【帰ってきた勇者】
僕とセレッソはアミレーンの駅に降り立った。
「……か、帰ってきた」
見慣れた景色に思わず呟きが漏れる。オクトに戻ってから、検査だったり、書類にサインしたり、なかなか帰れずにいたのだが、やっと帰ってこれたのだ。
「さすがの私も、今回ばかりは久しぶりに感じるよ」
千年の時を生きている、女神のセレッソですら、久しぶり見たホームタウンは感慨深いものがあるらしい。しかし、セレッソは厳しい目で僕を見る。
「ただ、油断するなよ。何度も言うが、戦いは終わったわけじゃない」
「分かっているよ。アオイちゃんはあくまでファーストステージのボスで、これからも強い敵がいるんだろ? 具体的には何人いるんだ?」
僕たちは駅から、自宅へ向かいながら、これからの話をした。さすがにゴールも分からず、戦い続けるのは僕だってしんどい。今まではゆっくり話す時間すらなかったけど、今日くらいは聞けるだろう。セレッソは言う。
「……この世界には、五大女神と呼ばれる女神が存在しているのは知っているな?」
「ああ、うん。聞いたことある」
「セレッソ、タンソール、アイリス、ロゼス、ピオニー。かつてこの五人の女神を中心に、大規模な戦争が行われた」
「千年前の女神戦争ってやつだろ? 何度も聞いたよ」
「戦争で女神たちは全員が滅びるべきだったかもしれないが、そうはいかなかった。中には、再びこの世界を混沌に落とそうと考えているやつもいる」
その一人であろうアオイちゃん……つまり、アッシアの守護女神であるタンソールとの戦いは、凄まじいものだった。あれと同じ力を持ったやつが、争いを企んでいるとしたら、世界が大変なことになるだろうと僕だって想像はできる。
「アッシアを率いて戦争を起こしたタンソールは撃破した。だが、ロゼスとピオニーがいつ動き出すかは分からない。少なくとも、この二人を撃破し、さらに世界の裏で虎視眈々を機会を狙う、黒幕を倒してこそ、この戦いの終着と言えるだろうな」
なるほど。五大女神を全員倒して、その背後にいる黒幕がラスボスってわけか。
「じゃあ、少なくともアオイちゃんくらい強い敵をあと三人は倒すってこと?」
「そうだ」
セレッソは頷くが……あれ?
数が合っていないような。
「ロゼスとピオニー、黒幕を倒すって……女神はもう一人いなかったか?」
僕の質問に、セレッソは顔色一つ変えることなく言うのだった。
「アイリスが死んだからな。千年前の戦争で」
「……そうなんだ」
じゃあ、強い敵が一人減ったってことだ。ラッキー、と安心したいところなのだけれど……セレッソの様子が少しおかしい気がする。この女とは、出会ってから長いってわけじゃないけど、それなりに濃い付き合いをしてきたつもりだ。無表情が多いが、若干の喜怒哀楽は読めるようになったつもりだ。
「そのアイリスってやつとは、何かあったのか?」
ちょっとした好奇心のつもりだったが、セレッソは足を止め、僕の方を見つめた。
「……なんだよ」
「いや」
再び歩み始めるセレッソ。そして、彼女はアイリスとの関係を短く説明した。
「友達だったんだ。女神戦争の間も、一緒に戦ってくれた、唯一の友達さ」
いつもなら「お前に友達なんかいたのか?」とからかってやるところだが、そんな雰囲気ではなかった。
「でもさ、女神の力ってとんでもないよな。最初からあれを使えば、戦争だってすぐに終わらせられたんじゃないか?」
「馬鹿を言うな。力を消耗したところに、タンソールから攻撃を受けていたら終わっていた。それに他の女神に介入されても、おしまいだ。女神と戦うときは、確実に一対一の状況を作らなければ、危険なんだよ」
確かに……女神を二人以上、しかも同時に戦うなんてことになったら、それこそ命はないだろう。
「それに……」
とセレッソは付け加える。
が、言葉が出てくるまで、躊躇いが足を引っ張っているようだった。
「それに、お前が女神の力を使えると知られたら、何者かに暗殺される恐れもある。何よりも、禁断術封印機関という組織もあるからな。下手に力は使わない方がいい」
禁断術封印機関か……。
えーっと、なんだっけ?
「お前、封印機関が何か分かってないな??」
セレッソの指摘に顔を引きつらせてしまう。
「いやいや! 分かっているよ! 僕とプロトタイプのブレイブアーマーを取り合った、千冬がいる組織だろ!」
「その目的は?」
「だから、えっと……危険なものを取り締まる、みたいな?」
僕の答えに、セレッソはなぜか驚いたみたいだった。
「……大方、当たっているじゃないか。お前、少し賢くなったか? 記憶容量フロッピー並みだと思っていたが」
「フロッピーなんて言葉、なんでお前が知っているんだよ」
僕のツッコミに、セレッソはなぜか懐かし気に微笑むのだった。
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