◆イワン、アッシアの歴史の中で⑫
イワンはあくまで普通の男である。格闘術に長けているわけでも、魔法の扱いに優れているわけでもない。ただ、普通の人よりも、少し記憶力と集中力があるだけだ。そのため、戦いの中ではほとんど役に立たなかった。
「イワン、下がれ! そんなところに突っ立っていたら、殺されるだけだぞ!」
マカチェフの声を聞いて、初めて自分が危険な場所に立っているのだと気付く。慌ててマカチェフの方へ走ると、すぐ後ろで大きな爆発音が聞こえ、体が前方へ投げ出された。
「おい! 大丈夫か!?」
「中尉殿、何も聞こえません!」
「くそ、なぜ城門が開かない! 仕掛けた爆弾が作動するはずじゃないのか!?」
革命軍はワクソーム城を前にして、苦戦を強いられていた。城門さえ突破してしまえば、中になだれ込んで、戦局を変えられるはずだが……。しかし、想定外の出来事はこれだけではなかった。
「マカチェフ、イワン!」
仲間が駆け付け、二人に報告する。
「大変だ! 西側から敵の援軍が向かっている! あと三十分もしないうちに、ここに到着するぞ」
「援軍だって!? ただでさえ劣勢なのに……」
すると、別の仲間が駆け付けた。
「イワン、助けて! 城門が開かない理由が分かったわ!」
間近で爆発があったせいで、耳がおかしくなっていたイワンだが、その声だけは聞き逃すことはない。
「どうした、クララ」
「時限装置が壊れたのか、魔力が足りないのか、城門に仕掛けた爆弾が爆発しなくて……魔弾使いのヒルが射撃で爆発させようとしたのだけれど、彼が怪我をしてしまって、引き金を引けないの!」
「イワン、お前がいけ! お前が魔弾使いの代わりに銃を撃つんだ」
マカチェフは言う。
「お前にはツキがある。この絶望的な状況で奇跡を起こせるとしたら……お前だけだ!」
「しかし、中尉殿! 敵の援軍が向かっているのでは??」
「それは俺が死んでも何とかしてやる! とにかくお前は城門を開けてこい!」
イワンは頷く。
「……クララ、魔弾使いのところまで、案内してくれ」
イワンとクララは戦場の中を走った。
「ねぇ、敵の援軍が向かっているの??」
クララもそれがどれだけ絶望的なことか理解しているようだ。
「そうらしい。だけど、中尉がどうにかしてくれる」
「……どうにかなるわけないじゃない!」
声を上げるクララ。
どうも、感情的になっているようだが、その原因が何か、イワンには分からなかった。
「イワン、この状況を理解しているの? 今だって、城門が開かなければ、私たちはなぶり殺しにされるかもしれないのに、援軍まできたら、どうしようもないわ!」
「何となるさ」
「何とかなるわけがない!」
イワンはどうにかクララの気持ちを収めたかったが、何一つ方法が思いつかない。一つあるとしたら……。
「女神様に祈った。きっと何とかしてくれる」
「女神様? こんなときに何を言っているの?? 正気じゃない!」
そのとき、強烈な爆発音が二人を撫でつけた。続いて熱波と衝撃波が。イワンはクララを庇い、それが止むと、何があったのか確認するため、すぐに立ち上がった。
ちょうど西の方。空に十字の光が見えた。
「あれは……??」
クララもそれを目にしたらしい。
「……きっと、女神様だ」
「そんなわけ……」
楽観的とも言えるイワンの態度に、クララは反発しそうになったが、空に浮かぶ十字の光から何かが放たれる瞬間を見た。そして、先程よりは小規模だが、西の方角で爆発が起こる。
言葉を失うクララだったが、腰にあった無線機に通信が入った。
『マカチェフだ! 西に現れた敵の援軍が正体不明の爆発で全滅したそうだ。聞こえるか??』
「はい、中尉殿! 我々は何をすればいいのでしょうか??」
『馬鹿か! すぐに城門を開けるんだ!』
何が起こったのかは分からない。しかし、奇跡が起こったのは確かだ。イワンとクララは顔を見合わせる。
「貴方と一緒なら、この革命も成功する。そんな気がしてきた」
「女神に祈った効果もあったのかな」
「きっとそうね。行きましょう!」
イワンは自分の手を引き、走り出したクララの笑顔を見て、とても美しいと感じるのだった。
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