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狭田慶次の場合 / 家族①

「慶次、ごめん。お母さん、病気になっちゃった」


それは、戦争が始まる前。まだ狭田慶次がカソオのスクールでランキングに入ったばかりのときのことだ。


「病気って……重いんか?」


狭田は練習場から寮に帰る途中、母からの電話に対し、できるだけ動揺を声に出さないようにしなければならなかった。


「びっくりしないでね」


母が告げた病名は、アトラ隕石の影響と考えられている、治療が難しく、どうしても余命について考えなければならないものだ。


「そうなんや。しんどいなら、俺帰ろうか?」


「ううん。大丈夫。慶介も京香(きょうか)もよく動いてくれるから」


「あいつらも根性ついてきたんかな」


「そうよ。だから安心して、慶次は早く勇者になってね」


時間がない。狭田は思った。


狭田の家は、女親だけで四人の子どもが育てられていた。幼いころから母の苦労を減らす方法ばかり考えていた狭田が、勇者を目指すのは自然なこと。勇者に登録されれば、一般的なサラリーマンよりも高額な給与が支給されるのだ。


母を楽させるためにも、弟や妹を食べさせるためにも、昔から腕っぷしに自信があった狭田にしてみると、一番手っ取り早い手段だったのだ。しかし――。


「お前、本当にやる気あんのか?」


次の日の練習は気持ちが入らず、コーチの青田に殴られた。


「それとも、ランカー入りして勇者気取りか? 言ったよな、お前は才能がないから、少しも気は抜けないし、練習も人一倍やる必要があるって」


「すんません」


頭を下げる。

母が病気なんです。それを伝えたら、青田は何を言うだろう。


たぶん……いや、絶対に「だったら、もっと練習しろ」と言うに違いない。実際、それが正しいと、自分も分かっている。


だが、ランカー同士の戦いは簡単なものではない。少し経って、自分より二つ上のランカーと対戦が終わると、顔はボコボコに腫れ、体はしばらく動かなくなった。


が……それでも勝てたのだから痛みより、安心感の方が強かった。


「見ろよ、母ちゃん。俺、地元のニュースで取り上げられてるで」


通話しながら、母に送ったニュース記事には「激闘!最注目は狭田慶次!」という見出しに、ガッツポーズを見せる狭田の写真が大きく載ったものだった。


「喧嘩ばかりのあんたが、こうやって人様に喜んでもらえるのは、私も嬉しいね」


母の声はまだ気力がある。

きっと、自分が勝ってさらに気力を与えられたら、病気だって治るはずだ。しかし、次のランキング戦に勝利したタイミングで、少し様子が変わった。


「よかった。がんばってな」


短い祝いの言葉。

しかし、すぐに電話は妹に変わる。


「兄ちゃん、ごめん。ママ、ちょっと疲れてるみたいやから、もう横になるって」


「大丈夫か……?」


「うん。ご飯は私が作ってるし、慶介もバイトでお金入れてくれるから、兄ちゃんは安心して練習してて」


「でも……」


「何小さい声出してんの? 勇者になってから何十倍にして返してくれればええやん。ママもそれが一番喜ぶよ」


「……そやな。もう少しだけ待ってろ。今回の対戦で三位にランクインしたし、たぶん次は暫定勇者決定戦や。本当にもうすぐや」


宣言通り、狭田は暫定勇者決定戦で勝利する。まずは母親と弟や妹を喜ばしてやろうと、家に帰ったが……。そこには誰もいなかった。


「なんで?」


すると、タイミングよく妹から電話が。


「京香、いま家の前やけど誰もおらん。どこいった?」


「兄ちゃん……」


妹の泣き声は、嫌な予感で狭田を満たす。


「ママ、お腹痛いって言って座り込んじゃって、そしたら血がいっぱい出て……!! だから、救急車を呼んで、今は病院に……」

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