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【女神の口づけの価値は】

それから、リリさんが食事を用意してくれた。プロのような手際とクオリティに脱帽し、激しい空腹に襲われたので、さっそく三人で食べようと食卓を出したのだが、リリさんは自分の生活用品を集めるためと言って、外出してしまった。


「さすがに毒は入っていないよな」


とセレッソは箸で料理を突っつく。

なんて行儀が悪く疑い深い女神だ。


「ぼ、僕はリリさんを信じている」


「じゃあ、先にお前が食ってみろ」


「もちろんだ。リリさんはもう仲間なんだから、疑う方がおかしいだろ」


そう言って箸を取り、美味しそうなハンバーグに触れるが……


本当に申し訳ないけど、口に運ぶのが怖い!!


何とかハンバーグを口元に運ぼうとするが、手がプルプルしている僕を見て、セレッソは笑った。


「安心しろ、誠。毒が入ってても、私がすぐに女神の力を貸してやる。即死系の毒も……たぶん大丈夫だ」


た、たぶんかよ。でも、この程度で躊躇っていたら、僕はいつまでもリリさんに対して、嫌な偏見を潜在的に持ち続けることになる。ここは彼女のことを信じて、食べるしかない。


「いただきます!」


思いっきり、口の中に放り込む。


「ぐっ……!?」


「変な演技はいらないからな」


胸を抑える僕に、冷めた目で言うセレッソ。


「美味い! さすがはスーパーメイドの料理! 美味いよ!!」


リリさん、一瞬でも疑ってごめんね!

信じてたけど、ちょっとだけ怖かっただけなんだ!

人の弱さってものを分かってくれるよね??


そこから、僕はガツガツと料理を口へ運び、次々と平らげて行った。


「これなら女神の力を貸し与える必要もなさそうだな」


やっと安全を確信したのか、セレッソも食事を開始するが……。


「そうだ、忘れた。それだよ」


「ん? このブロッコリーがなんだ?」


「それじゃない。女神の力の話」


「……ああ」


「あれ、いったいどういう仕組みなんだ? お前の声が頭の中で聞こえたり、髪の毛が勝手に動いたり、結構怖かったんだけど」


セレッソは煩わし気な顔をするが、渋々と答えてくれた。


「女神は体内に力の源となるナノマシンを宿している。それを強制的に移して、お前の中で発動させたんだ。頭の中で私の声が聞こえたのも、ナノマシンを通した会話だ。髪の毛が動いたのは、私によるリモート操作」


「なんだそりゃ。あとさ、お前が自由に力を他人に与えられるなら、僕である必要はないように思えるけど?」


「ナノマシンを体に宿せる体質は、極々稀だ。他の人間に同じことをしたら……即死だ」


「そ、即死……」


なんて恐ろしいんだ。あのときの下手をしていたら死んでいたのだと思うと、ぞっとする。


「確かに、体の中が熱くて痛かったし、やばい感じはあったもんなぁ。よく死ななかったな……」


「お前は大丈夫だ。体質的にな」


そうなの?

でも、セレッソは何で僕がそういう体質って知っていたんだ??


「でも、嬉しいだろ?」


質問の前に、セレッソが次の話題に持っていく。


「嬉しいって何が?」


「女神の力を使うたびに、私とキスできるんだ。ちょっと痛いくらい、我慢できるだろ」


「お前のキスにどれだけの価値があると思っているんだ」


「五万円くらいかなぁ」


「た、高いよ」


いや、分からないけど。

僕も異世界に来ないで、普通の生活を送っていたら、いつになっても彼女ができなくて、セレッソみたいな美少女と会話する機会もなかっただろう。


そしたら、五万くらい出してキスさせてくれ、って気持ちになったかもしれない。そう考えると……。


「何を真剣に考えているんだ。安心しろ、金はとらない」


「当たり前だ! 体が千切れたり、脳をかき混ぜられたり、あんな酷い目に合うんだから、無料に決まっている!」


「そうじゃない」


「はぁ?」


「戦いとは関係なく、お前がしたいなら、いつでも無料(ただ)でキスくらいしてやる、という意味だ」


「……べっ!! べつに! お前なんかと、キスしたいって!! 誰も言ってないだろ!?」


しどろもどろな僕を見て、セレッソは薄い微笑みを浮かべる。


「なるほど、ツンデレの可愛さを初めて理解できた気がするぞ、私は」


「都合のいい解釈をするなっ!!」

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