狭田慶次の場合 / せめて無事に帰りたい、けど
「狭田! やつはまだ動いている!」
どこにいるのか、岩豪の声。
そして、クマエフを確認すると、確かに目が合った。
クマエフの口から何かが飛び出す。それは、槍のように突き出された舌に違いなかった。額を狙った一撃だが、狭田は手の平でそれを受け止め、しっかりと握り込む。
「しつこいやつやな!」
今度は舌を引きちぎり、白目を向いたクマエフ。狭田は重たい体をなんとか立ち上がらせ、クマエフの額に向かって、剣の切っ先を落とした。
「正義……執行!!」
ブレイブモードの限界時間は、クマエフから生気が完全に失われるタイミングと、ほぼ同時。そして、狭田の力が尽きるのも、ほぼ同時であった。
「ほんまに、あかん……」
プラーナを使い果たし、今度こそ崩れ落ちる狭田だが……。
「おい、寝るな!」
岩豪が狭田を無理やり立たせる。
「勘弁してや……。もう空っぽやで」
「目的を忘れるな! 光の壁を破壊することだろ! 勇者のお前でなければ、あれは破壊できないんだ」
「そうは言ってもな……」
「根性を出せ! 男だろ? ここで倒れたら、一生情けないやつだと後ろ指をさされるからな?」
「わかったわかった! ほんなら見ておけ!」
狭田は岩豪を振り払い、千鳥足で光の壁を発生させる機械の前まで移動する。そして、深呼吸を何度も繰り返し、体内に残るわずかなプラーナを練り上げた。
「ほんまにこれで終わりや! どおおおりゃぁぁぁ!!」
プラーナを込めた拳の一撃は、巨大な機械を半壊させ、光を消し去ってみせる。
「どや、やってみせたで……」
今度こそ、今度こそ……と倒れる狭田。そこに岩豪が駆け付けるが……。
「よし、生きているな!! 俺は華……いや、綿谷先輩のところへ行く! お前もすぐに脱出しろよ。いいな??」
狭田の返事を聞かず、その場を去って行く岩豪。
「あいつ、良いように使ってくれたな……」
その必死な姿を見て、狭田も彼の想いを理解するのだった。静かになると、信じられないくらい瞼が重たくなる。このまま眠りたいところだが、敵地でそれはまずい。
とにかく、脱出しなければ……と立ち上がる狭田だったが……。
「待て待て。どこに行く」
引き止める声が。
振り返ると、翡翠色の髪の女……セレッソが立っていた。
「おお、お前か。どこ行くも何も、城の外へ出る。もう戦えそうにないからな……」
「ダメだ。お前に頼みごとがある」
「……はぁ?」
「私を誠のところへ連れて行け」
「誠? 神崎誠か?」
頷くセレッソ。
「無理無理。今の俺は、赤ん坊にすら勝たれへん。ブレイブオブブレイブも諦めたところや。せめて無事に帰らせてくれ」
「……ブレイブオブブレイブ」
セレッソは腕を組んで何やら考え出すが、パンッと手を叩いた。
「分かった。私の言うことを聞いてくれれば、お前をブレイブオブブレイブにするよう、フィオナに頼んでやる。だから、私を誠のところまで連れて行くんだ」
「……お前、何言うてんねん」
狭田がセレッソの言葉を信じるまで、それなりの時間を必要としたが、ここにオクト史上稀に見る、でこぼこコンビが誕生するのだった。
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