさに溢れた笑顔を見せて、そんなことを言うのだった。
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