皇颯斗の場合 / 新旧最強対決
皇は分かっていた。この戦い、二対一ではあるが、そこに優位性はまったくない、と。なぜなら、神崎誠が装着するブレイブアーマーは何世代も前のプロトタイプ。最新の強化技術を施されたピエトルを前に、通用するものではないからだ。
「よし、もらった!」
皇がピエトルを正面から迎え撃つ間に、背後に回る神崎誠。彼による渾身のハイキックがピエトルに打ち込まれるが……。
「うげぇっ!」
ピエトルは軽く身を捌いて躱し、神崎誠の足を掴むと、軽々と放り投げた。ただ、攻撃の後は誰でも隙が生じる。皇がそれを見逃すわけがなかった。
神崎誠を投げたばかりのピエトルに向かて、真っ直ぐ右ストレートを伸ばす。狙いはピンポイントで顎。が、ピエトルは必要最低限に身を逸らして、それをやり過ごすと、ハンマーを振り回すような右の拳を返してきた。
大ぶりのはずが、あまりに速い拳に、皇も避け切れず、腕で受け止めるしかない。ガードの上からでも脳が揺れるような衝撃。それでも、皇は瞬時に反撃の拳を突き出すが、やはりピエトルには当たらなかった。
それもそのはず、ピエトルはランキング戦で一度も頭部に攻撃を被弾しなかったことで有名なのだ。
(打撃戦では分が悪いのか……!)
皇はもう一度ピエトルの顔面に向かって拳を放つ動作だけを見せ、即座にタックルで腰に組み付く。すぐに足をかけて倒し、上から殴りつけるつもりだったが……皇の足がわずかに浮く。それを認識した途端、彼の体は宙に投げ出されていた。
こっちが倒すよりも先に、技ではなく、力で投げ飛ばされたらしい。廊下の上を勢いよく転がる皇だが、遠く離れていたはずだった神崎誠の横で、やっと停止した。
「今の動き、動画で見たピエトルそのままじゃないか……!」
神崎誠が絶望の呟きを漏らす。このままでは、敵の強さに飲まれてしまうだろう。
「いや、大したことはない」
皇は言う。できるだけ、余裕があると思わせるように。
「確かにパワーはあるけど、スピードは僕の方が上だ。向き合ってみても、イメージしていたピエトルほどじゃない」
「ま、マジかよ」
もう少し強気なところを見せれば、きっと神崎誠も勢いを取り戻すかもしれない。集中した彼の爆発力なら、勝機をつかむきっかけも作れるはず。
「僕が正面からぶつかる。君はやつが隙を見せたときだけ、攻撃を仕掛けるだけでいい」
「任せて……いいのか?」
皇が頷くと、神崎誠は笑顔を取り戻したようだ。
「よーし! 頼んだぞ、天才! 良いところだけ、僕がもらってやるからな!」
神崎誠は立ち上がると、プラーナを右足に集中させた。皇も立ち上がり、大きく息を吸い込む。目の前のピエトルを倒しても、恐らくは魔王という強敵がいる。どうしても、ここはブレイブモードを温存しておきたいところだが……神崎誠がどれだけやってくれるのか。
「ああ、君を信じるぞ」
今日だけで、二回目の言葉。
ただ、一回目よりも込められた想いは強い。
ピエトルが間合いを詰めてくる。皇も腰を落として、それに備えるが……次の瞬間にはピエトルが目の前にいた。想定よりも遥かに速い踏み込み。
だが、皇は反応してみせる。
いつもの皇ならば、敵の攻撃に合わせて反撃も確実に行うが、ピエトルのそれは避けるので精一杯だ。
次の一撃が来る前に、できるだけ距離を取らなければならないのだが……。
(でも、逃げるだけでは、こっちが疲弊するだけだ。どこかで……)
どこかで覚悟を決めなければ、勝機はない。そして、その覚悟は早ければ早いほど勝ちを掴むチャンスは大きくなる。
再びピエトルが間合いを詰めてきた。先程と同じく、凄まじい踏み込みに乗る強烈なパンチ。だが、臆することなく、皇はそれを躱してから反撃の一撃を放つ。
ドスンッ、と拳がピエトルの腹部に突き刺さるが……。
(なんて分厚い体なんだ……)
拳から伝わる手応えは異質な硬さである。タイミングは間違いないはずが、芯に届かない。
本当にこの男を倒せるのだろうか。
皇はそんな絶望感を初めて抱いた。
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