表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

269/352

◆イワン、アッシアの歴史の中で⑩

「テレビで貴方を見たの。何度も見たわ」


クララはワクソームという都会で、どのようにイワンと再会したのか、その経緯を話した。


「今すぐにでも会いに行こうと思ったけど、今の貴方は有名人。どうすれば会えるのか、分からなかった。でもね、昨日のニュースで見たのよ、貴方が除隊したって」


クララは笑顔を見せる。


「除隊した貴方は、きっと故郷に帰ろうとする。そして、私たちの故郷に向かうバスは、ここしかない。ここで待っていたら、貴方に会えるんじゃないかって思って、朝一に出かけたの。そしたら……」


「僕がいた?」


クララが嬉しそうに頷くものだから、イワンも嬉しくてたまらなかった。


「君の推理力は素晴らしい。もしかして、今は探偵として活躍しているの?」


クララは首を横に振る。


「それも楽しそうだけど、違うわ。今は……革命軍の一員として活動しているの」


「カクメイグン?」


どこかで聞いた言葉だ。

いや、聞いたことはあったが、どこか自分とは関係のないものだと思っていた。しかし、イワンは初めてその意味を知ろうとする。


「つまり、何をしているの?」


「そうね……。少しだけ、歩きながら話さない?」


バスがくる時間は既に過ぎていた。だが、バスが時間通りにくることはない。後数分したら、もしかしたら……。それでも、イワンは迷うことはなかった。


「もちろん。僕も君とワクソームを歩きたかった」


二人はワクソーム城をぐるりと回るように歩いた。そして、イワンはクララの話に、ただ耳を傾ける。


「いまアッシアが周辺諸国に攻撃を仕掛けているのは知っている? マノテーブ戦争の中、アッシアは痩せ細った国力で、アキレムと拮抗した戦いを続けた。停戦の話しは、アキレムからだったそうよ。


だから、アッシアは再び強い国力を取り戻したと考えたみたい。それで、かつての国土を取り戻そうと息巻いて、周りに戦争を仕掛けている。せっかく戦争が終わったのに、また戦争を始めているのよ」


優し気なクララの顔が鋭くなり、怒りを露わにする。


「そんなの、許せないわ。貴方だって、テレビでそう言っていたでしょ?」


正直、イワンは国が戦争をしようが、何も感じることはなかった。戦争は悲しいもの。自らの体験から、そういう考えはあるが、目の当たりにしない限り、何も感じられないのだ。ただ、クララがどんな言葉を求めているのか、イワンは理解していた。


「……戦争は悪いことだ」


彼女は満足げに頷く。


「そう、だから私たち、革命軍は戦うの。政府を……アッシアを変えなければならない。そして、世界を平和にする。私は……そういう活動をしているのよ」


「立派だ」


クララは微笑むと、そこからは黙り込んでしまった。だから、二人は無言でワクソーム城の周りを歩き続けたが、一周した辺りでクララが躊躇いながらも口を開く。


「ねぇ、イワン。よかったら……貴方も革命軍に入らない?」


最初、イワンは答えなかった。クララの誘いが嫌だったわけではない。ただ、彼は国のために戦うよりも、すぐにでもクララと故郷に帰りたいと思っていたのだ。


だが、口を閉ざしたイワンの表情を見て、クララは焦りを覚えたようた。


「ねぇ、イワン。貴方の影響力って凄いものなのよ。アッシアの若者たちは、みんな貴方の発言に注目して、共感している。なぜなら、愛国心があって平和を守るべきだと伝え続けているから。それこそ、民衆が求めている言葉なのよ!」


そうなのだろうか、とイワンは心の中で首を傾げる。


「貴方の力が必要なのよ、イワン。今、貴方が私たちに力を貸してくれたら、きっとアッシアは良い国になる。強くて高潔な心を持った国に。そして、私たちのアッシアが世界を牽引するの。素敵だと思わない?」


イワンはかつての父の言葉を思い出す。父はアッシアこそ世界一の国だと常々語り、周りから白い目で見られていたが、本当にそうなれば彼は喜ぶだろう。それでも、何も言わないイワンに、クララは説得を続ける。


「しかも、その先頭に貴方が立つとしたら、とても名誉なことよ。名実ともに英雄になれる。きっと、歴史の教科書に貴方の名前が乗り続けると思うの」


「…………」


それでも黙ったままのイワンに、クララは溜め息を吐く。


「それとも、イワン……貴方、何かやりたいことでもあるの?」


イワンは考える。彼にとって、国に帰ってやりたいことは、クララに会うことだった。


しかし、それは今達成したばかりだ。


そして、似たような問いをつい最近も投げかけられた気がする。


そうだ、あの日の夜、仲間たちと語り合った。自分はクララと会えたのだ。ならば、仲間たちの無念を払うという意味でも、自分が彼らの願いを形にするべきではないか。


「分かったよ、クララ。革命軍に参加する。そして、僕たち若い世代がアッシアを変えるんだ」


そのとき、クララが見せた笑顔は、イワンの心を強く打ち、その後の運命を決定付けてしまうのだった。

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。


「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ