綿谷華の場合 / 勇者の本質
こうして、ジュリアはヘリコプターの副操縦士として……もとい、ダーク・クノイチXとして、敵施設潜入作戦に参加する。もちろん、最初こそ拒否するフィオナだったが、支援金のことをちらつかせると、渋々と言った様子で受け入れるのだった。
華は心を切り替え、アッシアの首都であるワクソームの市街を駆けた。ただ、ときどきジュリアからメッセージを確認する。
『目立った接触なし』
『むしろSと接触多め』
『Kは思ったより快男子』
どうやら状況を報告してくれているらしい。王女の動向を監視することに、何度も罪悪感を覚えるが、報告のほとんどは華を安心させるものだった。しかし……。
『ごめんなさい。FとKを見失いました』
この報告に、華の集中力を鈍らせてしまう。さらに……。
『無事合流。ただFとKの間にただならぬ気配あり。引き続き監視を続行する』
ただならぬ気配?
どういうことだ……?
気になって仕方がなかったが、何かあればジュリアが間に入ってくれるだろうと、戦いに集中する。おかげで、周りの勇者たちに後れを取ることなく、敵の本拠地である、ワクソーム城前にたどり着けた。そして、そこは神崎誠やフィオナたちと合流予定の場所でもある。
しばらくして、神崎誠の姿を発見した。
「誠ー!」
思わず、大声を出し、彼のもとへ駆け寄る。
「ハナちゃん!」
彼も笑顔で応えてくれたが、すぐに暗い表情を見せた。この思い詰めたような顔は、何かがあったのだろう。たぶん、戦いの中で何か感じることがあったのだ。
「何かあったのか?」
「な、何でもないよ」
本人は首を横に振るが、絶対に何かある。人のことを言えないが、彼の強さは感情に左右られるところが大きい。一人にさせるわけにはいかなかった。
それに、第二次オクト・アッシア戦争と言われる、この戦いも決着が近い。だとしたら、敵も強引な手段を使ってくることも考えられるだろう。今までより、危険度は高いはずだ。
「ここからは何があるか分からない。私から離れるなよ」
そう言って腕を引っ張ると、少しだけ笑顔を見せた。
「絶対、二人で戦い抜こうね」
「当たり前だろ」
これまでだって二人で厳しい状況を切り抜けてきた。たぶん、ジュリアが言った通りで、こういうときこそ、絆が深まるのかもしれない。だとしたら……。
「神崎誠。貴方は戦う必要はありません」
しかし、神崎誠を引き止める声が。言うまでもないが、フィオナだった。
「だけどさ、この流れは絶対に僕も参加すべきじゃないか? そうじゃないと、おかしいだろ」
神崎誠が自分の戦いたいという意思を伝えるが、フィオナは拒否する。
「この流れとは、どの流れですか? そんな流れ、誰も感じていませんよ」
しかし、華には分かる。
神崎誠は強い意志を持って戦いに臨もうとしていることを。
きっと、彼は大きな矛盾を感じている。もしくは、報われない誰かのため。許されるべきではない、悪の存在を感じているのだ。それなのに……。
「貴方は私の傍にいなさい。これは命令です。ほら、こっちに来なさいよ」
フィオナが神崎誠の手を取り、引っ張って行く。その瞬間、華の体は勝手に動いた。
「……なんのつもりですか?」
鋭いフィオナの視線。
華は無意識のうちに、神崎誠の腕を取り、自分の方へ引っ張ろうとしていたのだ。
「綿谷華。どうして神崎誠の腕を掴んでいるのですか? 私の判断が間違っている言いたいのですか?」
「そうでは、ありません」
「では、その手を離すように」
「よろしい。では皆のもとへ向かいなさい。いいですね?」
「……はい」
少し離れて、神崎誠とフィオナのやり取りを眺める。
どうしよう。
今度こそ割って入る?
でも、勇者として王女に口を利くなんて……。
こうしている間に、フィオナは神崎誠を自分のものにするのだろうか。どうしようもない力の前に、仲を引き裂かれてしまうなんて。せめて、抗うことくらい許してほしいのに。
己の無力に俯く華だったが……。
「ハナちゃん、お待たせ」
神崎誠が戻ってきた。自分のところに。
「私は分かってたよ。誠がこんなところで退くやつじゃねぇってな」
「ハナちゃん……」
華の強がりに、神崎誠は思った以上に目を輝かせている。自分の気のせいかもしれない。思い上がりなのかもしれない。だけど、彼が自分を選んでくれたのだ。そんな風に感じた。
「私だって、フィオナ様に負けるつもりはねぇからな」
「え? なんだって?」
「なんでもねぇよ!」
戦いが終わったら、ちゃんと約束を果たそう。戦いが終わったら、もう少し素直に想いを伝えてみよう。戦いが終わったら……。
それなのに……。
それなのに、アナのハイキックが再び華を襲った。ガードで受け止めるが、視界が点滅する。打撃を受けないため、タックルで組み付こうとするが、アナの膝が反応した。もし、タックルに行っていたら、あれにやられていただろう。
圧倒的な強さ。
やはり、これは一つでも間違えたら命を落とす戦いだ。
「……だからと言って、私がびびると思うなよ」
華の口元に、自然と笑みが浮かぶ。それは恐怖によるものではなく、歓喜によるものだ。
「私は勇者だ。強い敵を前にしたら……ぶちのめしたくなるもんなんだよ!」
華は左腕にある腕輪を握り、叫んだ。
「ブレイブチェンジ!」
華の戦いも終局を迎えようとしていた。
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