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【ブレイブチェンジ】

イワンは窓の外を見て、戦況を確認しているようだった。


「アニアルークの旧政府軍だけでなく、アキレムまで援軍を出したようだね。それでも、戦いは五分と五分。いや、我が軍がわずかに優勢か」


イワンは僕たちの方に振り返った。


「仲間が駆け付けると思ったら、大間違いだよ。君たちが功を焦って、少数で城の中に入ってきたのが悪い。外にいるオクトの戦士だって、仲間を助ける余裕はないのだから」


皇が体を引きずるようにして、フィリポから距離を取る。が、容赦ない一撃を繰り出され、ブレイブチェンジが解除された皇が、僕の前に倒れる。


「皇、大丈夫か!?」


何とか体を起こそうとするが……。


「お、おい……これって!!」


皇の背中を支えたとき、生暖かい感触があった。驚いて自分の手を確認してみると、真っ赤に染まっている。


「皇??」


よく見ると、顔が青白い。もしかして……。


「どうやら君を助けたとき、フィリポの蹴りをまともに受けたようだね」


イワンが淡々と状況を語るが……たぶん、その通りなのだろう。


「馬鹿、僕なんて庇うなよ。お前が……お前しか、あいつを倒せないんだぞ」


皇が何か喋ろうとする。が、その口から血が吹き出してしまう。


「おい! 大丈夫なのか? 大丈夫だよな??」


皇はわすかに笑った。


「僕も……僕しか戦争を終わらせられない、と思って、ここにきた、つもりだった、けど」


「じゃあ、どうして僕なんかを!?」


「友達を……助けたい、って思った」


「お、お前……」


「どっちにしても、僕のプラーナは空っぽで、これ以上は戦えなかったけどね……」


「ウソ言うなよ。お前はめちゃくちゃ強いじゃないか。アッシアを倒したら、次はアトラ隕石も無害化して、世界に平和をもたらす、最強の勇者だろ!? 本当は、フィリポだって、イワンだって、倒せるはずなのに……」


あれ、視界が霞む。

僕は泣いているのか??


皇なんて、憎たらしいやつだって、ずっと思ってたはずなのに……。


「約束、守れそうにないね」


「な、何言っているんだよ」


「戦争が終わったら、教室で顔を合わせて……普通の話をする、って」


「やめろよ、死んじゃう人みたいなこと、言うなって」


それに、約束約束って……。本当、ハナちゃんに似てるところあるんだよな……。


「なんで僕じゃないんだ。逆だったら……僕が怪我して、皇が動けたら。……負けることだってなかった!!」


ダメだ、涙が止まらない。悲しいのか、悔しいのか、怖いのか、よく分からないけど、涙が溢れて……。


「僕みたいな、弱いやつじゃなくて……皇が!!」


目を閉じる。

この気持ち、どうすれば晴れる??

どうすれば報われるんだ!


ダメなのか。こんな気持ちのまま、僕たちは死ぬしかないのか??


「ちくしょう……」


しかし、呟いた僕の腕を皇が掴んだ。思わず目を開き、皇を見ると、力強い視線でこっちを見ていた。


「君は、弱くない」


「……え?」


「僕に勝った君が、弱いわけないだろう」


「お前に、勝った……?」


「そうだ。ランキング戦で僕に勝って、本当の勇者になった君が、ここで負けるわけがない」


「な、何を言っているんだ? それに、だって、この状況じゃあ……」


すると、皇が左腕のブレイブシフトを外し、僕に差し出す。


「君がやれ」


「……」


「君がやるんだ、神崎誠! アミレーンスクールの勇者が、この戦争を終わらせるんだ!」


僕は震える手で、皇のブレイブシフトを受け取る。


「二分だ。二分だけなら、ブレイブモードが使える。使いどころを、間違えるなよ」


僕は何かを確かめるように、皇のブレイブシフトを強く握りしめ、呼吸を繰り返した。そして、壊れたブレイブシフトを取り外す。


「……分かった。見てろよ、皇。絶対に僕が勝つ。だから、死ぬなよ!」


皇を壁際に座らせ、僕は立ち上がった。


「話しは終わったかね?」


イワンの声。振り返ると、やつはただ無表情に僕を見ていた。


「ああ、待っててくれて助かったよ。ここからが、本当の戦いだ。目にもの見せてやる」


「それは楽しみだ。フィリポ365、やれ」


僕は皇を見る。

小さく頷く皇を見て、僕は決意した。

速攻でフィリポを倒して、この戦争を終わらせてやる。


そしたら……約束、守ってやるから!


「フィリポだろうが、今の僕は倒せないぞ。行くぞ、皇」


左腕に皇のブレイブシフトを装着し、僕は叫んだ。


「ブレイブチェンジ!!」


今こそ……決戦のときだ!!

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