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【宣戦布告?】

皇颯斗。

僕が通うアミレーンスクールの暫定勇者。


父親は有名勇者。

母親は有名な魔法使い。


どちらも、前回の戦争で大活躍したらしく、その息子である皇も勇者になるだろうと期待されている。


「おーい、神崎くん。もう始まっているよ?」


そして、皇はその期待を寸分も裏切ることなく、圧倒的な実力をひっさげ勇者としての道を駆けあがっているんだとか。


おまけに顔はイケメン。

異性からの人気は高く、前回の防衛戦に勝利した次の日は、やつを一目見るために、他スクールの女子が校門の前に群がったこともあったらしい。


「これ以上、無視するんだったら一発ぶちかますよー?」


つまり、すべてを手にしている男、と言えるだろう。それに比べ、僕は冴えない人生を続けてきた。


特に学校という空間では。

だから、同じクラスの女子とお話する幸せだって、ほとんど知らない。


それなのに!

それなのにそれなのに、


あの男は僕が初めて触れた「幸せ」を奪おうとしている。


いや、その幸せは僕の勘違い。

そもそも、やつの「幸せ」に僕が勝手に触れて浮かれていただけらしい。


だとしたら、それはもう触れるべきものではないのでは……!!


「もう知らないからね。行くよー!」


嗚呼、僕の人生なんなんだ。

異世界にきて、努力を重ね成果らしいものも見え、もしかしたらこの先に幸せが待っているんじゃないかなって思った矢先に――。


「めえぇーーーん!」


「あいたぁぁぁーーー!」


突然、脳天に強烈な痛みが走り、思わずうずくまった。


「もう、だから言ったのに。大丈夫?」


そう言って僕を見下ろすのは

同じクラスメイトである雨宮達郎くん。


このスクールに来て、初めての友達といえる存在なのだが、なぜかその手に竹刀が握られていた。


「急に何するのさ! 痛いよ!」


「何するも何も、今は剣術の授業だよ? 僕とペアを組んで模擬戦するはずだったのに、いつまでも動かないから」


「あ」


自分も竹刀を持っていることに気付く。そうだ、ここはスクールの体育館。初めての剣術の授業だった。


「大丈夫?」と雨宮くんが首を傾げる。


「……だ、大丈夫」


そう答えながらも、

僕は皇がどこにいるのか確認するため、右へ左へ視線を動かす。


すると、竹刀を持った皇が凄まじいスピードで一本取る瞬間を目撃してしまい、情けない気持ちが膨れ上がった。




昼休み。

雨宮くんが僕に言った。


「ねぇ、心ここにあらず状態だけど、何かあったの?」


「……ちょっと教えて欲しいんだけどさ」


ここでは聞きにくい、

と僕らは屋上へ移動した。


しかし、移動しても尚、僕はもごもごと質問を言い出せずにいた。すると、雨宮くんはやや呆れながらも、とりあえずと言った調子で別の話題を振ってくれた。


「そういえば、先週の綿谷先輩の防衛戦、すごかったね。ジュリア先輩を相手にあんな勝ち方するなんて、誰も文句言えないよ。綿谷先輩って、セレーナ様にしか負けてないしね。あ、ってことは神崎くんって新勇者と知り合いってことか。凄いなぁ――って、どうしたの!?」


隣でゾンビみたいにやつれた顔をする僕に気付き、雨宮くんは驚きの声を上げた。




「なるほどね」


事情を聞いた雨宮くんが溜め息を吐いた。


「そんなの、本人に聞けばいいのに」


「聞けるんだったら聞いているよ。聞けないよ、どう考えても」


「そういうもんかなぁ。じゃあ、僕が聞いてあげようか?」


「雨宮くん、ハナちゃんと接点あるの?」


「事情を知ってそうな人なら知り合いだよ」


そう言って雨宮くんはスマホを取り出し、誰かに連絡を入れた。


五分後、その人物が現れる。黒髪の健康的なスタイルの女子。どこかで見たことある気が……。


その女子生徒は僕を見るなり、目をまん丸に開いて近寄ってきた。


「あれあれー! 君ってまさか、ハナのあれのあの子だよね……?」


あれのあの子、ってなんだ?


「日野川先輩。急にすみません」


雨宮くんが彼女を紹介する。


「この人は日野川火凛さん。同じクラムで練習している僕の先輩で、綿谷先輩とは親友と言っても良い仲らしいんだ。で、日野川先輩。綿谷先輩って皇くんと付き合っているんですか?」


「ちょちょちょ、ちょっとーーー!」


慌てて止める。

自己紹介の流れで本題に行くなよ! デリケートな問題なんだから!


「あー、そのことのね。なるほどなるほど」


日野川先輩は状況を察してくれらしい。僕は恥ずかしくて顔が真っ赤だが、話が早いのは助かると言えば助かる……かも。


「それがねー、あの子もほら、そういうの自分から話そうとしないタイプでしょ? もちろん、聞いたことあるよ。皇くんと付き合っているの?って。でも、無視。絶対に答えないの」


「じゃあ、やっぱり……」


再びゾンビ化しそうな僕だったが、日野川先輩が「でもね」と続けた。


「一回だけ言ったの。そういうのじゃねぇ、って」


今の言い方、ハナちゃんにそっくり。さすがは親友。


「だから、どこかのタイミングで別れたのかなー、とも思ったんだけど、月に一回か二回、噂を聞くんだよね」


な、なんだ?

聞きたくない。


聞きたいけど、怖くて聞けないぞ。


「どんな噂ですか?」と雨宮くん。


少しはこっちのメンタルも考慮してくれ!と言いたいところだが、日野川先輩が話し出すので、僕は黙るしかなかった。


「ハナと皇くんが一緒に歩いてた、って噂。別れているとは思うんだけど、何かのタイミングで復縁するんじゃないか、ってのが大方の意見。ただ……最近、ちょっと状況が変わったから、どうなんだろう」


「状況が変わった、ってなんのことですか? まさか皇が――」


思わず前のめりになる僕だったが、その質問を遮る影があった。


「僕のこと、呼んだ?」


話に入ってきた人物は言うまでもなく、超絶イケメン、無敵の暫定勇者様、皇颯斗だった。


「よ、呼んでねぇよ」


いつから聞いていたんだ、

と動揺しつつも、その姿を見ると何だか腹が立って突き放すような言い方になってしまったが、皇は無表情のままだ。


「そう。言いたいことがあれば、直接言いなよ。気に入らないなら実力で黙らせればいい。僕はそのつもりだ」


皇が去った後、日野川先輩が呟く。


「宣戦布告、という風にも聞こえなくなかったね」


さらに、雨宮くんも続いた。


「なんだか、次のランキング更新戦が楽しみになってきましたね」


「色々な意味でねぇ」


雨宮くんと日野川先輩は

ニヤニヤしているが、僕からしてみると、気が気じゃない。


ちくしょう。

皇のやつ、見ておけよ。


お前には……お前だけには、絶対に負けないからな!

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