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【デリート・リライト】

華は練習を終え、叔母と夕食を取ってから、自室にこもってスマホを睨み付けていた。


「この前、女と一緒に帰ってた?」


メッセージの入力画面で文字を打ってから、すぐにデリートを連打する。


これでは私が気にしているみたいじゃないか。


でも、何て聞けばいいんだ?


「最近、元気?」


デリート。

これでは遠回し過ぎる。

元気だよ、の一言が返ってきたら、それで終わりだ。


「最近、何している? 変わったことあった? 友達できた? 仲良くなった人いる?」


デリートを連打。

これも何かうざったい気が……。


「明日の放課後、何か予定ある? よかったら久しぶりに一緒に帰らない?」


デリートデリート。

なんで私が下手に出ているんだ。


「明日は一緒に帰るぞ」


よし、これくらいが自分らしい。


送信を押そうとして、ふと不安が過る。

これを送って「ごめん、明日はもう約束があるんだ」と返ってきたらどうしよう。


「明日は一緒に帰るぞ。他のやつと帰る約束とかするなよ」


……これでよし。

送信を押して、既読の表示がつくまで落ち着かなかった。




あいつ、何をやっているんだ。

まだ、アスーカサの練習か?

だとしたら、いつ返信があるのだろう。


そう言えば、

いつもセレッソとかいう古めかしい名前の女と一緒にいるけど、今もそうなんじゃないか。


よくない。

また変な沼に足を入れようとしている……


と思い当たったタイミングで既読の表示が。


華はどんな返信があるのか、と固唾を呑んで画面を睨み付ける。すると――。


「マジで!? 超嬉しい! 下駄箱の前で待ってるね!」


華の口元が自然と緩む。

余計に返信するのはやめておこう。これで、あいつからの返信が遅かったりしたら、眠れなくなるかもしれないし、また変に入れ込んでしまうかもしれない。


いやいや、そもそも自分は何を舞い上がっているのだ。


とにかく、その日の夜、華は割りと穏やかな気分で眠れたとか。




次の日、華はホームルームが終わるよりも早く教室を出た。


「どこ行くのー?」


と火凛に引き止められたが、聞こえないふりである。


待つこと十分。

多くの生徒が華の姿を見て、コソコソと囁き合ったが、気にはならなかった。


「ハナちゃん、お待たせ!」


誠が姿を現す。

表情を見る限り、本当に嬉しそうだ。うんうん、大丈夫。何が大丈夫なのかは分からないが、とにかく大丈夫そうだ。


二人で駅の方へ向かう。


「……最近、どうだ?」


「もう毎日、地獄の練習だよ。三枝木さん、優しい顔して本当に鬼コーチって感じでさ」


スクール生活について聞いたつもりだが、誠は練習について話し出す。一緒に帰っていた女とは何者なのか聞き出せなかった。


「鉄次には勝てそうなのか?」


「今のところは勝てる気がしないけど……」


誠が肩を落とす。

おいおい、お前が負けたらこっちも気分が下がるからやめてくれよ……と華は密かに焦りを抱く。


「勝てよ、絶対に」


「勝ちたい、って思ってはいるんだけど、最近……なんか色々と考えちゃってさ」


こいつはこいつで思うことがあるのだな、と華は共感する。


「でも」


誠の表情が変わる。


「ハナちゃんに推薦してもらったんだから、絶対に負けられないよ。だから、対戦までの時間は必死に練習する」


「……じゃあさ」


華はずっと言わなくては、と思っていたことを、ついに口にするのだった。


「お前が鉄次に勝って、私が防衛戦に勝ったら……デートするから。約束、守ってやる」




改めて、負けられない理由ができた。華の集中力はより研ぎ澄まされて行くのだった。


そして、神崎誠が岩豪鉄次に勝利する。


華の防衛戦まで、あと二週間まで迫った。

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