表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/352

【あいつをぶん投げろ】

ノームドは僕が敵であると認識したわけではないらしく、あらぬ方向へ歩き出そうとしていた。


「ちょ、え…どこ行くの?」


ノームドの背に問いかける僕に、武田先生が大声を飛ばす。


「おい、神崎! 話しかけてどうする。逃がさないように気を引け!」


みんなの笑い声が聞こえた。

くそっ、何て恥ずかしいんだ。


「こっちだ! こっちだぞー!」


先生の言う通りにしてみたが、ノームドは少しも反応してくれない。むしろ、立ち去ってしまいそうだった。


「だから、話しかけてどうするんだ! 背中を向けているんだから、蹴り飛ばしてやれ!」


「は、はい!」


僕は思いっ切り助走をつけてから、ジャンプして、ノームドの背中を蹴り付けてみる。


ノームドはその勢いで何歩か前進を強いられたが、ダメージらしいものがあったかどうかは怪しく、その感情のない瞳をこちらに向けてきた。


「よし、こっちだ! かかってこい!」


こっちは見ているものの、さっきと違って威嚇する様子もない。本当に敵として認識しているのだろうか。


もう少しアピールして気を引くべきなのか?

だとしたら、何をするべきなんだろう。


頭を悩ませていると、突然ノームドが一歩前に出て、ビルを薙ぎ倒す巨大怪獣みたいに、腕を振るってきた。


余計なことを考えていたせいで、僕は反応に遅れてしまい、その重々しい一撃を躱すことなく、受け止めることに。


ガードの上からでも伝わる衝撃。

僕の体は勢いに流されて、民家の塀にぶち当たった。


「ぐへぇ!」と悲鳴を上げながら跪く。


なんてパワーなんだ。

確かに、これは人間とは違うぞ。


なんて驚いている間に、ノームドは距離を詰めて僕を見下ろし、次の一撃を放とうと腕を振り上げていた。


「やばい!」


即座にその場から離脱して、事なきを得たが、圧倒的なパワーにしり込みしてしまう。


あんな化物、どうやって倒すべきなんだ?


って言うか、

前回はどうやって倒したんだっけ?


助けを求めた方がいいと思うけど、それはマジで情けないぞ。


ノームドがのしのしと近付いてきたので、距離を取って次の攻撃に備えるが、またも武田先生からの声が。


「神崎! 敵の攻撃が怖いなら組み付け! 組み付いて倒すんだ!」


流石は勇者科の先生。

くっ付けば殴られる心配はないってわけか。


僕は右左と体を揺らしてフェイントを見せた後、体勢を低くした状態で飛び込んだ。ガシッとノームドの腰に抱き着き、全力でしがみ付いた。


よし、取り敢えず組み付きに成功したぞ。


成功したけど、次はどうするんだ?


迷いながらも、ハナちゃんに投げられたときの感覚を思い出しつつ、僕はノームドの足を払おうとした。しかし、巨大な柱と相撲を取るかのように、びくともしない。


むしろ、ノームドの怪力によって簡単に引き剥がされ、ドンッと押し出されてしまった。僕は放り投げられた人形みたいに吹き飛んで、背中からアスファルトの上に叩き付けられてしまう。


頭を打ったわけではないが、目がチカチカして意識が飛んでしまいそうだ。


先生の言う通りにしたけど全然ダメじゃないか、と立ち上がろうとしたが、ノームドが目の前に。


そして、あの太い腕が振り上げられる。


やばい、死ぬかも……!

と体が固まってしまった瞬間だった。


「先輩、伏せて!」


女の子の声が聞こえたかと思うと、目の前が真っ赤になり、反射的に顔を伏せた。


同時に、ごぉっと風が吹いたかと思うと、物凄い熱に体を撫で付けられる。なんだこれ、火に晒されたんじゃないかってくらい、熱いし息苦しくて熱いぞ?


その熱から逃れるために、アスファルトの上を這って離れると、何とか自然と呼吸できるようになった。安全を確保できただろう、と振り返ってみると、驚くべきことにノームドの上半身が炎に包まれている。


あの熱さ、本当に火だったんだ!


「先輩、立って! こっちに」


誰かが僕の腕を引っ張る。

その力に助けられ、何とか立ち上がって、さらに離れてから炎に包まれるノームドを見た。


あのまま、倒せるんじゃないか?


「大丈夫でしたか、先輩」

「あ、ありがとう」


助けてくれたその人の方へ振り返る。

彼女は小柄な女の子で、その身を黒いローブで包んでいた。もしかして……。


「魔法科の人……?」

「あ、はい。魔法科一年六組の猪原芹奈です」


控え目な声で名乗る彼女……芹奈ちゃんが頭を覆っていたフードを取ると、ツヤツヤな黒髪ボブが露わとなった。僕は何だか彼女に魅入られてしまう。それは、彼女が美女だということはもちろんなんだけど……。


「どこかで見覚えが……」


僕の呟きは芹奈ちゃんには聞こえなかったのだろう。彼女は怯えるように顔を歪めてから「ご、ごめんさない、先輩」と、なぜか謝った。


「私の魔法では制圧できなかったみたいです」


彼女の視線の方へ目をやると、炎で身を包まれていたノームドが。しかし、炎は次第に小さくなり、やつが体を揺すると、残り火は振り払われてしまった。


そうか、今のが魔法か。


流石は異世界。

とんでもないものがあるぞ。


……が、あれを受けてもノームドは倒せなかったってことは、やっぱりあいつはとんでもない化物じゃないか。


これは、なかなかのピンチだ。

だけど、今までもこういうシビアな場面が何度かあったはず。そのとき、僕はどうしていたんだっけ。


「落ち着け、誠。相手の動きをよく見るんだ」


セレッソの声が頭の中で響く。

そうだ、僕の動体視力は群を抜いて優れているんだ。今までも、ピンチのときはそれで切り抜けてきたんだから。


深く息を吸い込む。

大丈夫。ちゃんと見える。


自分に言い聞かせて、ゆっくりとだが着実に迫りくるノームドを見据えた。


やつが自分の射程距離に入るまで、足を進めたかと思うと一度停止する。


いつ次の攻撃がやってくるのか。


この瞬間はいつも逃げ出したくなるほど恐ろしいが、乗り越えたときこそ、勝機があると僕は知っているはず。


よく見ろ。

踏ん張れ。

勇気を出すんだ。


ノームドの右手が持ち上がり、一瞬後ろに退いてから、思いっ切り振り回してきた。


「おりゃああああーーー!」


振り回されたノームドの腕を潜るようにして、やつの腰に組み付く。


完璧なタイミングだ。

今度こそ、ぶん投げてやる!


と、思いっ切り力を入れたが、ドンッと側面から衝撃があったかと思うと、またも僕の体は宙を浮いていた。


そして、アスファルトの上を転がる。超痛い……。


「先輩!」と芹奈ちゃんが心配する声。


完璧だと思ったのに、なんて情けないのだろう。


そして、一つ気付いたことがある。

あいつをぶん投げるって、僕なんかにはできないことなのでは……?

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。


「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ