綿谷華の場合 / たまには守られるのも
アナの拳は銀の閃光となって華を穿つ。が、その一撃とすれ違うように煌めく赤い閃光。それは、アナと衝突すると、彼女を包み込んだ。
「捕まえたぞ!!」
「な、なんだ今のスピードは!?」
華のタックルにブレイブモードの力が加われば、いかに強化兵とは言え、いかに距離が離れてたとは言え、その目で捉えることはできない。華はアナを押し倒しただけでなく、立ち上がろうとする彼女の後ろに回ると、その背にしがみついていた。
「は、離れなさい!」
「お前が死んだら離れてやる!」
華は後ろからアナの首に腕を回そうとする。一気に締め上げれば、強化兵でも呼吸を奪われ、意識を失うだろう。が、アナも歴戦の兵士。華の腕を掴んでそれを防ぎ、体を揺すって彼女を落とそうとした。
「その程度で逃げられると思うなよ」
さらに腕に力をこめる華。アナの首がさらに絞められていく。
「どうだ、笑ってみろよ!」
「あああっ……」
アナの体が痙攣し始める。
が、アナは後ろにしがみつく華の眼前へ拳を向けた。
(くそ、この状態であれがくるのか!)
アナの拳が槍のように伸び、華の顔面を貫こうとした。至近距離ではあったが、狙いは大雑把だ。華は顔を逸らしてそれを躱してみせる。頬をかすめる鋭い切っ先を感じ、華は思った。
(時間はかけられない!)
華は両足をアナの腰にしっかりと絡め直す。
「これで終わりだ! ブレイブスラッシュ!!」
華の両腕両足から、魚のヒレに似た刃が飛び出すと、電動ノコギリのように振動して、甲高い音を立てる。
「ぎゃあああぁぁぁーーー!!」
それに重なるアナの悲鳴。
しかし、華の刃がどこか鈍い。どうやらアナは体を硬質化させ、華の必殺技を耐えようとしていた。
「バラバラに切り裂いてやる。覚悟しやがれ!」
華は自身のプラーナを、ありったけ刃に注ぎ込む。すると、刃の切れ味は増し、より激しく振動した。アナは首と胴を斬り裂かれ、血を吹き出しながら、さらなる絶叫を吐き出す。それでも、華は容赦しなかった。なぜなら、アナの拳が再び華の前に置かれたからだ。
(すぐにくたばれ! こっちだって、これ以上は無理だぞ!)
アナの拳が変質する。
華だって、それを躱す体力が残されていない。あとは槍のように飛び出せば、華の顔面を貫いただろう。
しかし、アナの動きが制止すると、ゆっくりと膝を付き、前のめりに倒れた。華は息を切らせながら、ゆっくりとアナから離れる。彼女は体を痙攣させ、床を赤く染めて、これ以上は動く気配がなかった。
(あー、しんどかった)
華はブレイブチェンジを解除し、よろよろと歩き出す。
(あれだ。あの言葉、恥ずかしくて絶対に言いたくないと思ってたけど、こんなときくらいは、言っておくか)
華は大きく息を吐くと、消え入りそうな声で呟く。
「正義執行……」
ゆっくりと壁際まで移動する華だったが、そこで力尽きて、座り込む。
(これじゃあ、ブレイブ・オブ・ブレイブは無理だな。叔母さんのこと喜ばせたかったし、誠のやつにも自慢して、皇には……姉の威厳を見せてやっても、良かったんだけどなぁ)
もう体が動きそうにない。最終決戦に向けて温存すべきだった力は、何一つ残っていなかった。
「でも、それは他も一緒か。やっぱり、私がやらないと」
仲間たちも無事とは限らない。だとしたら、自分が敵の大将を討たなければ。
「いたたたっ」
ダメだった。
全身が悲鳴を上げて痛みを訴える。
どうしたものか。このまま眠ろうか。でも、戦争が終わらなかったらどうする?
「ハナちゃん!!」
そんなとき、彼女を呼ぶ声があった。
(そうか……。任せてみようかな。守ってやる、って思ってたけど、守ってもらうしかない。あいつに……誠に勇者の使命を託そう)
華は駆け寄る誠に、微笑みを浮かべた。
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