皇颯斗の場合 / 素直な気持ちを
たぶん、この反応は自分の発言が間違っていなかった、ということだろう。
「君は確かに大して強くない。だけど、周りにたくさんの人がいる。綿谷先輩も」
「……やっぱり、気にしてたのか?」
皇は頷く。
「僕は、強ければ強いほど、たくさんの人に認めてもらえると思っていた。そう育てられたんだ。でも、違うんじゃないかって、君を見ていると思う。だって、誰もが大して強くない君の周りに集まるから」
「大して強くない、って二度も言うなよ……」
「最近は、僕と付き合いが長い岩豪ですら、君と一緒にいて、自然と笑っている」
「あ、あれは……」
それは、当たり前のことなのだろう。皇は思う。岩豪も神崎誠とクラスメイトだ。そして、クラスメイトというものは、あんな風に自然と笑い合うもの。
「分かっているよ、僕がおかしいんだろ」
「おかしいって言うか……」
言葉に詰まる神崎誠。
たぶん、言葉を選んでいるのだろう。
「良いんだよ。僕がおかしいって、分かっているんだ」
話しはこれで終わり。そう思ったはずが、皇の口から言葉が勝手に出て行ってしまう。
「たぶん、君は時間をかければ、僕と同じことをできる。強くなれるよ。でも、僕はどうかな。君ができることを、自分にできるとは思えない。いつまで経っても、僕は独りだ。だから、君のことが羨ましんだよ」
それ以上は、皇も語ることはなかった。きっと、これは誰にも解決できないこと。神崎誠も、こんなことを聞かされて、困っているのだろう。しばらくは、黙ってワクソーム城の広い廊下を走り続けた。
が、彼はこんなことを言った。
「僕だって、ちょっと前まで皇と一緒だったんだ」
「……」
皇は黙って耳を傾ける。
「教室でいつも独りだった。どうすれば、皆と仲良くできるのか、分からなかったんだ。学校なんて一部の人間が楽しむ場所で、僕みたいなやつは異物どころか、一生ないものとして扱われるんだろうな、って」
学校、という聞きなれない言葉に、内心首を傾げる皇だが、おそらくはスクールのことだろうと、ただ耳を傾けることに徹した。
「だけど、こっちでは手を差し伸べてくれる人が、なぜか出てきたんだ……。気付けば学校生活だって苦じゃなくなっていた。むしろ、楽しいとすら思えたんだ。だから、たぶん何かの巡り合わせでしかないんだろうな」
どっちにしても、自分には縁のない話しだ。神崎誠が何を伝えようとしているのか。それを理解する必要もない、と思考を遮断しようとしたのだが……。
「あのさ、この戦いが終わったら……僕たち、もっと普通に話してみないか?」
「……普通に、って?」
「朝、教室で顔を合わせたら、おはようって言って、昨日の宿題ちゃんとやったのか……とか、次の授業さぼりたいなぁ、とか? よく分からないけど、そういう普通の話しだよ」
「……分かった」
それに何の意味があるのか、分からない。だけど、試してみてもいいのかもしれない。
「次、教室で会ったら……そうしてみる」
皇が頷くと、神崎誠は笑顔を見せた。誰かが自分に笑いかけたのは、いつぶりだろう。悪い気はしなかった。そして、こんなにも簡単なことだったのか、と皇は知る。思ったことを素直に言う。それが、人と人を結ぶ大きな一歩なのだと。
そこから、スムーズにワクソーム城の奥へ進んだ。動きが硬かった神崎誠も、実力を出し始めたからかなのもしれない。しかし、そんな彼らの前に、あの男が突然現れる。
「勇者、皇颯斗。ここで会ってしまうのは、私としても想定外だ」
ワクソーム城の長い廊下。
そこで、ばったりと顔を合わせたのは、冷たい目をしたスーツ姿の男、
イワン・ソロヴィエフだった。
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