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【バンド組むなら……】

女神の力を使うにあたり、一点決めておきたいことがあった。


「それにしてもさ、僕が女神の力を使うときの合言葉みたいなものを決めておいた方がよくないか?」


「合言葉? なぜ?」


面倒くさそうなセレッソだが、僕は折れるつもりはない。


「だってさ、凄い強い敵が現れて、お前の力を借りたいとき、なんて言えばいいんだ? セレッソ、力を貸せ!って言うのも……なんか普通だし、締まらないだろ?」


「何でもいいだろ、そんなの。だったら、お前の好きな『変身』でいいじゃないか」


「いやいや、変身はブレイブアーマーの装着で既に使っているじゃん。もっと特別なワードが良いなぁ」


「なんだよ、この話し。中学生がバンド組むならどんなバンド名にする的な会話じゃないか」


こいつ、よく分かっているんじゃないか。僕はそういう話しをしたいんだ。


「四文字くらいで、神々しい感じのやつないかな?」


「じゃあ、女神変身は?」


「僕は男だぞ? 女神って言うのも変だろ」


「変なところで細かいやつだなぁ、面倒くさい。私としては、キスさせろ、くらいが一番いいけどな」


「や、やめろよ。僕のキャラじゃない」


「でも、フィオナや綿谷華にもマウント取れるじゃないか。私はキスを迫られてるぞ、って」


「だからやめろって……」


なんでこいつは頭を抱えたくなるようなことばかり言うんだ。この手の話はこいつじゃダメだ。かと言って誰が良いだろうか、と悩んでいると……セレッソが誇らし気に鼻を鳴らした。


「冗談。冗談だ。私はな、お前がそんなことを言い出すことくらい分かっていた。既に、力を貸し与える際の名称は決まっている」


「な、なんだって……??」


「しかも、お前が喜ぶような、かっこいいやつだぞ。聞きたいか?」


意外にもノリノリじゃないか! しかも、これだけの自信を見せつけられると、聞かずにはいられない。


「ああ、聞きたいさ。いったい……どんなワードなんだ?」


すると、セレッソは勝ちを確信したように、目を閉じて言うのだった。


「……神人天来(しんじんてんらい)、というのは、どうだろうか?」


「神人天来……!!」


まるで、雷が直撃したかのような衝撃だった。こいつ、なぜ僕の中二センスにぴったりな言葉を持ってこれるんだ!?


「す、凄いじゃないか。かっこいいよ、その言葉!」


「だろ? 少し考えれば、お前のレベルに合わせた単語くらい、いくらでも出てくるのさ」


「女神の名は伊達じゃないな……」


得意気なセレッソ。いつもなら、憎たらしく思うところだが、今回は尊敬の眼差しを向けずにはいられなかった。


「変身ワードが決まったと思うと、早く神人天来って叫んでから、かっこよく戦いたいなぁ」


「無駄に力を使うなよ。その気になれば、国一個くらい簡単に燃やし尽くすような力なんだ。調子の乗ると……」


「力に飲まれる、ってやつだろ?」


「分かっているじゃないか」


この手の話ではよくあるからな。本当に、強くなったからって傲慢な態度で必要以上の暴力を振るってしまったら、それこそ僕は世界の敵になってしまう。その辺の節度や道徳は弁えないとならないな。そんなことを考えていると……。


――ピンポーン。


またも誰かが我が家に訪ねてきた。


「リリさんが帰ったのかな? 鍵も持っているんだから、勝手に入ってきてくれればいいのに」


色々とお世話もしてもらうなら、他人行儀でいられると、落ち着かないではないか。そんな僕にセレッソは同意する。


「確かに、この部屋は出入り自由みたいなところはあるからな」


「……前言撤回。絶対にインターホンは鳴らしてもらいたい」


お前に関しては自由に出入りし過ぎなんだよ。親しき中にも、ってやつを平気でぶち壊すようなやつなんだから。


――ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン。


のろのろと立ち上がろうとしていると、インターホンが連打される。リリさん、意外にせっかちだなぁ、と思いながらドアの方へ向かうと……。


バコンッ!という音と共に、ドアが外れた……。


割としっかりとした鍵の付いたドアなのに、特殊な工具でも使ったのか、鍵ごと容易く破壊されてしまったのだ。


「な、何が起こったんだ?」


目を丸くしていると、破壊されたドアの間から、一人の女の子が顔を出した。


「あ、お兄ちゃん! もう、早く出てこないから、勝手に開けちゃったよ!」


あ、開けたって言うか、破壊したんだよ。

って言うか、なぜ彼女がここにいるんだ?


僕は震えながら、彼女の名を口にするのだった。


「あ、アオイちゃん??」

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