◆イワン、アッシアの歴史の中で⑬
「すまない、魔法攻撃で吹っ飛ばされて、骨を折った。俺には精密射撃は無理だ」
魔弾使いのヒルは、腕を抑えながら、イワンに言う。
「俺が弾丸に魔力を込め、これに装填する。魔力が抜ける十秒以内に、お前が引き金を引け。できるか?」
「分かった」
イワンは頷く。あまりにイワンが平然と頷くものだから、ヒルは不安げに顔を曇らせる。
「本当にできるのか?」
「できるかどうかは分からない。ただ、命の危険を感じたら、自分のやるべきことに集中するだけだ」
これは、イワンが戦争へ行く前、クララにかけられた言葉だ。イワンの後ろに立つクララは覚えていないようだが、ヒルはその言葉に衝撃を受けたようだ。
「さすがは英雄だ……。どんなときも覚悟が決まっている。よし、あんたに賭けてみよう」
イワンは長筒の銃を構える。
「あれだ。城門の前に落ちている、あの箱の中に爆弾が入っている。あれを撃ち抜けば、きっと爆発して仲間たちがワクソーム城の中へ突撃できるはずだ」
どれだけの距離があるだろうか。離れたところに見える城門。その手前に、両手で抱えられるほどの箱が、確かにあった。
「よし、魔弾を込めるぞ。十秒以内に撃たなければ、込めた魔力が霧散してしまうから、そのつもりで撃て」
「分かった」
イワンは軽く受けたレクチャー通りに、片膝を付いた状態で銃を構えた。そして、隣のヒルが弾丸を込める。
「いいな。失敗しても構わらない。落ち着いて、引き金を引け。それだけを考えろ」
躊躇うことなく引き金をひくイワン。しかし、それはイワンの尋常ではない集中力だからこそ為せるのだったが、ヒルから見れば雑に撃っただけに見えた。
「馬鹿、もっと狙いを定めろ!」
怒鳴るヒルにクララが言う。
「ヒル、よく見て! 箱をかすめたわ!」
「……確かに、箱に弾痕があるぞ。お前、天才か?」
「弾を込めてくれ」
ヒルは少しも動じる様子もないイワンの顔を見て、一息飲む。
「……おう。頼んだぞ」
第二射はわずか右に逸れる。が、悪くない。
「行ける! 行けるぞ! イワン、お前なら次で決められる!」
そういって、ヒルが弾を込めた瞬間……彼の体が後ろへ吹っ飛んだ。クララの悲鳴。
「イワン、ヒルの顔に氷の矢が刺さっているわ! ……死んでいる」
どうやら、二度の射撃で敵に位置がばれたのか、魔法によって攻撃されたらしい。さらに、氷の矢がイワンたちを襲った。
「イワン、撃って!」
クララが叫ぶ。ヒルが死んでは、弾丸に魔力を込める人間はいない。しかも、残り数秒で撃たなければ、弾に込められた魔力は失われる。
そんな大きなプレッシャーの中、イワンは不動の心で引き金をひいた。
一瞬遅れて轟く爆音。
衝撃と熱波がイワンを襲うが、彼は素早くクララの身を守った。
「イワン……貴方、やったのね?」
「そうみたいだ」
クララは、イワンの顔を両手で挟むと、自らの唇を押し当ててきた。
「貴方、本当に最高だわ!」
その直後、革命軍はワクソーム城に突撃。当時の大統領と司令官を捕らえ、後にアッシア革命と言われる戦いは終わる。
ただ、最後まで西に現れた政府軍の援軍を全滅に至らせた、謎の爆発の正体は分からぬままだった。
それから間もなくして、新政府軍が誕生する。イワンも自然と参加することになり、重要なポストを与えられた。マカチェフは言う。
「本当の平和が訪れた。……これで、混乱状態が収まったら、俺たちも幸せな家庭を築く日がやってくるのかもな」
「……幸せな家庭とは、どのように築くのですか?」
「何を言っているんだ。まずは好きな女にプロポーズする。そこからに決まっているだろう」
その日の夜、イワンは指輪を買いに出かけた。渡す相手は、もちろん決まっている。
はるか昔から……決まっている。
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




