◆イワン、アッシアの歴史の中で⑧
翌日、別の部隊と合流した。そのメンバーは、ほとんどがイワンたちよりも若い少年少女。話によると、新人の魔法使いらしかった。上官のマカチェフは言う。
「まだまともにコードも覚えていない、ひよっこたちだ。お前らの後方支援に回るそうだから、しっかり守ってやるんだぞ!」
役には立たないが、戦争も終盤を迎えていたため、経験を積ませるそうだ。要は消化試合に新人を出すようなものなのだろう。
そんな彼らを引き連れて、午前中の任務を終え、昼食の時間を迎えた頃だった。イワンは仲間たちと噂話に花を咲かせていると、コーミエが声を潜め、とっておきの情報を出してくる。
「どうやら、アキレムとの停戦交渉がまとまったらしい。あと数日で戦争は終わるらしいぞ」
ケイジーとオリベイラも喜びの声を上げそうになり、コーミエに制される。
「騒ぐな! 中尉に聞かれたらどうする!」
四人は呼吸を整えてから、小声で会話を再開した。
「じゃあ、後は何があっても生き延びることだけ考えればいいな」
「そうそう、マカチェフの野郎が無茶な命令出したら、断ってやろうぜ」
「おい、イワン。お前、クララのことを考えていたな?」
オリベイラに指摘され、イワンは微笑みを浮かべる。
「いや、今はこう思ってた。国に帰ったら、この四人で――」
揺れた。
そう感じた瞬間、イワンの意識はシャットダウンした。
「……きろ!」
声が遠くから聞こえる。
「イワン! ……きろ!」
誰かが呼んでいる。たぶん、マカチェフだ。
「イワン、起きろ!!」
「はい、中尉殿!」
イワンが顔を上げると、そこは……火の海だった。
さっきまで、キャンプで昼食を取っていたはず。
これは夢か?
いや、昼食を取っていたあの時間こそ、夢だったのだろうか?
「イワン! 逃げるぞ、早く立て!」
隣にいたマカチェフに肩を担がれ、何とか立ち上がるが、何が起こっているのか、いまだに理解が追いつかない。愕然としているイワンの耳元でマカチェフが叫ぶ。
「アキレムの野郎どもが、魔法を雨のように降らしやがった! また来るかもしれない。ここから、少しでも離れるんだ!」
「……でも、皆は? コーミエ。ケイジー、オリベイラはどこですか?」
「全員死んだ! お前たちのすぐ近くに火の玉が落ちたんだぞ。お前は頭を打ったみたいだが、傷一つない。女神様の加護があるのかもな!」
「……死んだ? 皆が?」
「考えるのは後だ! とにかく逃げるぞ!」
イワンとマカチェフは走った。が、すぐ後ろに敵兵士の気配が。
「大丈夫だ、イワン! このまま走れば、先日合流した魔法使いの部隊が待機するポイントにたどり着く。あいつらに魔法をぶちかましてもらえば、何とかなる!」
「しかし、彼らは新人ばかりなのでは?」
「馬鹿! 数名だがベテランだっている。俺たちを逃がすくらいのことはできるはずだ!」
マカチェフの言うことは、正しかった。ただ、正しかったのは半分だけ。合流した魔法使いの部隊は、イワンとマカチェフにこんなことを言うのだった。
「先程の魔法攻撃で、教官たちが戦死しました!! 僕たちは……初歩的な魔法しか覚えていないので……敵を迎え撃つなんてできません!!」
マカチェフは肩を落としたが、すぐに運命を受け入れたのか、口元に笑みを浮かべる。
「俺が囮になる。お前たちは別の方向へ逃げるんだ。運が良ければ……生き残れるはずだ」
新人の魔法使いたちは青ざめた顔で言った。
「僕たちにも何か手伝わせてください!」
「ろくなコードも覚えていない新米に何ができる! ……いいか? これは運命だ。お前たちは国に帰っても、自分を責めるなよ」
マカチェフが見せる優しさに、新人魔法使いたちは膝を付いて泣き出す。そんな彼らを憐れむような目でマカチェフは呟くのだった。
「せめて、魔法コードが書かれた魔導書でもあれば、こいつらに助けてもらえたかもしれんが……」
それまで、黙り込んでいたイワンが、ここで口を開いた。
「中尉、魔法コードならあります」
「あるわけないだろ。戦争中、本を片手に戦う馬鹿がいるか!」
「いえ、あります。ここに」
そう言って、イワンは自分のこめかみに指を置く。だが、マカチェフは理解できなかった。
「……何を言っているんだ?」
「私は学生時代、魔法コードを書き写すアルバイトをしていました。意味は理解できませんが、全部を記憶しています」
マカチェフの顔色が変わる。
「おい! 誰か紙とペンを持ってこい! 家族に手紙を書くための紙があったはずだろ! ありったけの紙を出すんだ!!」
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