狭田慶次の場合 / この女に関わるな
狭田が拳を握りしめ、何とか耐えていると、岩豪が動揺した様子で一歩前に出た。
「おい、見ろ!」
指先が示すのは、光の壁の向こう側。そこには綿谷華とアッシアの女兵士の姿が。
「あれ、強化兵じゃないか……?」
勇者の正装を着た、綿谷華を前にしても自信に満ちた態度。狭田も何度も対峙してきたから分かる。
「間違いないな。相手がどんなもんかは分からんが、綿谷を一人にさせるのはあかん。おい、セレッソ」
「なんだ?」
「お前、この壁のこと、知っているみたいやけど、壊し方も知ってるんか?」
「そうだな。非常に強力な攻撃で貫く。それが一番手っ取り早いが、ヴァジュラでも難しいだろうな」
「ヴァジュラっておとぎ話に出てくるあれか? もっと現実的な手段を話さんかい」
「この光を発生させる機械が地下にある。どこまで下に設置されているか分からないが、それを破壊すべきだ」
「そう言われてみれば、光はこの下から出てきたように見えた」
岩豪も納得したらしい。
「じゃあ、決まりや」
狭田はパンッと手を叩く。
「俺たちは下へ向かって、このしゃらくさい壁をぶっ壊す。だとしたら、皇のやつには綿谷と合流する手段を模索してもらった方が効率がよさそうだな」
皇たちがいる方へ移動し、狭田は光の壁の前に立つ。
「皇ーーー! 俺は下に行くーーー! お前はーーー、回り道を探してーーー、綿谷と合流せぇーーー!」
しかし、皇は反応を見せない。
「こっち見ろって!」
苛立つ狭田を見て、セレッソが呆れた声を出す。
「なんだ、気合が足りないんじゃないか。もっと頑張れ、イガグリ」
「誰がイガグリやねん!」
怒りの感情も乗せて、改めて叫ぶ。
「おーーーーい! 皇ぃぃぃーーー!」
全力で叫ぶが、やはり反応はなく、代わりにセレッソの溜め息が。
「そもそも、この壁は音も遮断する。聞こえるわけがない」
「それを早く言わんかい!」
岩豪の背中から引きずり落してやろうか、セレッソの方へ詰め寄る狭田。しかし、なぜが岩豪の方が勝ち誇ったかのように鼻を鳴らした。
「仕方ないな。ここは俺に任せろ」
狭田とすれ違うようにして、岩豪が前に出る。
「集中したいから降りてくれ」
岩豪はセレッソを降ろすと、壁の方に向かって何やら念じ始めた。何やら小刻みに揺れているが、その背中からはテレパシーでも送っているようにしか見えない。すると、壁の向こうの皇が頷く。
「なんや! 伝わったんかい!」
こちらに振り返り、頷く岩豪は得意気だ。
「皇は俺の相棒だからな。最近、行動を共にする機会が何度かあった程度のお前とは違うんだ」
なぜ、念じただけで伝わったのか。
なぜ、ここまで誇らし気なのか。
何だか釈然としない狭田ではあるが、そこは考えないことにした。
「よっしゃ! じゃあ、下に向かうぞ!」
やることが決まれば、後はシンプルに進むだけ。気合が入った狭田だが、その後ろではこんなやり取りが。
「おい、岩豪。背中に乗せろ。私は走りたくないからな」
「またか……。少しくらいは自分で歩いてくれ」
「でも、背中でおっぱいを感じられるから嬉しいだろ?」
「そ、そんなことない!」
セレッソと岩豪の会話を聞いて、狭田は背中に氷水を流し込まれるような感覚を覚えた。
セレッソとか言うこの女。
できるだけ関わらない方が良い。
俺は女の尻に敷かれるような男じゃないからな……と。
しかし、狭田はまだ知らないだけだ。
自分がこの女に、容赦なく使い潰されることを……。
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