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狭田慶次の場合 / 待ち構える強敵

「やっと見つけたと思ったが……」


狭田たちは階段をひたすら降りた。


どれだけの下へ下へと進んだのか。それは語るにはあまりに単調で退屈過ぎるため、自分の英雄譚を伝える機会があっても、絶対に省くべきだろう、


と狭田が決心したところで……階段は途切れた。


そして、光の発生源であろう、巨大な太鼓を寝かせたような土台を見つける。しかし、そこには……。


「簡単に壊させてくれるわけがないよな」


巨大な禁断術の前に立つ、一人のアッシア兵士。彼は線の細い、優男のように見えたが、どこかナイフのような鋭さを感じさせる、嫌な気迫があった。


そして、勇者である狭田を前にしても、その男は穏やかな笑みを浮かべるのみ。それを見た岩豪が呟いた。


「やはり、強化兵か?」


「やろうなぁ」


岩豪の背中で大人しくしていたセレッソが、久しぶりに地に降りた。


「では、お前たちの出番だな。絶対に負けるなよ」


「俺たちの出番も何も、最初からお前は……」


そこまで言いかけて、狭田は口を閉ざす。強化兵の男が、禁断術から離れて、こちらに近付いてきたからだ。


「狭田慶次くんだね」


見た目通り、穏やかな声色。


「よう知っとるな」


「トップクラスの勇者はチェックしていたから。こうして、戦う機会があると思っていました」


「勉強熱心やなぁ。で、お前の評価としては、俺の強さはトップの中でも、どんなもんや?」


アッシア兵は顎を指先で摘まむような仕草を見せながら、遠慮がちな笑みを見せる。


「そうですねぇ。上の下。いえ、中の上……でしょうか?」


「……ちなみに、皇颯斗はどんなもんか?」


「上の上。最も警戒すべき勇者ですね」


それを聞いた狭田は吹き出すように笑い声を上げる。


「安心したわ。お前みたいなやつ、オクトでは何て言うか知ってるか?」


アッシア兵は首を傾げる。


「節穴っちゅうねん」


静かに笑顔を交わす狭田とアッシア兵。ゆっくりと二人の笑顔が消えると、狭田が左腕のブレイブシフトを掴んだ。


「ほなら、見せたるか。ブレイブチェンジ!!」


狭田の体が光に包まれると、金色のブレイブアーマーに身をまとう勇者に変化した。それに対し、アッシア兵は丁寧に頭を下げる。


「ちなみに、私はクマエフと申します。短い時間となりますが、よろしくお願いします」


クマエフが顔を上げると同時に、彼の体から蒸気が発せられる。そして、その中から全身灰色の異形の存在が飛び出した。


「おう、速攻で地獄に叩き落としたるわ!!」


狭田は地を蹴って、一気に間合いを詰めると、跳躍しつつ拳を叩き下ろした。しかし、クマエフは最低限に顔を横に逸らし、拳を躱すと同時に、反撃の一撃を放つ。それは狭田の腹部を貫く……


と思われたが、空を切るのみ。

狭田は器用に体をよじって躱したのだった。


「なめんなよ、アッシア兵が!」


狭田は着地と同時に左の拳を振るう。が、それはクマエフの顎を捉えることはなかった。


むしろ、狭田が強烈な一撃を受けたように後方へ吹き飛ばされる。


「そんなところから、腕が出てくるなんて、卑怯やぞ!」


狭田を迎え撃ったのは、クマエフの腹から飛び出た、もう一本の腕だった。が、それは既に腹の中に引っ込み、追撃のためにクマエフは飛び出していた。


跳躍したクマエフは、背中から倒れ込んだ狭田を踏み付けようと足を突き出す。それは狭田が体勢を立て直すよりも先に、到達すると思われた。


地下室に響く鈍い音。

だが、クマエフの一撃を受け止めたのは、狭田の体ではない。


「早く立て、狭田!」


狭田を守ったのは、岩豪が持つ巨大な盾だった。

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