【宣言する王女様】
その後、岩豪と少し話して、再び捕虜扱いとなったリリさんに挨拶し、ダーク・クノイチXさんについて知っている人がいないか聞いて回ったが、何も得られるものがなかったので、自室へ戻ろうとしていた。が、廊下を移動中に……。
「やっと、見つけた」
「え?」
急に服を掴まれて、誰もいないと思っていた会議室の中へ引っ張り込まれた。誰かと思えば……。
「フィオナ??」
じっと僕を睨むと、会議室の扉に鍵をかけた。
「ずっと、探していたんだけど」
「いやいや、だって……一時間待ってもこないから」
「仕方ないでしょ、ずっと忙しかったんだから」
「それは分かるけど……」
待っていられなかったのだ。戦争が終えて、色々な人の顔を見たかったから。もちろん、それはフィオナのことも入っているのだけれど……。
「ごめん……」
「いいわよ、約束守ってくれたんだから」
「今回ばかりはマジで絶対に死ぬ、って思ったけど……何とかね」
扉を背にしていたフィオナだったが、一歩踏み出したかと思ったら、急に体を寄せ、両腕を僕の腰に回してきた。
「私たち、勝ったんだ」
「……うん。フィオナのおかげで、オクトが勝ったんだよ」
しばらく、僕たちはただ生きていることを実感するように、そうしていたのだが、フィオナが何かを思い出したかのように、急に体を離した。
「そうだ、もう一個……約束があったはずなんだけど」
「もう一個……?」
キッと目を鋭くするフィオナ。
「私が伝えた気持ちに対する、返事に決まっているでしょ!?」
「えっ、あ、その……」
そ、そうだった。
アッシアの地下研究所で、フィオナが僕に告白的なことを言ってきたんだった。戻ったら返事を、って……そういう話だったんだよな。
「……」
じっと僕を見つめて、返事を待つフィオナ。
どどどどど、どうしよう。
だって、僕にはハナちゃんが。それにセレッソも。いやいや、何でセレッソが出てくるんだ。
そもそも、フィオナのことだって……!!
何て言えばいいんだ??
ここで変なことを言ってしまったら、大切なものを失ってしまう気がする。
目を白黒させていると、フィオナが大きな溜め息を吐いた。
「聞こうと思っていたけど、やっぱいい」
「え?」
「何となく、今は聞きたくない」
「そ、そうですか……」
正直、ほっとしていたのだが、フィオナは僕の手首を掴むと、ぐいっと引っ張って、一緒に会議室を出た。そして、辺りに人がいないか確認しつつ、フィオナは僕を連れて廊下を進む。そして、瞬く間に彼女の自室へたどり着いた。
「そこに座りなさい!」
フィオナが指定したのは、ベッドの端だった。
「は、はい」
何が起こるのだろうか、とドキドキしていると、フィオナは僕の目の前に立ち、腰に両手を置いた。
「言いたくないけど、我慢もできないから、貴方の気持ちを当ててあげる。言い当ててあげる」
「ぼ、僕の気持ち……ですか?」
フィオナは鼻を鳴らす。
「どうせ、迷っているんでしょ?? 貴方、どう見ても綿谷華のこと、好きですものね!」
「はひっ??」
口から心臓が飛び出しそうになるが、何とか耐える。たぶん、耐えた。そんな僕を睨み付けながら、フィオナは言うのだった。
「でも、私のことも好き。そうでしょ?」
「……うん」
少しだけ、フィオナの表情が和らいだ、ような気がした。
「やっぱりね。まぁ、迷っているなら、少しだけ時間をあげる。少しだけね」
と言って背を向けた後、フィオナが小声でつぶやく。
「今は、自信ないから。少しだけ、だけど」
「なんだって?」
聞き取りにくかったので、もう一度耳を傾けようとしたが、フィオナはこちらに向き直ると、パコンッと頭を叩く。
さらになじられるかと思ったが、彼女は横に腰を下ろすと、僕の太腿に頭を預けてきた。
「三日間、寝ずに働いてたの」
「うん。雨宮くんに聞いた」
「……誠が起きたとき、二人だけで過ごすんだって思って、ずっと頑張って働いていたんだからね」
「そ、それは……光栄です」
「本当に思っているの?」
責めるような口調だが、やはり眠気に勝てないのだろう。彼女は瞼の重みに耐えられないと言った調子で、目を閉じた。
「まぁ、いいわよ」
フィオナが柔らかく微笑む。
「今はいい。だけど、絶対に好きにさせてみせるから、私が一番になってみせるから……覚悟しなさいよ」
そして、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。そうとう疲れていたのだろう。僕は先に、たっぷり休ませてもらったのだから、このお姫様にもたっぷり休んでもらわないと。
「……お疲れ様、フィオナ」
こうして、長かった第二次オクト・アッシア戦争が終わる。僕たちは必死に戦い、何とか生き残ったけれど、心に傷を残す結果となった。
それでも、僕たちは前に進むのだろう。
セレッソは言った。魔王はあくまでファーストステージのラスボスだ、と。だとしたら、今後はどんな敵が待ち受けているのだろう?
不安はたくさんあるけれど、今は休もう。ただ、生きていることに感謝しよう。フィオナの寝顔を見ながら、そんな風に思った。
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