【まさかの空き巣?】
「ついに我が家に帰ってきたぁ!」
扉の前でごそごそと鍵を探すが、なぜかセレッソが僕の隣に立って、動きそうになかった。
「お前、まさか僕の部屋に上がりこむつもりか?」
鍵を取り出しながら尋ねると、セレッソは首を傾げる。
「そのつもりだが?」
「お前はお前の部屋があるだろ」
「あるが、別にお前の部屋に帰ったっていいだろ」
「嫌だよ。埃もたまっているだろうし、家を出る前も散らかしちゃったし、女子を入れるような環境じゃないんだ」
「ほう、私のことをちゃんと女子と認識しているのか」
「あ、あ、あ……」
当たり前だろ、って言いそうになったけど、それはそれで何か悔しいところだ。僕が何とか言葉を飲み込むと、再び首を傾げるセレッソだったが、すぐに呆れたように溜め息を吐くのだった。
「部屋が少し汚れているくらい、今さら恥ずかしがるな。お前と私の仲だぞ」
「そうは言っても……」
どういう仲だと思っているんだ、お前は。
「それにな」
とセレッソは言う。
「長い戦いから帰ってきたんだ。一人で部屋の片づけを始めるのもむなしいだろ。私が茶飲み話の相手になってやるから、安心しろ」
すると、セレッソはいつの間にか手にしていた合鍵を使って、扉を開けると、先に部屋の中へ入って行ってしまった。
「ま、待て! 五分だけ外にいてくれ。見られたくないものも、あるんだ!!」
しかし、時すでに遅し。セレッソが奥へ進んでいく。
「ああ、もうダメだ……」
どれだけ馬鹿にされるだろう。こんなことになるなら、出かける前にしっかりと隠しておくべきだった。
そもそも物的証拠を残すべきではなかった。いやいや、この世界も、その手のものはデジタルで足りるようだが、中には物質的な品として残しておきたいものだってあるんだ。場合によっては、そういう品の方が、価値を見出せることだってあるのに……。まさか、そんな僕の嗜好が仇となるとは……。
「もういいよ。笑え。軽蔑するがいいさ」
ぶつぶつ呟きながら、僕も部屋の奥へと進むのだが……。
「なんだ、ちゃんと綺麗にしているじゃないか」
セレッソが感心した様子で振り返る。
「いやいや、そんなことないだろ。いいよ、気を使わなくて」
肩を落としつつ、僕も部屋の中を見渡すのだが……。
「な、なんじゃこりゃあ!?」
部屋が……まるで、モデルハウスのように片付いているのだった。出しっぱなしだった洗濯物も片付き、キッチンに置かれたグラスもピカピカ。あっちも、こっちも……
とにかく掃除が行き届いているじゃないか。
「見事なものだな。これはリラックスできそうだ。あー、疲れた疲れた」
そう言って部屋の真ん中に寝転がり、テレビを付けるセレッソ。
「誠、茶を出せ。さっき買ったポテチも開けておけよ。ちなみに、私はスナック系の菓子は箸で食べたいタイプだからな」
「お、お前ってやつは……」
いや、この図太さにある意味救われているのかもしれない。
「そうじゃないんだ、セレッソ。この部屋、僕が戦争に出ている間、絶対に誰かが入っているぞ」
「ん? そうなのか?」
一度こちらを見たものの、興味がないのか、またテレビの方へ向いてしまうセレッソ。
「やっぱり、テレビはオクトの方が面白いなぁ」
と呑気なことを言っている。それどころじゃあないんだよ。
どうするべきなんだ?
警察に連絡する?
それとも、フィオナに報告すべきだろうか。
悩んでいると、背後の扉が、ガチャガチャと音を立てた。驚きながら振り返ると、間違いない。誰かが入ってこようとしている。しかし、入るときにしっかりと鍵は閉めた。もし、やってきたのが戦争中ここに出入りしている人物だとしたら、覗き穴から顔を確認しておいた方が……。
ガチャ!
「か、鍵が開いた??」
その何者かは、既に鍵を作っていたらしい。
しかし、いつ?
どうやって??
「や、やばいよ。絶対に危ないやつが入ってくる! そ、そうだ。ブレイブシフトどこだっけ??」
パニックの中、容赦なく扉が開かれたのだが……。
「あ、お帰りでしたか」
中に入ってきたのは、メイド姿の美女……リリさんだった。
「お帰りなさいませ、誠さま」
荷物を玄関先に置き、スカートの裾をつまんで、頭を下げる彼女の姿は、マジで異世界のメイドそのものだった。
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