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◆イワン、アッシアの歴史の中で⑥

スクールに通い始め、二年半が経過する。イワンにとって、クララという存在が当たり前になっていた、ある日のこと。彼女の友人の一人に声をかけられた。


「ねぇ、イワンくん。貴方、クララと仲が良かったわよね」


「ああ、僕にとって一番大切な人だ」


「……」


クラスメイトの女の子は少し複雑な顔をする。


「だったら、あの子に言ってほしいの。先輩と付き合うのはもうよせって」


「先輩?」


「……聞いてないの?」


女の子の話によると、クララは数か月前から一つ年上の先輩と交際を始めたそうだ。しかし、彼は悪い噂で有名な男だった。友人の彼女からしてみると、何とか助けてやりたかったそうだが……。


「私が言っても聞いてくれないの。ほら、彼女って陸軍の偉い人の娘なんでしょ? 昔から厳しく育ったせいで、今になってその反動が出てきているみたいで」


知らなかった。

交際相手の存在も、彼女の家に関する話も。


「分かった。僕から言ってみるよ」


「うん、上手く感じにお願いね」


その日、イワンはバイトの時間を遅らせ、クララが恋人と一緒にスクールから出てくるのを待った。辺りは暗くなり、ゼイアンに何と謝罪すべきか迷い始めた頃、クララが現れる。


彼女の友人が言っていた通り、交際相手も一緒だ。交際相手、と言うほどだから、きっとクララは笑顔で男と寄り添っているのだろう、と思ったが、実際は違った。


「どうして分かってくれないの? 私は卒業したらこんな田舎は出て、ワクソームへ行くの!」


「ワクソームに行って何をするんだ? ここにも仕事はある。わざわざ都会に行く必要はないだろ?」


クララは男と言い争っていた。イワンは初めてクララのヒステリックな声を聞き、あれは本当に彼女だろうか、と疑っていると、二人の会話はさらに白熱していく。


「貴方も男なら、人の自由のために立ち上がるべきよ。それとも、腑抜けだから一生田舎で暮らす? 自分の幸せだけを考えている人には、それがお似合いかもしれないわね!」


「……親に守られているだけの女が、生意気を言うな!」


男がクララに手を上げたとき、イワンの体は勝手に動いた。


「イワン?」


突然現れたイワンに困惑するクララだが、交際相手の男はさらなる驚きを覚える。なぜなら、無表情の男から繰り出された拳は、あまりに予備動作がなく、不意に自分の鼻っ柱を強く叩いたからだ。


「な、何をするんだ」


そこから、喧嘩になったが、何度殴られても動じないイワンに、交際相手の男が恐怖を覚え、立ち去るに終わった。


「君に恋人がいるなんて、知らなかった」


イワンが言うと、クララは苦笑いを浮かべる。


「紹介すべきだった?」


イワンは首は縦とも横とも言えるような方向に、二度振られた。


「よくない噂がある男だって聞いた。別れるべきだ」


イワンが単刀直入に言うと、クララは笑顔のまま頷く。


「そうかもしれない。でもね、彼といると自分の何かが満たされて行くのを感じるの。何度殴られても、彼が与えてくれる何かは……私を野性的にして、生きる実感まで与えてくれる。だから、離れられないかな」


「……殴られたのは、初めてじゃない?」


クララは曖昧なリアクションを見せ、詳しいことは言わない。


「君は暴力を嫌っていたはずだ。変わってしまった?」


「ううん。今だって暴力は嫌い。だから、ワクソームに行くの」


「ワクソーム?」


「そう、アッシアの首都、ワクソーム。あそこには、暴力から人を解放して、自由を広めるために戦っている人がたくさんいる。私のその一人になって、自分みたいに不自由に苦しむ誰かを助けてあげたい」


「クララは自由じゃないの?」


「イワンは自由を感じている?」


「……どうだろう。蛇口をひねれば水が出るし、お腹が空けば冷蔵庫の中の食べ物を取り出す。割と自由に生きていると思う」


クララは真面目に自由を語るイワンを笑った。


「そうね。確かに、貴方は一番自由かもしれない」


「クララが不自由を感じているのなら、僕が君に自由を与えるよ。困ったことがあれば、僕のところにきて」


すると、クララはイワンの手を取り、温かい笑顔を見せてくれた。


「ありがとう。そうする」


だったら、彼女が自分から助けを求めるまで、何もすることはない。イワンはそう考え、残りのスクール生活を送った。


スクール生活も残りわずかとなったとき、イワンの生活を支えてくれた、魔法使いのゼイアンが死んだ。イワンはスクールを卒業後、彼のところで引き続き働くつもりだったため、今後の生活をどうすべきか、決断する必要があった。相談相手は、もちろんダロンだ。


「困ったな……。俺の農場の稼ぎだけじゃあ、お前に十分な金をやることはできないし」


二人で途方に暮れると思われたが、いつものようにダロンに車で送ってもらった後、家のポストを見てみると、


そこには入隊募集のお知らせが入っていた。


その頃、アッシアはマノテーブ戦争の泥沼化に直面していた。イワンは思う。


自分が入隊し、強いアッシアを取り戻したら……父が帰ってくるかもしれない、と。


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