――― エピローグ ―――
重々しい扉が開かれると、セレッソはランタンを手にして、その奥へ進んだ。ランタンの光に照らされたのは、両手を拘束された一人の少女。
「……すまないな、こんな扱いで」
「いいよ。私は負けた国の女神なんだから」
セレッソは少女の正面に置かれたパイプ椅子に腰を下ろす。数秒、二人とも口を閉ざしたままだったが、少女が小さく笑った。
「なんだかおかしな感じだねぇ。千年前も、十年前も、あんなに激しく殺し合ったのにさぁ、こんな風に膝を合わせて話す日がやってくるなんて」
「確かに、そうだな」
「……で? 私なんて生かしておいて、何か聞きたいことがあるわけ?」
「生かしたのは私じゃない。誠だ」
「……」
「だが、もちろん聞きたいことはある。お前がアッシアを動かして、戦争を始めたのは、本当にイワンのためか?」
「……なるほどねぇ」
少女はシニカルな笑みを浮かべた。
「何が言いたいか、分かったよ。千年前の戦いは、まだ続いているって言いたいわけだ」
「そうだ。最初は、やつがお前を復活させて、イワンをけしかけたとばかり思っていたが……」
「違うよ。十年前のあのときだって、あいつが私たちの間に入ってくるなんて、思いもしなかったんだから」
「では、今のやつについて知っていることは?」
少女は首を横に振る。
「あ、でも……ロゼスがあいつと接触した、って言ってたかなぁ」
「……よりによって、ロゼスか。ソールから見て、ロゼスはやつに付くと思うか?」
「どうだろうねぇ。ロゼスは理性的に見えるけれど、情がない女だから、衝動に任せて暴れ出すかもね」
「暴れ出す? そういうタイプではないだろう」
「ああ、そうか。何かを壊すにしても、嫌なからめ手を使ってくるタイプかぁ」
「……たぶんな」
それからの沈黙は、二人にとって千年前の戦争について想いを馳せる時間のようだった。
会話がなくなり、セレッソは立ち上がる。
「不自由があれば言ってくれ。できる限りのことはする」
「別にいいよ。イワンに会う前は、もっと酷い状態だったんだから」
「悪かったと言っているだろう」
セレッソが監禁部屋を出ようとしたが、少女は呟いた。
「それにしても……驚いたなぁ」
足を止めるセレッソ。
「何がだ?」
「誠お兄ちゃんだよ。とんでもないところから連れてきたんだね」
「……私が力を失った時点で、頼れるのはあいつだけだったからな」
「それにしたってだよ、お姉ちゃん。あんなの、死人を引きずり出すようなものじゃないか。復讐のつもり? それとも懺悔かな?」
低く笑う少女を、しばらく見つめるセレッソだったが、それ以上の言葉はないと判断し、今度こそ暗い部屋を出た。
ランタンの明かりを消し、誰もいない廊下を歩くセレッソ。彼女は歩く先を睨み付けながら、呟くのだった。
「復讐でも、懺悔でもない。私はただ約束を守りたいだけだ。……誠、お前はそんなことすら、知りもしないだろうがな」
誰もしらない。彼女の想いを。
それでも、女神だった少女の戦いは続く。誰にも理解されぬまま、続くのだった。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
少し長めな第6章でしたが、お楽しみいただけたでしょうか。
第7章は作成中ですが、少しの間だけ更新をお休みします。本当に少しだけ。
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再開が早まるかもしれませんので、ぜひよろしくお願いします。
それでは、次回もお付き合いいただけたら幸いです。




