狭田慶次の場合 / 帰宅絶望
「早く立て、狭田!」
狭田は言われた通り、すぐに立ち上がったが、その間に岩豪の巨漢が宙を舞う。
だだ、それに気をかけることなく、狭田は素早い踏み込みからパンチを繰り出し、クマエフの顎を捉えた。クマエフはよろめきながらも、腹から第三の腕を伸ばして、反撃を狙う。が、狭田は既に横へ回っていた。
「うおりゃあ!」
そして、強烈な左フックがクマエフの横腹に突き刺さる。
ぐっ、と呻き声を漏らすクマエフだが、動きを止めることはなく、手刀を振るって狭田の首を狙った。しかも、クマエフの手は硬質化し、刃のような切れ味を感じさせる。例えブレイブアーマーで守られていても、その手刀を受ければ大きなダメージは免れないだろう。
狭田は身を低くして、何とか避けるが、クマエフの膝が突き上がる。それもガードで防ぎつつ、体勢を立て直して、距離を取ろうとする狭田だったが……。
「なんだ!?」
身を低くした状態から、姿勢を戻すことができなかった。何かが狭田の頭を抑えつけている。混乱している間に、ガツッとクマエフの膝が狭田の顎を突き上げてきた。
その瞬間、狭田の視線は少しだけ上に向き、自分を抑えつける何かの正体に気付く。
「腹だけとちゃうんけ!!」
それはクマエフの肩口から伸びる第三の腕だった。どうやら、腹から出した腕を引っ込め、次は肩から出したらしい。狭田は自分を抑え付ける第三の腕を振り払おうとするが、二本の腕がそれを阻止する。そして、再び突き上げられる膝。
二度、三度と連続で膝を受け、狭田は意識を失いかける。
「どりゃあああーーー!」
それを繋ぎ止めるのは、岩豪のタックル。
生身ではなく、盾を前面に押し出した突進だ。それはクマエフを突き飛ばすと思われたが、三本の腕によってしっかり受け止められてしまう。
岩豪は人並外れた怪力の持ち主だが……強化兵を相手にしては、ただの人だ。軽く捻られ、第三の腕による拳の一撃を横腹に受けてしまった。たまらず、ガクッと膝を折る岩豪。
「たかが戦士が、私の前に立つなんて……愚かですよ」
クマエフが手を振り上ると、硬質化した手刀が現れる。そして、死の一撃が……。
「やらせるかーーー!」
クマエフを止めるのは、狭田による矢の如くの飛び蹴り。クマエフはそれを第三の腕に受け止めるが、その間に岩豪は体制を立て直した。
クマエフは獲物を逃がした苛立ちから、大きく舌を鳴らしながら、第三の腕で掴んだ狭田を床に叩きつける。バウンドしながらも素早く立ち上がり、一呼吸を置く狭田。
あいつを倒すには……。
落ち着いて作戦を考えようとするが、クマエフはそれを許さず、間合いを詰めてきた。
クマエフの手刀が横一文字に振るわれる。身を屈めて、それを躱すと同時に、二本目の腕が突き出されたが、何とか横に回って逃げてみせた。そんな狭田を追って、今度は腰の辺りから現れた第三の腕。
「何度も同じ手にかかるか、アホ!」
狭田は待っていた。
第三の腕が飛び出る瞬間を。
次に現れたら、へし折ってやろう。プラーナを両拳に集中させ、別々の方向から叩きつけてやるつもりだったが――。
第四の腕によって、阻止されてしまうのだった。
驚愕と共に反撃の一撃を受け、薄れる意識の中、狭田は思う。
おかん、やばいわ。
これは……帰られへんかもしれん。
「面白かった!」「続きが気になる、読みたい!」と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品の応援お願いいたします。
「ブックマーク」「いいね」のボタンを押していただけることも嬉しいです。よろしくお願いします!




