皇颯斗の場合 / 本心
皇颯斗は、強化兵でもない敵に手間取る神崎誠を見て、味わったことのない複雑な感情に胸を撫でられていた。
「こ、こんちくしょう!」
やっとの思いで、神崎誠がアッシア兵を一人、打ちのめす。肩で息をしているということは、やはり苦戦していたらしい。そんな様子を見るたびに、皇は勇者決定戦で彼と戦ったときのことを思い出してしまう。
(どうして僕は彼に……)
続く言葉を打ち消す皇だが、つい口を出してしまった。
「また、力が入り過ぎている。リラックスして、相手の動きをよく見れば、すぐに倒せたはずだよ」
アドバイス、というわけではないが、常に実力を出し切れない神崎誠を見ると、もどかしくなってしまうのだ。しかし、そんな皇の言葉を聞いて、神崎誠は明らかに対抗心を込めた視線をこちらに向けてくる。
「分かっているよ。でも、こんな状況でリラックスできるわけがないだろ」
「こんなときだからこそ、冷静さが大切だと思うけど。ある程度、心に余裕を持たせないと、何事も柔軟に対応できない」
勇者として当然の心得を口にしたつもりだが、やはり神崎誠は気に入らなかったらしい。
「悪かった。僕はお前みたいに、余裕がないんだよ! 僕の気持ちは、才能があって顔も良いやつには分からないだろうけどな」
何を言っているのだろうか。理解ができない。ただ、自分の発言が彼を怒らせることは十分理解したので、口を閉ざすことにした。
しかし、綿谷華に合流するため、彼女がいる部屋につながる道を探していると、神崎誠がぶつぶつと呟きだす。
「僕だって、こういう状況だろうが冷静に敵を倒して、颯爽とハナちゃんの前に現れたいよ。……ほんと、何でもできるやつは羨ましい限りだ」
「……君、僕のことが羨ましいの?」
聞こえてないと思ったのか、神崎誠はわずかに顔を赤らめる。
「わ、悪いかよ。少しくらい僻んでもいいだろ」
そのとき、どんな気まぐれなのか自分でも分からないが、皇は思ったことを何も考えずに口にした。
「僕だって、君のことが羨ましいけど」
驚かそうなんて、微塵にも思っていなかった。それなのに、神崎誠は大どんでん返しを目の当たりにしたような、衝撃を受けた顔で硬直している。
「……どうしたの?」
なぜ、そんな顔をされるのか。理解できず、皇は素直な気持ちで聞いてみた。すると、神崎誠はやや警戒するように顔を強張らせながら答える。
「だ、だって……どうして何でもできるお前が、僕なんかを羨ましがるんだよ」
なぜだろうか。
皇は自然と口にした言葉の真意がどこにあるのか、自分でも分からずに考え込んでしまった。
「言いたくないなら、別にいいけどさ」
いつまでも黙っていると、神崎誠は肩をすくめて再び歩き出す。相手が「別にいい」と言うのだから、そのまま黙っていても構わない。今までの皇なら、そう思うところだが、この日は違った。
「僕は確かに何でもできるかもしれない」
ぼつり、と呟くと神崎誠が振り返って、その発言を咎めるように目を細めた。が、それに気付くことなく、皇は続ける。
「だけど、周りに誰もいないんだ」
そう、これが本心だ。口にしてみると、神崎誠の表情も変わっていた。
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