【死闘】
白いブレイブアーマーが僕の体を包むと、ありとあらゆる感覚がこれまで以上に冴えて行った。
「これがプロトタイプと最新型の違いか」
僕は確かめるように、何度か拳を握りしめてみた。これなら、いける。
僕の戦意を察知したのか、フィリポがゆっくりと構えて、慎重に接近してきた。
僕も同じように構え、間合いが詰まり切る瞬間を待つ。先手を打ったのは僕だった。
確信を持って踏み出しつつ、右ストレートを放つ。フィリポは片腕でブロックして、素早い反撃の拳を突き出す。
だが、僕はその動きを読んでいた。わずかに屈み、フィリポの拳を躱し、即座に左フックを返す。
僕の目の前で、フィリポが崩れた。
僕にとって最強の男が、糸が切れた操り人形みたいに。だが、倒し切るには至らない。フィリポは素早く立て直すと、両手で僕を押し、距離を作ると同時に左ハイキックを放ってきた。
「そのパターンも、知っているんだよ!」
身を逸らすと、目の前をフィリポの爪先が通過する。そして、フィリポが姿勢を整えるよりも速く、右のストレートを打ち込んでみせた。
フィリポの手の平に遮られ、完璧に顎を捉えることはなかったが、十分に脅威を感じさせただろう。
「やれる! 新型のブレイブアーマーなら、フィリポだって倒せるぞ!」
だって、僕はフィリポの攻撃パターンを知っている。さっきまでは、分かっていても体が追いつかなかったが、今は十分に渡り合えるだけのパワーとスピードを手に入れた。どんな攻撃だって、対応できるはず!
「うわっ!!」
唐突に飛んできたフィリポの蹴り。あと少し反応が遅れていたら、あの刃のような脛で、胴を裂かれていたかもしれない。
つまり、油断はできないってことだ。相手はフィリポなんだから……!
フィリポの速いジャブが二発。しかし、一発目は距離を外して躱し、二発目は手の平で打ち払って、その軌道を逸らすことに成功する。
届かない攻撃に焦れたのか、フィリポは力任せに左ストレートを放ってきた。だが、僕はフィリポの右側に回り込んで拳を躱しつつ、その腰に組み付いてみせる。
「これはどうだ!!」
僕はフィリポの足を刈ってバランスを奪い、転ばせたところで馬乗り状態を勝ち取る。
「尊敬する男でも、躊躇わないぞ!」
僕は下にいるフィリポの顔面に、容赦なく拳を叩きつけた。一発、二発、三発と!
だが、フィリポだって必死だ。
凄まじい力で抵抗し、上に乗る僕を振り落とした。すぐに立て直そうとする僕だったが、フィリポの方が早い。立ち上がった僕の顔面に強烈な右ストレートが飛んできた。
「ぐがっ!!」
あまりにも強烈な一撃に、今まで出てこなかったような声が漏れる。慌てて反撃のフックを振り回したが、手応えがない。
しまった!
と冷静さを取り戻したが、既に遅かった。
身を低くして、僕のパンチを躱していたフィリポが、至近距離から拳を放つ。それは、これまでにないくらい的確に、僕の鳩尾を突き刺した。
「ご、ごえ……」
内臓が出てしまいそうだ。
この場でうずくまり、そのまま痛みに嘆きたかったが、それは死を意味する。だから、僕は後ろに下がるしかなった。
少しで良い。呼吸を整える時間が欲しかった。
欲しかったのに!!
フィリポのミドルキックが襲ってくる。僕は反応しきれず、それを受けてしまった。
「いっ……!!」
いってぇぇぇ……。
これ、たぶんあばら骨が折れた。いや、骨を折ったことないから分からないけど、折れたとしか思えないくらい、めちゃくちゃ痛い!!
幸いなことに、刃と化した脛ではなく、爪先部分が当たったおかげで、致命傷には至らなかったようだ。
でも、少し体を動かすだけでも、呼吸するだけでも痛い。痛すぎる!!
ここで畳み込まれたら、僕は為す術もなかっただろう。ただ、フィリポも動かない。動けないみたいだった。さっき、馬乗り状態から打ち込んでやったパンチのダメージが、まだ抜けていないんだ。
「次で最後だ」
僕はフィリポに言う。
「お前のキックと僕のキック……どっちが強いのか、もう一度勝負しようじゃないか」
今までまったく感情がないように見えたフィリポだが、このとき少しだけ頷いたように見えた。
僕たちはお互いのキックが届く距離で足を止める。
選択肢は二つ。
先にキックを打って勝つ。
もしくは、先にキックを打たせて、避けてからキックで倒す。
どっちにしても、今まで以上のパワーとスピード、そして集中力が必要だった。だとしたら、切り札を使う瞬間は、このときだ……!!
「ブレイブモード……!!」
僕の体を眩いほどの光が包み込むのだった。
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