表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

246/352

綿谷華の場合 / 勇者の本質

こうして、ジュリアはヘリコプターの副操縦士として……もとい、ダーク・クノイチXとして、敵施設潜入作戦に参加する。もちろん、最初こそ拒否するフィオナだったが、支援金のことをちらつかせると、渋々と言った様子で受け入れるのだった。


華は心を切り替え、アッシアの首都であるワクソームの市街を駆けた。ただ、ときどきジュリアからメッセージを確認する。


『目立った接触なし』

『むしろSと接触多め』

『Kは思ったより快男子』


どうやら状況を報告してくれているらしい。王女の動向を監視することに、何度も罪悪感を覚えるが、報告のほとんどは華を安心させるものだった。しかし……。


『ごめんなさい。FとKを見失いました』


この報告に、華の集中力を鈍らせてしまう。さらに……。


『無事合流。ただFとKの間にただならぬ気配あり。引き続き監視を続行する』


ただならぬ気配?

どういうことだ……?


気になって仕方がなかったが、何かあればジュリアが間に入ってくれるだろうと、戦いに集中する。おかげで、周りの勇者たちに後れを取ることなく、敵の本拠地である、ワクソーム城前にたどり着けた。そして、そこは神崎誠やフィオナたちと合流予定の場所でもある。


しばらくして、神崎誠の姿を発見した。


「誠ー!」


思わず、大声を出し、彼のもとへ駆け寄る。


「ハナちゃん!」


彼も笑顔で応えてくれたが、すぐに暗い表情を見せた。この思い詰めたような顔は、何かがあったのだろう。たぶん、戦いの中で何か感じることがあったのだ。


「何かあったのか?」


「な、何でもないよ」


本人は首を横に振るが、絶対に何かある。人のことを言えないが、彼の強さは感情に左右られるところが大きい。一人にさせるわけにはいかなかった。


それに、第二次オクト・アッシア戦争と言われる、この戦いも決着が近い。だとしたら、敵も強引な手段を使ってくることも考えられるだろう。今までより、危険度は高いはずだ。


「ここからは何があるか分からない。私から離れるなよ」


そう言って腕を引っ張ると、少しだけ笑顔を見せた。


「絶対、二人で戦い抜こうね」


「当たり前だろ」


これまでだって二人で厳しい状況を切り抜けてきた。たぶん、ジュリアが言った通りで、こういうときこそ、絆が深まるのかもしれない。だとしたら……。


「神崎誠。貴方は戦う必要はありません」


しかし、神崎誠を引き止める声が。言うまでもないが、フィオナだった。


「だけどさ、この流れは絶対に僕も参加すべきじゃないか? そうじゃないと、おかしいだろ」


神崎誠が自分の戦いたいという意思を伝えるが、フィオナは拒否する。


「この流れとは、どの流れですか? そんな流れ、誰も感じていませんよ」


しかし、華には分かる。

神崎誠は強い意志を持って戦いに臨もうとしていることを。


きっと、彼は大きな矛盾を感じている。もしくは、報われない誰かのため。許されるべきではない、悪の存在を感じているのだ。それなのに……。


「貴方は私の傍にいなさい。これは命令です。ほら、こっちに来なさいよ」


フィオナが神崎誠の手を取り、引っ張って行く。その瞬間、華の体は勝手に動いた。


「……なんのつもりですか?」


鋭いフィオナの視線。

華は無意識のうちに、神崎誠の腕を取り、自分の方へ引っ張ろうとしていたのだ。


「綿谷華。どうして神崎誠の腕を掴んでいるのですか? 私の判断が間違っている言いたいのですか?」


「そうでは、ありません」


「では、その手を離すように」


「よろしい。では(みな)のもとへ向かいなさい。いいですね?」


「……はい」


少し離れて、神崎誠とフィオナのやり取りを眺める。


どうしよう。

今度こそ割って入る?

でも、勇者として王女に口を利くなんて……。


こうしている間に、フィオナは神崎誠を自分のものにするのだろうか。どうしようもない力の前に、仲を引き裂かれてしまうなんて。せめて、抗うことくらい許してほしいのに。


己の無力に俯く華だったが……。


「ハナちゃん、お待たせ」


神崎誠が戻ってきた。自分のところに。


「私は分かってたよ。誠がこんなところで退くやつじゃねぇってな」


「ハナちゃん……」


華の強がりに、神崎誠は思った以上に目を輝かせている。自分の気のせいかもしれない。思い上がりなのかもしれない。だけど、彼が自分を選んでくれたのだ。そんな風に感じた。


「私だって、フィオナ様に負けるつもりはねぇからな」


「え? なんだって?」


「なんでもねぇよ!」


戦いが終わったら、ちゃんと約束を果たそう。戦いが終わったら、もう少し素直に想いを伝えてみよう。戦いが終わったら……。

それなのに……。




それなのに、アナのハイキックが再び華を襲った。ガードで受け止めるが、視界が点滅する。打撃を受けないため、タックルで組み付こうとするが、アナの膝が反応した。もし、タックルに行っていたら、あれにやられていただろう。


圧倒的な強さ。

やはり、これは一つでも間違えたら命を落とす戦いだ。


「……だからと言って、私がびびると思うなよ」


華の口元に、自然と笑みが浮かぶ。それは恐怖によるものではなく、歓喜によるものだ。


「私は勇者だ。強い敵を前にしたら……ぶちのめしたくなるもんなんだよ!」


華は左腕にある腕輪を握り、叫んだ。


「ブレイブチェンジ!」


華の戦いも終局を迎えようとしていた。

「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。


「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ