狭田慶次の場合 / 家族②
半分覚悟を決めつつ、病院へ駆け付ける。息を飲み込んでから、病室に入ると、妹たちに囲まれている母の姿が。最後に会ったときに比べて、あきらかに痩せていた。
「ああ、慶次。ごめんね、びっくりさせたね」
「ちょっとな。でも、母ちゃんなら平気やろって、そんなに心配してなかった」
狭田の強がりを理解しているのか、母はかすかに笑う。
「慶太、涼香……。ママと兄ちゃん、ゆっくり話したいって。一度出ようか」
妹が下の弟と妹を連れて、病室を出る。上の弟、慶介もそれに従ったが、狭田に含みをある視線を向けた。
「俺、暫定勇者になったぞ」
「応援、行けなくてごめんね」
母の声はか細い。
細い腕につながる点滴も痛々しかった。
「応援なくても大丈夫や。それくらい、俺は強いからな」
「でも、私も見たかった。慶次がお姫様からブレイブシフト受け取るところ」
「だったら次は来てくれや。たぶん、次こそ勇者決定戦のはずやから」
「そうね。慶次が勇者になる瞬間見るためにも、たくさん食べて、たくさん寝ておくわ」
「頼むで。それに、ブレイブオブブレイブになれば、とんでもない金が入るらしい。そしたら、母ちゃんをもっと良い病院に入れて、ちゃんと治すことだってできるはずや」
「慶次がブレイブオブブレイブ? 夢みたいやね」
「母ちゃんが信じてくれなかったら、誰が信じんねん」
それから、近況を報告など会話を交わしていると、母が顔をしかめた。
「どうした? 痛む?」
「ちょっとね。少し眠ろうかな」
「分かった。じゃあ、また連絡するわ。あとちょっとで勇者になるから、楽しみに待っといてや」
母は頷いたが、声はなかった。
二ヶ月後、狭田の防衛戦が決まる。
教師は言った。次はフィオナ様が来られる、と。
つまり、これに勝てば勇者の称号が与えられる、ということだ。
狭田は必死に練習した。
時間がない。少しでも強くならなければ。
「母ちゃんの体調、どんな感じや?」
決戦の二日前、妹に確認すると彼女は静かに答えた。
「最近は安定している。応援も行くって」
「ほんまか??よっしゃ、兄ちゃん絶対勝つから、母ちゃんのことよろしくな」
「うん」
こうして迎えた勇者決定戦。狭田は勝った。五ラウンドの死闘を戦い抜き、満身創痍の状態で競り勝ったのだ。
控室に戻り、すぐに妹へ電話する。
「お前ら見とったか? 母ちゃんと一緒に控室まで来てくれ! ブレイブシフト、母ちゃんに見せたる!」
「すぐ行くね」
妹たちが控室に訪れる。
しかし、そこには母の姿はなかった。
「母ちゃんは……?」
妹は涙を流しながら、首を横に振った。
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