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皇颯斗の場合 / 天才の技、届かず

そして、一瞬止まった皇に、ピエトルの左フックが飛んでくる。ハンマーで横殴りにされるような一撃は、やはりガードしてみせても、やはり意識が刈り取られてしまいそうだ。


「皇!」


神崎誠の呼びかけに、何とか冷静さを取り戻して、距離を取ってから、深い呼吸を繰り返す。焦るな。でも、次こそはダメージを与えてみせろ。自分に言い聞かせ、構え直した。


一方、ピエトルは淡々と距離を詰めてくる。皇は不意打ちのつもりでタックルの姿勢を取ると、ピエトルは膝を突き上げるような素振りを見せた。


(タックルを仕掛けていたら、やられていた……)


背につたう冷たい汗。

それでも!


皇はタックルの動作から、今度は右回し蹴りでピエトルの側頭部を狙う。ピエトルは最低限に体を逸らしてそれを躱し、皇の体勢が戻るよりも先に、突進する動作を見せたが……。


皇は打ち終わった足を地に付けると同時に、反対の足を跳ね上がらせ、後ろ回し蹴りを放つ。竜巻のような皇の連続回し蹴りは、ピエトルのこめかみを捉えた。


「す、すごい!!」


それを見て興奮した声を上げる神崎誠だが、皇は勝ったとは思えなかった。実際、ピエトルの冷たい目は皇を見つめている。


瞬時に繰り出される、皇の鋭いタックル。それを受け止めたピエトルは、先程のダメージなどなかったかのように、恐ろしいほどの力で押し返してくるが、皇もしつこく絡みつく。十秒ほど、もみ合う展開が続いたが、皇が足をかけ、ついにピエトルを倒した。


「凄いぞ、皇! 行けえぇぇぇ!!」


(言われなくても……)


皇は素早く上のポジションを取る。が、起き上がろうとするピエトルの力は強い。


(立たせるものか!)


皇はピエトルの顔面を殴りつけるが、手の平で防がれ、ダメージには至らない。強引に立ち上がるピエトル。だが、皇もただでは終わらなかった。


「今だ!」


素早く背後に回り、皇はピエトルの胴に両腕を絡みつけて拘束する。


「任せろ!」


神崎誠が飛び出した。

ピエトルは凄まじい怪力で、皇の両腕を引き離そうとする。


だが、皇はプラーナを集中させ、必死にピエトルの動きを封じた。


「ブレイブ、キック!!」


神崎誠の空中回し蹴りがピエトルの側頭部を捉えた。


「やったか!?」


しかし、皇の腕を引き剥がそうとする、ピエトルの力は少しも弱まっていない。そして、ピエトルは拘束を解き、背後の皇へ振り向くと同時に、強烈な右フックを放つ。皇は身を低くして躱しつつ、距離を取りながらも、勇者では使えないはずの技……魔法を使ってみせた。


手の平から放たれる炎。それはピエトルを包み込むが……。


「十分だ」


これまで傍観していた、イワンが口を開いた。


「最強の勇者、皇颯斗でもピエトル386を止めることはできない。それが分かっただけで、私は十分だ」


確かに、ピエトルには皇の魔法は効いてなかった。あれだけ燃え盛っていた炎は、ピエトルに火傷を負わせることもなく、消滅してしまう。イワンは腕時計を一瞥した後、ピエトルに指示を出した。


「ピエトル、私は魔王様を迎えに行く。彼らは殺しても構わん」


ピエトルが頷くと、イワンは最初から勇者たちと遭遇したことなどなかったかのように、自然な足取りで皇たちから遠ざかって行った。


「……ここは僕が一人でやる」


皇は神崎誠に言った。


「だから、君はイワンを追いかけろ」


「でも……」


「ここでピエトルを倒せなくても 、イワンを捕えれば戦争は終わる。それにピエトルを止められるのは、僕だけだ」


二人は別々の役割を担う決断を下すのだった。

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[気になる点] 「ここでピエトルを倒せなくても 、イワンを捕えれば戦争は終わる。それにイワンを止められるのは、僕だけだ」 皇くんのこの台詞、「ピエトルを止められるのは、僕だけ」かなと思ったけど、ピエ…
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