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【神話の戦い】

魔王が空へ飛び立つと同時に、衝撃波と瓦礫が飛んできた。


「皇!!」


僕は皇の姿を探すが、何とか無事のようだった。どさくさに紛れて、皇を担いでこの場から離れようと、僕は忍び足で移動を開始したのだが……。


「待ちたまえ、勇者くん」


イワンに引き止められてしまう。


「せっかくだ、魔王様の力を見ていくと良い」


「魔王の力……?」


確かに興味はあるが、僕は今にも動き出しそうな、フィリポたちが気になって仕方がなかった。


「大丈夫だ。私が命令しない限り、彼らは動かない。さぁ、こっちに来て外を見たまえ」


イワンは窓に顎先を向けた。敵を信じるわけではないが……好奇心に押され、僕は皇を担いでから、イワンの横に移動する。イワンの動きを警戒しつつ、窓の外を見ると……。


「あ、あれは……?」


空に、巨大な炎が浮かんでいた。


それは十字架の形をしたオブジェのようでもあるが、炎であることを証明するように、揺らめいている。


そして、所々からがぼろぼろと何か落ちているのだが、それは地上に落下すると、炎となって周囲を焼いてしまう。まるで、小型の爆弾だ。


「凄いだろう? あの十字架のような炎が魔王様だ」


宙に浮かぶオレンジ色の炎を見てイワンが言う。


「すべてを焼き尽くすまで、そう時間はかからない。ほら、オクト人が逃げ出している。ははっ、どんなに走っても無駄なのに」


イワンが言う通り、人々は少しでも炎から離れようと、逃げ惑っていた。しかし、オレンジ色の十字架から落ちる炎は、広範囲に渡り、外の人たちの逃げ道を奪っていく。


悲鳴が、人たちに絶望が、アッシアの大地を埋め尽くす。


こんな光景……とても現実とは思えない!!


「や、やめてくれ!」


あの中に、仲間が……。

もしかしたら、城から脱出したハナちゃんが、雨宮くんやニアだっているかもしれない。


それなのに、燃えている。

どんどん燃えてしまう。


「おい、やめろって!!」


「待て。もっと凄いものが見れるぞ。ほら、炎の中心部、光っているだろう?」


イワンが指をさすのは、十字架の炎の真ん中。確かに強い光を発している。


「たぶん、狙いはオクトの移動要塞だ。一瞬だから見逃すなよ」


ワクソーム城からかなり離れた場所に、オクトの移動要塞がいくつも並んでいる。あれは、どれも巨大で頑丈な要塞だ。ちょっとやそっとじゃ破壊できないと思うけど……。


カッ、と十字の炎が激しく光ったかと思うと、オレンジ色の光が線を引くように、真っ直ぐと移動要塞の一つに向かって伸びる。そして、それが触れた瞬間、移動要塞は爆発を起こし、周辺を巻き込んだ。


遅れて、爆音と衝撃が到達する。圧倒的な破壊。異世界にきてから、何度も信じられないものを見てきたけど……これはもう度が過ぎている。


世界が、スケールが違い過ぎる。それに……あの巨大要塞は!!


「頼む、あの中のどれかにフィオナがいるかもしれないんだ! もうやめてくれよ!!」


なりふり構わず、懇願する僕だったが、イワンは顔色を変えることはなかった。


「何を言っているんだ? 私たちは敵同士だろ? これから、魔王様はオクトを全滅させる。そういう契約なんだ」


待て。待て待て待て!!

セレッソのやつ、魔王のことをファーストステージのボスとか言っていたよな。


どこがファーストステージだよ。

こんなの、どう考えてもラスボスだろ!?


「はははははっ」


突然、イワンの乾いた笑い声が響いた。


「勝った。またアッシアが勝った。見てくれているかい、父さん! 中尉殿! そして、クララ! またアッシアが勝つ。僕が勝たせるんだ!」


窓の外に広がる炎を見て笑うイワン。


それを見て、僕が思うのはたった一つ。


こいつは狂ってる。


こうしている間にも、外は地獄が広がり続けてるんだ。このままじゃ、本当にどうしようもない。だけど、僕に何ができるって言うんだ??


「さて、勇者くん」


イワンが僕を見た。


「君と喋るのも飽きてしまった。そろそろ終わりにしよう」


「終わりにする、って……?」


「これから、フィリポたちに命令する」


イワンの人差し指が僕に向けられる。


「フィリポ366からフィリポ371は君を殺すように、と。そして、フィリポ371からフィリポ400は城内に入った勇者たちを殲滅させる」


城内に入った勇者たち……。

それって、それこそ……ハナちゃんや岩豪、狭田が危ないじゃないか!


皇がこんなことになっちまったのに、他の仲間まで……


そんなこと、あっていいわけがない!


「やめてくれ! 待ってくれよ! お願いだから!!」


「やめる? 待つ? これは戦争だよ。誰もやめはしないし、待つこともない。意志を通したいなら、実力を示すんだな」


冷たいイワンの目。


ちくしょう、こいつを倒せば、僕がぶっ殺してしまえば、戦争は終わるのに。何もできないのかよ。


悔しさに、僕はイワンを睨みつけるが、そこに感情らしきものはない。まるで、人形のように、ただ目の前にいる僕を眺めている。


そんなやつを見て、僕は激しい吐き気に襲われた。


こいつは、異常だ。

何も考えず、世界を地獄にできる。

なんでこんなやつが……。


「お前……なんなんだよ。おかしいだろ、何でそんな普通の顔で、これだけのことできるんだ? 頭おかしいよ! 何があれば、お前みたいなやつがこの世に生まれてくるだよ!!」


感情のまま、出てきた言葉を叩き付ける。すると、意外にも……イワンは困惑したように、かすかに首を傾げて呟くのだった。


「……さぁ、なぜだったのかな」


そのとき、イワンの横手にあった古めかしい黒の固定電話が音を立てた。

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